産後パパ育休(出生時育児休業)のススメ
こんにちは。大野事務所の高田です。
今年(2025年)4月に、雇用保険給付の1つとして出生後休業支援給付金が創設されました。その名のとおり、これは子の出生直後の休業に対する支援を目的とする給付金であり、特に男性側の育児休業(産後パパ育休)の取得促進を狙いとしています。
筆者個人の意見としては、国がここまでお膳立てしてくれているわけですから、産後パパ育休を取得しない手はないと考えています。勿論、育児休業を取得する目的は給付金を得るためではありませんし、取得するかしないかの判断は、それぞれの家庭や仕事の事情にもよるかと思います。ですが、男性の育児休業の取得を阻む大きな要因が経済的なデメリットであったとすれば、今回の給付金制度の創設によって、そのデメリットはかなりの部分低減されるのではないかと感じます。ということで、今回は、特に新たにパパになる男性に向けて、是非とも産後パパ育休を取得しては如何でしょうか?というご提案になります。
1.出生後休業支援給付金とは
今回は、男性(パパ)側の目線で大雑把に説明します。
まず、支給要件は次のとおりです。
① 本人(パパ)が、出生後8週間以内に産後パパ育休または育児休業を14日以上取得すること。
② 配偶者(ママ)が、出生後8週間以内に育児休業を14日以上取得すること。または、一定の条件(専業主婦、自営業者、産後休業を取得など)に該当すること。
以上のとおり、②配偶者(ママ)側の要件を満たすことは、「または、」以降の存在により、基本的に容易であるといえます。したがって、①の本人(パパ)側の要件を満たすことがポイントになります。
支給額は、「休業開始時賃金日額×休業日数(28日が上限)×13%」です。
実際には、出生時育児休業給付金や育児休業給付金の初回支給時(67%)に上乗せされます。具体的な支給イメージについては、下図をご覧ください。
==厚生労働省リーフレット「2025年4月から『出生後休業支援給付金』を創設します」より==
2.育児休業取得時の社会保険料免除
育児休業を取得した場合には、社会保険料の免除が受けられます。以前に筆者のコラムで出生時育児休業の社会保険料免除をテーマを採り上げたことがありますが、産後パパ育休を取得することで最大2ヶ月分の免除が受けられますので、こちらも育児休業の取得に伴う経済的なデメリットを補填する制度としては大きな存在だといえます。
コラム「出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?」
3.給付額はどのくらいなのか
産後パパ育休を取得することによって出生後休業支援給付金と社会保険料免除の両方を受けられる場合、どのくらいの金額になるのかを示してみたいと思います。
(例)月給が30万円(休業開始時賃金日額が1万円)のパパが、産後パパ育休を2回(1回目:5日、2回目:15日)に分けて合計20日取得した場合
※社会保険料は、標準報酬月額:30万円とし、2ヶ月分の免除の要件を満たしているものとする
① 育児休業給付金(出生時育児休業給付金と出生後休業支援給付金)
(ア) 出生時育児休業給付金=1万円×20日×67%=134,000円
(イ) 出生後休業支援給付金=1万円×20日×13%=26,000円
(ア)+(イ)=160,000円
以上のとおり、合計160,000円の育児休業給付金が受けられます。
もし配偶者(ママ)も育児休業を取得している場合は、配偶者の育児休業給付金(67%)に出生後休業支援給付金(13%)が加算されます。加算額は、ママの月給も30万円(休業開始時賃金日額が1万円)の場合、1万円×28日×13%=36,400円です。
② 社会保険料免除
1ヶ月分保険料:42,315円(健康保険料:14,865円、厚生年金保険料:27,450円)
2ヶ月分保険料=84,630円(42,315円×2)
※協会けんぽ東京支部の令和7年度保険料額を基に試算
以上のとおり、合計84,630円の社会保険料免除が受けられます。
4.給与減額との比較
ほとんどの企業において、育児休業期間の賃金は無給です。
したがって、産後パパ育休を取得することによる家計への影響を考えるのであれば、給付面だけではなく、給与がいくら減額されるのかを考慮しなければなりません。育児休業期間中の賃金減額の計算方法は企業によりますが、もっとも一般的な例として、月の暦日数に対する休業期間の暦日数の割合で按分する方法で試算します。
(例)月給30万円のパパが、産後パパ育休を20日取得した場合
給与減額控除額=30万円×20日÷30日=20万円
さて、ここまでの計算結果をまとめます。
月給30万円のパパが産後パパ育休を20日取得した場合、減額される給与は20万円です。
これに対して、支給される育児休業給付金は160,000円、社会保険料免除は84,630円ですので、なんと、収入の方が44,630円(160,000円+84,630円-200,000円)も上回る計算になります。加えて、ママの育児休業給付金も増額される場合、前記の条件では36,400円の増額となります。つまり、産後パパ育休を取得したことによって、家計に81,030円のプラスをもたらすという試算結果になりました。
5.まとめ
男性の育児休業の取得を阻害する要因として、冒頭では経済的要因が大きいと述べましたが、実際には、他にも様々な要因(仕事を休めない、昇進が遅れる、職場の理解がない、そもそも育児への意識が低いなど)があると言われています。本来、育児休業を取得するメリットというのは、育児に積極的に関わることで家族(子どもや配偶者)の絆が深まるといったことを挙げるべきだとは思いますが、私たち社労士の立場としては、社会保険などの制度や給付面のメリットについても強調したいところです。
ということで、繰り返しになりますが、ここまで国の支援策が充実しているわけですから、是非とも産後パパ育休は少なくとも14日、できれば2回に分けて取得したらよろしいのでは、というのが筆者の意見です。
執筆者:高田

高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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