労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)
こんにちは、大野事務所の土岐です。
今回は、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会の資料として公開されている「労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)」を採り上げます。
この調査は労働時間制度等の見直しおよび労働基準法等の改正を検討する際の基礎資料を作成するため、労働時間制度等の実態を把握することを調査の目的として、厚生労働省労働基準局が2024年9月21日~10月21日に実施したものです。時間外労働時間、年次有給休暇の取得状況、連続勤務の状況、テレワークの実態を主な調査項目として、事業所(10,161(有効回収数4,921)事業所)および個人(17,789(有効回収数5,505)人)を対象に、郵送による調査票への回答またはオンラインシステムによる電子回答を得たものとなります。
調査項目の一覧は次の通りです。
【資料出所:厚生労働省「労働時間制度等に関する実態調査結果について(速報値)」(以下同じ)】
以下に筆者が気になった点を紹介します。
1.事業所調査
(1)労働時間の状況
36協定の締結状況に関して、「36協定を締結していない」・「無回答・不詳」が合わせて50.3%となっている点には驚きます。36協定を締結していない理由として、そもそも時間外労働・休日労働が発生しないからということであれば話は別なのですが、多くの事業所では一定の時間外・休日労働が発生するものと思われます。36協定の締結漏れがあったとしても時間外・休日労働手当は支払っているのかもしれませんが、適法・適正な運用という点からはその詳細な実態が気になるところです。
(2)年次有給休暇
2019年4月施行の改正労基法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)には、年5日の確実な取得が義務付けられていることは皆様ご存知の通りです。
この調査では、「年5日の時季指定義務を運用する方法として最も多いものはどれですか」という質問に対し、「労働者の取得に委ねて5日取得できている」と回答した事業所が52%、「労働者の意見を聞いた上で使用者が5日を指定している」が17.9%、「指定できておらず、労働者は5日取得できていない」が11.6%と続きました。選択肢の中から「最も多いもの」を選んで回答する形式ではあるものの、本調査からは依然として年5日の取得義務を十分に果たせていない事業所が多数存在する実態が明らかになりました。
2.個人調査
(1)所定労働時間・残業時間
所定労働日における所定外労働時間と、所定・法定休日の労働時間を合わせた1か月あたりの平均残業時間が45時間以下の企業は91.7%と、9割がこの範囲に収まっています。また、1か月の時間外労働時間の合計が45時間を超えた回数については、「0回」が87.4%、「1回」が2.9%、「6回以上」が2.8%という結果でした。
皆さんの職場では、いかがでしょうか?
(2)年次有給休暇
年次有給休暇を取得せずに残している理由を見ると、「病気や休養のために残しておきたい」が42.9%、「休むと職場に迷惑がかかる、または仕事に支障が出る」が17.9%、「現在の休暇日数で十分」が14.1%と続く結果となっています。
個人票の質問に関しても選択肢から選ぶ形式となっているため、回答者は最も近い選択肢を選んでいるということになりますが、一つの調査結果として「なるほど」と受け止められる部分もあるのではないでしょうか。
おわりに
筆者が気になった点は以上です。
今回の調査結果は速報値のため「数値精査中」との注意書きがありますが、おおよその実態を把握するには十分なデータといえるでしょう。また、厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会では、法改正に向けた検討が引き続き進められていますので、今後も分科会の資料に目を通しつつ、その動向を注視していきたいと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 労働時間制度等に関する実態調査結果について(速報値)
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001426231.pdf
■厚生労働省 第194回労働政策審議会労働条件分科会(資料)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_53211.html
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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