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私傷病休職をどのように規定すべきか

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

近年、私傷病休職に関連するご相談が非常に増えてきています。理由の1つとして、メンタル疾患そのものの認知が一般的に広まったことによって、メンタル疾患を事由とする休職制度を利用する労働者が増えてきている事情があるように思います。休職者への対応を検討する際には、必ずその顧問先様の就業規則を確認することになるわけですが、休職に関する規定をあらためて確認してみると、想定外の落とし穴や不備に直面することがしばしばあります。

 

今回は、私傷病休職に関して、よく問題となるポイントやその対処法等について考察したいと思います。

 

1.私傷病休職制度とは

 

休職というのは、労働者が特定の事由に該当した場合において、就労を長期的に免除する制度です。業務上災害による休業や育児・介護のための休業などを除いては法令上の根拠はなく、どのような場合に休職を発令するのかに始まって、その期間の長さや期間中の処遇などについては、会社が任意に定めるところとなります。

 

私傷病休職というのは数ある休職事由のうちの1つとして位置付けられますが、休職といえばほぼ私傷病休職を指すといっても過言ではないくらい、近年ではどの会社様においても適用機会が圧倒的に多くなっているのではないかと想像します。繰り返しになりますが、私傷病休職は法令に根拠のある制度ではありませんので、そのことが、各社の休職に関する規定が実にバラエティに富むものとなっている所以でもあります。

 

2.休職を発令するまでの期間

 

私傷病休職は、私傷病の療養のために就業が困難であると認められる場合に発令するわけですが、多くの場合、休職を発令するまでに一定期間(欠勤許容期間)が設定されています。これは、診断書の提出が休職発令の契機になるとすれば、その提出のタイミングによって休職発令時期にバラつきが生じ、結果として不公平な取扱いになることを防止する狙いがあるものと思われます。

 

この欠勤許容期間については、筆者の経験では、1~6ヶ月に設定されていることが殆どです。古い歴史のある大会社さんほど長くなる傾向にあります。この期間をどの程度に設定するのが妥当かということですが、筆者の感覚としては、1ヶ月で充分だと考えます。この期間はあくまでも休職を発令すべきか否かを見極めるためのものですので、1ヶ月もあれば充分に判断可能ですし、それをいつまでも欠勤という不安定な状態のまま放置しない方がよいというのが筆者の考えです。

 

なお、発令事由として「欠勤が連続1ヶ月に達したとき」といった限定的な書き方がされている例を時々見かけますが、「連続1ヶ月」を発令要件とすると、たとえば3週間欠勤したあとに数日出勤し、再度3週間欠勤したあとに数日出勤して、、、といったように断続的に出勤と欠勤とを繰り返すケースに対応できません。したがって、このようなケースにも対処できるように、せめて「欠勤が連続または断続的に1ヶ月に達したとき」といった形にするか、「または欠勤が2ヶ月のうち半分に達したとき」といった要件を加えるのがベターです。あるいは、究極的には「勤怠状況に鑑みて会社が必要と判断したとき」といった包括条項を盛り込んでおけば如何なるケースにおいても直ちに休職が発令できますが、前述したように、休職発令のタイミングにバラつきが生じると公平性が保たれなくなりますので、当該包括条項はなるべく例外運用に留めるべきではあります。

 

それから、入社して間もないような人が傷病を発症するケース(特にメンタル疾患)も近年では増えていますので、このような事態に備えて、試用期間中の者は休職制度の適用を除外するなどの措置も必要です。

 

3.休職期間の長さ(上限)

 

休職期間の長さ(上限)も実に様々です。一般的な規定方法としては、勤続年数の長さに応じて3~4つほどに区分し、勤続年数が長いほど休職期間の上限を長く設定します。筆者がこれまでに見た中では、最短のものとしては2ヶ月(勤続年数にかかわらず一律2ヶ月)、最長のものとしては5年(勤続年数が20年以上の場合)という例がありました。

 

どの程度の長さが妥当かというのは個人間でも感覚が大きく分かれるかと思いますが、筆者の感覚としては、最短で6ヶ月、最長で1年6ヶ月程度が妥当なのではないかと考えます。たとえば、勤続年数に応じて区分する場合は、「勤続1年未満:6ヶ月、勤続1~10年:1年、勤続10年以上:1年6ヶ月」といったイメージになります。最短で6ヶ月とする理由については、完治するまでに半年程度を要する傷病が比較的多く、たとえばメンタル疾患においても復職までに6ヶ月程度かかっている例が多いことを踏まえると、2ヶ月や3ヶ月では少々短いと感じるからです。最長を1年6ヶ月とする理由については、いたずらに長く休職を認めたところで、実際に2年や3年もの長期にわたって仕事から離れてしまうと、却って復帰が難しくなる場合があるという考えからです。また、健康保険の傷病手当金の支給期間が1年6ヶ月であることも考慮すると、傷病手当金の支給が終了した後に、何の生活保障も得られずにただ延々と会社への在籍が認められてもあまり意味はないのでは?という気もいたします。

 

4.復職の手続き

 

復職に際しては、医師の診断書(復職可能と判定された診断書)の提出を義務付けている例が一般的です。これに関しては、会社の安全配慮義務の観点からも、最低限主治医の診断書は提出してもらうべきだといえます。主治医の診断書に加えて、産業医との面談や復職訓練を義務付けている例も時々見られます。本人の健康状態をより詳細に把握し、その状態に適した就業上の措置を講じる上では勿論実施するに越したことはありませんが、あまり形式にこだわりすぎると、それはそれでトラブルになる場合があります。

 

とある顧問先様では、産業医との面談を復職判断における必須手続きとしているところ、産業医が多忙でなかなか面談時間が取れず、本人の復職希望時期よりもだいぶ遅れての復職が認められることとなってしまいました。結果的には大事に至りませんでしたが、あまり長期に引き延ばすと、会社都合による休業として休業手当を請求されかねない事態に発展する危険性があります。

 

また、別の顧問先様では、復職前に1ヶ月の復職訓練の実施を必須条件としており、遅くとも休職期間満了の1ヶ月前には復職訓練を開始しなければ、休職期間満了時に復職訓練が完了していないことを理由に復職を認めないルールになっています。復職訓練を必須とする趣旨については理解できますが、休職期間満了の直前になってから復職の申し入れを受けることを完全には回避できませんので、そのたびにトラブルになる危険性の高い仕組みであるとはいえます。

 

5.再発時の通算規定

 

無事に復職できたとしても、傷病の再発などにより再び療養が必要となるケースがあります。特にメンタル疾患においては、再発のことも予め想定しておくべきだといえます。再発した際の取り扱いについても会社さんによって実にバラエティに富んでいる部分になりますが、ここをきちんと設計しておかないと、会社の意図にそぐわない運用を認めることになってしまいます。

 

まず通算の対象とする期間については、筆者の経験では、最も短い例が復職後1ヶ月以内、最も長い例が1年以内となっています。この期間を長くするほど会社には有利、逆に従業員には不利となりますが、筆者の感覚としては、6ヶ月程度が妥当ではないかと考えます。その理由しては、傷病によっては、復職可能な状態から完治までには半年程度を見込む必要があるからです。この期間があまりに短いと、再発した際に私傷病休職を再度一から与えなければならないことになってしまいます。

 

次に、通算対象とする傷病を、同一傷病のみに限るのか別傷病でも通算するのかといった点についてです。これについてはそれぞれの会社さんの考え方次第だと思いますが、仮に同一傷病の再発の場合にのみ通算することを意図する場合であっても、「同一または類似の傷病の場合には通算する」といった具合に「類似の」を含めておくことをお勧めします。そうしておかないと、フィジカルな疾患、メンタル疾患ともに、別の症状を併発して診断書上の傷病名が変わる場合がありますので、そのような場合において、私傷病休職を再度一から与えなければならないことになってしまいます。

 

とある顧問先様では、傷病が同一であるか別であるかにかかわらず、過去も含めてすべての休職を通算する規定としています。要するに、1人の従業員に対して認める休職期間を生涯で一律に設定しているわけですが、それもまたいささか極端に感じます。1人の従業員が会社に在籍する期間は40年前後に及ぶ可能性があるわけですので、せめて直前の休職から復職して一定期間(たとえば10年)が経過した場合には、一旦リセットしてもよいのではないかと個人的には考えるところです。

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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