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新入社員歓迎会の帰宅途中の災害

こんにちは。大野事務所の岩澤です。

 

忘年会や新年会のシーズンが一段落し、少し落ち着きを取り戻した今日この頃ですが、ふと、飲み会後の帰宅途中に起きた事故が労災に該当するのか、気になったことはありませんか?実は、会社の飲み会やその帰宅途中の事故が労災として認められるかどうかは、いくつかの要件を満たす必要があります。例えば、会社主催の行事であり、全社員の参加が義務付けられている場合や、業務の一環として行われる接待などの場合は、労災として認められる可能性がありますが、一方で、同僚との私的な飲み会や、任意参加の会社行事の場合は、労災として認められることは少ないです。

 

実際、過去の裁決例を眺めてみると、飲み会後の帰宅中の被災はほとんど通勤災害とは認められていません。そんな中、今回ご紹介させていただく裁決例は、過去の裁決例の中では珍しく飲み会後の帰宅中の被災が通勤災害と認められた事案となります。

 

ポイントとなるのは通勤災害の定義が定められている労災保険法第7条第2項の中にある「就業に関し」の部分、つまり、飲み会自体が業務性を帯びているかどうかになります。

 

「就業に関し」について以前のコラムで少し触れていますので、今一度、お読みいただければ幸いです。

通勤災害における通勤とは① | 「社会保険労務士法人 大野事務所」:労務監査をはじめ人事・労務制度の設計、運用をトータルサポート

 

平成29年労第37号

 

 ≪事案の概要≫

請求人はA所在のB会社に正社員として雇用され、一般事務の業務に従事していた。平成○年○月○日、会社を退社した後、会社の新入社員歓迎会(以下、本件歓迎会という。)に参加して帰宅する途中、電車の2階建車両の階段下の階段に対面する1階の補助椅子に前かがみ気味に座っていたところ、階段を転げ落ちて来た酔客の下敷きになり負傷。C医療センターに救急搬送され、「頚髄損傷」(以下、本件傷病という。)と診断された。請求人は、本件傷病は通勤によるものであるとして、労働基準監督署長に療養給付を請求したところ、監督署長は、本件傷病は通勤によるものとは認められないとして、これを支給しない旨の処分(以下、本件処分という。)をした。請求人は、本件処分を不服として、労働者災害補償保険審査官に審査請求をしたが、審査官は、平成○年○月○日付けでこれを棄却する旨の決定をした。本件は、請求人が、更にこの決定を不服として、本件処分の取消しを求めて再審査請求に及んだ事案である。

 

◆争点◆

争点は、請求人に発症した本件傷病が通勤によるものであると認められるかどうかです。審査会は通勤災害が定義されている労災保険法第7条第2項から、飲み会が就業に関していて業務として認められるかどうか、さらに、通勤経路は合理的なものかどうかをポイントとして導き出し、これらについて考察していきます。

 

◆事案の整理◆

 

 【本件歓迎会が就業に関すこととして認められるか】

審査会は本件歓迎会が業務の一環としてみとめられるかを、以下のように考察していきます。

 

1.本件歓迎会の性質

  • ・本件歓迎会は任意参加ではなく、全員参加が前提で日程調整されていた。

    ・社員の8割が20代で、社員の入れ替わりが激しいため社員の定着という重要な目的をもって本件歓迎会は計画されていた。

    ・業務時間中は上司や同僚と十分な会話ができず、本件歓迎会での交流が業務改善に役立っていた。

 

2.本件歓迎会開催に対する会社の関与

  • ・社長自らが幹事を指名し、全員参加できる日を確認して日程調整を行っていた。

    ・社長は役員を参加させず、忌憚のない意見交換ができるよう配慮していた。

 

3.請求人の本件歓迎会における役割

  • ・請求人は新入社員と同じ課に所属する上司として出席し、本件歓迎会の様子を社長に報告する予定であり、請求人には会社の業務改善に向けた

  •  一定の役割があった。

 

4.本件歓迎会の出欠選択と費用

・社長が社員に参加を要請し、社員に選択の余地はなかった。

・会社は本件歓迎会を業務改善の観点から重要な行事と位置づけ、費用の過半以上を負担していた。

 

以上を見ていくと、本件歓迎会は業務性を帯びた一定の目的の下開催しており、また、社長自ら社員に参加を要請し、社員の出欠を選択する余地はなく歓迎会への参加は業務命令と捉えることもできます。会費についても重要な行事と位置付けており会社の負担がありました。

これらのことから、本件歓迎会は事業活動に密接に関連して開催されたものであり、業務の一環であると言うことができ、請求人の参加には業務遂行性が認められると審査会は結論付けました。

 

【通勤経路の合理性】

もう一つの争点である通勤経路の合理性について審査会は以下の通り解釈し、今回の請求人の帰路は合理的な経路および方法であったと結論づけました。

  • 請求人の本件災害の日の行動について考察すると、請求人は午後○時○分に会社を退社し、本件歓迎会に午後○時頃から午後○時頃まで参加した後、そのまま住居に向かったことが認められる。本件歓迎会の終了後、請求人は開催場所から最寄り駅まで徒歩で行き、通常の通勤経路に復していることから、当該帰路は合理的な経路および方法で通勤遂行性を認めることができる。

 

【災害の発生状況】

審査会は災害の発生状況からみる通勤と災害の因果関係については、以下の通り相当因果関係を導き出しました。

本件災害の発生状況をみると、極めて突発的な事故であり、一般的には通勤行為に伴う危険とはいい難いものの、請求人に落ち度は無く、第三者の過失によって発生したもので、通勤に内在する危険が具体化したものという判断枠組みを逸脱しているとまではいえないことから、本件災害による本件傷病の発生については、通勤との間に相当因果関係があり、通勤起因性も認めることができる。

 

◆審査会の結論◆

以上のことから、請求人に発症した本件傷病は、通勤災害によるものということができる。したがって、監督署長が請求人に対してした療養給付を支給しない旨の本件処分は失当であって、取消しを免れないとし、審査会は請求人の主張を認めました。

 

◆最後に◆

今回の裁決と通勤災害として認められなかった別の裁決とを比較すると、以下のポイントが判断の決め手となることがわかってきます。

1.任意参加か強制参加か

  ⇒やはり、任意参加の場合、通勤災害として認められにくい傾向があります。

2.会の目的に業務的要素が含まれているか

  ⇒今回の新入社員歓迎会のように、社員の定着率を高めることを目的とした会は業務的要素が強いと判断され、単純な送別会などは業務的要素が薄いと見なされることが多いようです。

3.費用負担

  ⇒会社が費用を負担している場合、業務の一環と認められやすいようです。

 

飲み会は楽しい時間を過ごす絶好の機会ですが、酔っている状態では事故のリスクが高まります。労災になるかどうかにかかわらず、安全に帰宅するための心掛けが大切です。

 

執筆者 岩澤

 

岩澤 健

岩澤 健 特定社会保険労務士

第1事業部 グループリーダー

社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!

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