「ビジネスと人権」とは周りに思いを馳せること―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊳
本年もよろしくお願いいたします。
大野事務所の今泉です。
突然ですが、皆様は「ビジネスと人権」(BHR)という概念をご存知でしょうか。
近年世界的に関心が高まり、人材の採用や定着、取引先との関係や投資家の視線など、さまざまな場面で人権を尊重した企業行動(人権尊重経営)が求められています。そのような中、全国社会保険労務士会連合会ではILO駐日事務所の協力を得て「ビジネスと人権」の啓蒙に努め、また、「ビジネスと人権」について実践的な対応が可能な社労士「ビジネスと人権推進社労士」(BHR推進社労士)の養成を進めています。
かくいう私も連合会の研修を受講し「BHR推進社労士」として、人権尊重経営を普及していくための活動の一端を担うこととなりましたので、この場を利用して「ビジネスと人権」について思うところを書き連ねていこうと考えました。
この分野も「人と人との関係性」が非常に重要なファクターとなってくるのですが、まずは「ビジネスと人権」(BHR)とはどういうことなのか、説明していきたいと思います。
ここで対象とされているのは「ビジネスと人権」であり、単に「人権」と言っていないところが1つ目のポイントでしょう。
日本国憲法では基本的人権の尊重が原則とされていることから、人権という言葉自体の馴染みはあるものの、何か難しいという印象を拭えません。
私が大学のときに受講していた憲法の授業は、何を言っているか分からない異次元のような内容でした。非常に難解な授業だったことだけは覚えています。あまりに難しいので、授業中寝ることもできませんでした。。。
人権とは、簡単にいえば「生まれながらにして(固有性)誰でも有している(普遍性)、国によっても侵すことのできない(不可侵性)、人間らしく生きるための権利」といわれます。
法の下の平等とか、表現の自由とか、学問の自由とか、移動の自由などはパッと思いつく人権のカタログです。
不可侵性という言葉のところにもありましたが、もともとは国による侵害を抑制し、尊重すべきものとされている人権について、企業がその活動を行う上でも人権を尊重し侵害しないような責任を負っていこうよ!というのが「ビジネスと人権」(BHR)の根本となります。
この「企業が活動する上で」、というのが第2のポイントです。
企業が活動するためには、、、
・企業を運営する人
・企業で働く人
・企業に投資する人
・企業から買う人
・企業に売る人
などなど
といった関係性がなければ成立しません。
この関係性を有する人たちを「ステークホルダー」といいますが、企業のステークホルダーに対しても人権尊重に関与させていこうよ!というのが「ビジネスと人権」(BHR)の特徴となります。
特に、サプライチェーン(商品の生産から消費までの一連の流れ)上のどこに高いリスクがあるかを洗い出し、それを改善し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかについて情報開示していく、というプロセスを継続的に実施していくこと(これを人権デューデリジェンス=「人権DD」といいます。)が、そのメインとなるアクションの一つです。
EU諸国などを中心に、海外ではサプライチェーンを通じた人権デューデリジェンスの実施や開示を義務付ける法規制が次々に施行されている、というのが今日の実情です。
ちょっと難しくなってきました。。。例を挙げます。
1990年代後半、サッカーボール産業に多くの子どもたちが関わっていることが問題となりました。低賃金の上に、硬い皮を扱うため子どもたちは手をケガしたり、変形してしまうというようなこともあったそうです。
これは児童労働の禁止という人権侵害に該当するものであり、子供たちを救うためFIFA(国際サッカー連盟)をはじめNGOや国際機関が議論を重ねていき、サッカー業界から児童労働をなくすため、企業が財団を立ち上げFIFAもサポートをして活動をはじめました。
具体的には、児童労働の問題を伝え、問題解決に向けた取組の必要性を訴えかけるため、児童労働に反対する意思をレッドカードを掲げることで表明するキャンペーンを行ったり、サッカーボールに、児童労働によって作られた商品ではないというラベルを貼る運動を行ったり(フェアトレードボール)、誰が縫っているかをはっきりさせることを目的として縫う人(スティッチャー)を登録制にし、登録した人以外(主に子ども)が縫うことがないようにしました。
これらは、企業や消費者、国際機関や市民団体など社会全体が協力することで、児童労働の予防と撤廃を実現していこう、という表れであり、「ビジネスと人権」(BHR)が目指すところと軌を一にします。
「わが社では労基法をはじめコンプライアンスを徹底しているし問題はない」という企業もたくさんあると思います。ですが、それにとどまらず、企業活動をしていく上で、関係各所においても人権侵害がないよう働きかけ、取り組んでいく、つまり自社を取り巻く周囲の状況にも思いを馳せること、これが「ビジネスと人権」の中核をなすマインドです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
なお、大野事務所では、現在ともに働いていただける仲間を募集しています!
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ご応募お待ちしております!!

今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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