雇用保険法の改正
こんにちは。大野事務所の深田です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
昨年のコラムでも法改正情報を適宜お伝えしてまいりましたが、年も明けて今月24日に招集予定の通常国会では新たな法改正に向けた審議が進むこととなります。労働社会保険関係諸法令の改正に関して、次期国会での目玉としては5年に1度の見直し期に当たる公的年金制度ではないでしょうか。速やかな情報のキャッチと提供に今年も努めていきたいと思っております。
さて、2025年度に控えている法改正としては、改正育児・介護休業法の実務に与える影響が小さくありませんが、もう一つ、改正事項の多さということでは雇用保険法の改正が以下のとおり非常に幅広いものとなっています。
<2025年4月1日施行> ① 基本手当の受給における給付制限期間の見直し ② 特定理由離職者に対する基本手当の支給に関する暫定措置の延長 ③ 地域延長給付の措置期間延長 ④ 出生後休業支援給付の創設 ⑤ 育児時短就業給付の創設 ⑥ 育児休業給付金の支給対象期間延長手続きの厳格化 ⑦ 高年齢雇用継続給付の給付率引き下げ ⑧ 就業促進手当の見直し ⑨ 教育訓練支援給付金の給付率引き下げ <同10月1日施行> ⑩ 教育訓練休暇給付金の創設 |
今回のコラムでは、これらの改正事項のうち主なものについて触れておきたいと思います。
【① 基本手当の受給における給付制限期間の見直し】
正当な理由のない自己都合退職の場合、基本手当を受給するまでの給付制限期間は原則として2か月です(当該退職した日から遡って5年間のうちに2回以上正当な理由なく自己都合退職している場合は3か月)。この原則となる「2か月」について、公共職業安定所長が指示する公共職業訓練や教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練の受講を条件として、「1か月」に短縮されるというものです。
【② 特定理由離職者に対する基本手当の支給に関する暫定措置の延長】
いわゆる雇止めによって特定理由離職者に該当した場合、基本手当の支給に関しては特定受給資格者とみなされる暫定措置が2009年3月31日以降の離職者に適用されています。これは2008年のリーマンショックによって有期契約労働者の雇止めが横行したことに端を発して設けられた措置なのですが、措置の期限が本年3月末までとなっていたところ、さらに2年間延長されることが決まっています。
【④ 出生後休業支援給付の創設】
子の出生後の一定期間(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に、被保険者とその配偶者がともに通算14日以上の育児休業(出生後休業)を取得した場合、28日間を限度に休業開始前賃金の13%相当額の出生後休業支援給付金が支給されるというものです。それにより、同期間において休業開始前賃金の67%相当額が支給される育児休業給付金または出生時育児休業給付金とあわせて、休業開始前賃金の80%相当額の給付になります。
【⑤ 育児時短就業給付の創設】
2歳未満の子を養育するために時短勤務を選択して賃金が低下している場合の新たな給付として、育児時短就業給付が創設されます。時短就業中に支払われた賃金が時短就業開始時の賃金日額の90%未満の場合、時短勤務中に支払われた賃金に10%を乗じた額(時短就業中に支払われた賃金が時短就業開始時の賃金日額の90%以上100%未満の場合、時短就業中に支払われた賃金に10%から一定の割合で逓減するように厚生労働省令で定める率を乗じた額)が、育児時短就業給付金として支給限度額の範囲内で支給されます。
【⑥ 育児休業給付金の支給対象期間延長手続きの厳格化】
保育所の利用を希望して入所を申し込んでいるものの入所できない場合など、子の1歳到達日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められるときには新たな育児休業の申出(育児休業の延長)が可能となり、育児休業給付金の支給対象期間も延長され得ます。この点、保育所に入所する意思がないにもかかわらず、給付の延長目的で入所を申し込む者がいることによる自治体の事務負担が問題視されていたことから、支給対象期間の延長に当たっては「速やかな職場復帰を図るために保育所等における保育の利用を希望しているものであると公共職業安定所長が認める場合に限る」との条件が付されます。これにより、給付金の支給申請手続きにおいては、従来から必要とされていた「入所不承諾通知書」等に加えて、新たな確認書類として認定申告書と入所申込書の写しの提出が求められることとなります。
【⑦ 高年齢雇用継続給付の給付率引き下げ】
高年齢者雇用の進展などを受け、高年齢雇用継続給付の制度自体の必要性についてはかねてから検討がなされていましたが、本年4月1日以降に60歳に達した日を迎えた被保険者を対象として給付率が引き下げられます。最大支給率を「15%」から「10%」へ引き下げる一方、最大支給率となる際の賃金低下率(60歳到達時の賃金月額と比較した支給対象月に支払われた賃金額の低下率)を「61%以下」から「64%以下」へ引き上げることで激変緩和の対処がされています。
執筆者:深田
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深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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