企業による奨学金返還支援制度を考える
代表社員の野田です。新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。2025年(令和7年)初回のコラムとなりますが、今回は昨年中に何度かご質問頂きました「奨学金返還支援制度」について取り上げます。
〇企業の奨学金返還支援制度とは
奨学金返還支援制度といいますと、地方自治体などが若者の地方定着やUIJターンを促す目的で支援しているものを思い浮かべます。その多くは、その地域内に一定期間居住することや就業することなどを奨学金返還支援の要件にしており、若者の地方企業への就職を促したい、若者の地方離れに歯止めをかけたいといったねらいがあるようです。
企業の奨学金返還支援制度は、2021年4月から、独立行政法人日本学生支援機構(以下「日本学生支援機構」)が実施しているものですが、昨今本制度を活用する企業が急増しており、2024年(令和6年)5月末までに2000社を超えた(前年同月比2倍以上)との報道がされています。
若手社員を対象に、大学などの奨学金を企業等が支援し社員の経済的負担を軽減する取り組みで、企業の人材確保や定着率向上を図るものですが、支援方法は「手当支給型」と「代理返還型」の2つに分けられます。
手当支給型:企業が社員に対し、奨学金返還額の一部または全額を手当や補助金として支給する方法
代理返還型:企業が社員に代わり、日本学生支援機構や育英会などの貸与団体に直接返還金を送金する方法
〇本制度導入のメリット
本制度設計において支援期間と支援額に悩むところですが、仮に新卒から10年以内の社員を対象に、1年以内ごとに24万円を支援するものとした場合、採用募集時のアピールポイントとなり優秀な若手人材の確保・定着が期待されます。更に企業としては、支援額を損金算入できることから法人税の減額ができるだけでなく、社会貢献として企業イメージの向上につながるものとなります。
社員側のメリットとしては、経済的負担が軽減され安心して業務に専念できますし、企業が直接機構に送金できる制度(代理返還型)を活用した場合、返還額は所得税や社会保険料の対象ではなくなります。
〇おわりに
制度設計における留意点としては、非適用者から不満が生じぬよう、手当支給型を導入する場合には、返済に充てたことを証明する書類等の提出を必須としたり、返済以外の目的で使用した場合には処分したりすることをルール化・規定化しておく必要があるかもしれません。また、長期欠勤者・休業者が発生した場合の支給・支援条件などについても予め検討しておくことが肝要です。
日本学生支援機構の調査によれば、大学生の半分が奨学金を受け取っているとのことです。また、日本学生支援機構の奨学金返還者の平均借入総額は310万円、返還期間は14.5年となっており、返還者の26%がコロナ禍前と比べ返還が苦しくなったと回答している状況です。
本制度を申請できる社員が限られることから公平性に欠けるといったご意見もあるでしょうが、大企業を中心に定着しつつあるようですので、福利厚生制度として導入を検討してはいかがでしょうか。なお、千葉県では教員不足解消策として「奨学金返還緊急支援事業」を令和6年度から実施しているようです。
千葉県HP
執筆者:野田
野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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