【通勤災害】通勤経路上にないガソリンスタンドに向かう際の被災
こんにちは。大野事務所の岩澤です。
私が担当する今年最後のコラムです。
前回まで通勤の定義を第3回に分けて説明していきましたが、ようやく、本題の通勤災害の裁決のご紹介をさせていただくことができます。原付バイク通勤者の通勤災害の裁決です。前回のコラムで解説した、通勤中の逸脱・中断・ささいな行為が争点となっています。
平成29年労第362号
≪事案の概要≫
請求人は会社から原付バイクで帰宅する途中、ガソリンスタンドに寄るため、通常の通勤経路から離れたところで、急に飛び出してきた子供の自転車と衝突し、転倒して負傷した。請求人は今回の負傷が通勤によるものであるとして療養給付を請求したところ、監督署長はこれを支給しない処分をしたことから、これを不服として同処分の取消しを求め、労働者災害補償保険審査官に対する審査請求を経て、審査会に対して再審査請求をした。 |
◆争点◆
争点は請求人の今回の傷病が通勤によるものと認められるかどうかです。通勤経路から離れたガソリンスタンドへ向かう途中の被災ということがポイントになると言えます。監督署長は、ガソリンスタンドでの給油のために通常の通勤経路をそれた行為は合理的な経路から逸脱したものとし、当該被災は逸脱中のものであると判断したのでしょう。では審査会の判断はどうなのでしょうか。
◆事案の整理◆
審査会は当該事案を判断するにあたって、請求人の通常の通勤(退勤)経路と被災当日の通勤(退勤)経路を確認しました。
【通常の退勤経路】
まず請求人の通常の退勤経路は以下の通りです。
1.会社のガレージからE通りを西へ走行
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【被災当日の退勤経路】
これに対して被災当日の退勤経路は以下の通りです。
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通勤経路を確認してみると、通勤経路上にはFガソリンスタンドがあり、通勤経路から離れたとこにIガソリンスタンドがあり、2つのガソリンスタンドが登場していることがわかります。そして、請求人はIガソリンスタンドに向かう途中に被災したということが見て取れます。
【請求人の主張】
次に請求人の主張を確認します。
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◆審査会の判断◆
まず、判断に当たって労災保険法第7条第2項、第3項に定める通勤の定義を示し、これに沿って判断していきます。この通勤の定義は前回までのコラムで解説させていただきましたので、おさらいですね。
◆労災保険法第7条第2項◆
通勤とは、労働者が、就業に関し、住居と就業の場所の間を合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。 |
◆労災保険法第7条第3項◆
労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。 |
◆ささいな行為について◆
「合理的な経路及び方法」とは、住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうと解されている。なお、行政実務上、労働者が通常、通勤の途中で行うような「ささいな行為」を行う場合には、逸脱又は中断として取り扱う必要はないとされている。 |
【審査会の具体的な判断内容】
以上の内容をならべて、審査会は具体的に検討していきます。以下、審査会の具体的な判断内容を見ていきましょう。
・給油行為の合理性(ささいな行為性)
原付バイク等で通勤する者が合理的な経路上又はその近くのガソリンスタンドで給油行為をすること自体は、通勤を継続する上で必要かつ合理的な行為であって、時間的にも短時間で済む行為であるので、通勤中にガソリンスタンドで給油することは通常の通勤に付随するささいな行為であり、合理的とされる。 |
このように、審査会は通勤経路上のガソリンスタンドでの給油行為は逸脱・中断ではなく「ささいな行為」とみなされ、それ自体合理的な通勤途上であると示しました。では、通勤経路上にないガソリンスタンドでの給油はどうなのでしょうか。
・経路の逸脱
請求人はガソリン不足に気付いた時点からUターンして通常の退勤経路上にあるFガソリンスタンドを利用せず、通常の経路を外れてIガソリンスタンドに向かった。この行為は合理的な理由がなく、経路の逸脱と判断される。 |
審査会によると、今回のケースでは通勤経路上にないガソリンスタンドでの給油は経路上の逸脱と判断されました。
・「通勤経路は1つに限定されていない」という請求人の主張について
請求人は、合理的な経路は一つに限定されず、当日の被災した経路自体はまさにその合理的な経路の一つであり、給油行為が「ささいな行為」なのであれば、そもそも合理的な経路の逸脱などではないと主張しているが、当日、向かっていたIガソリンスタンドでこれまで給油したことはなかったと述べており、Iガソリンスタンドに向かう退勤経路は、請求人が通行する通常の退勤経路からは明らかに外れていることから、合理的な経路に含まれるものとは考え難い。さらに、請求人が、ガソリン不足に気付いた時点で、Uターンして通常の退勤経路上のFガソリンスタンドに向かうことが困難であった事情は認められない。 |
FガソリンスタンドへのUターンは困難であったとは認められず、そのことを回避して通常の退勤経路からは明らかに外れているIガソリンスタンドへ向かう経路は合理的なものとは判断できないので、被災した際の当該経路を合理的な経路の1つとして認めることはできないと審査会は言っています。
◆審査会の結論◆
以上のことから、請求人は合理的な経路から逸脱したものであり、当該被災は通勤経路の逸脱中のものであり、通勤災害とは認められないとし、審査会は再審査請求の棄却という結論を導き出しました。
◆最後に◆
通勤経路上にあったFガソリンスタンドは、反対車線側(右側)にあったのでしょうか。それとも進行している車線側(左側)にあったのでしょうか。これについては詳細な記載はありませんが、反対車線側にFガソリンスタンドがあったのであれば、通り過ぎる前にガソリン不足に気が付き反対車線側にFガソリンスタンドを見つけたとしても、対向車を注意しながら右折して入るのは私は嫌いなので、経路を逸脱してでも入りやすい別のガソリンスタンドに入りたいという気持ちになってしまいます。今回の裁決を読んで、ドライブ中にガソリン不足に気が付き、近くのガソリンスタンドに入ろうとしたら、あるのは反対車線側ばかりで、なかなか進行している車線側でガソリンスタンドに遭遇しないという、ちょっとしたドライブあるあるを思い出してしまいました。
執筆者 岩澤
岩澤 健 特定社会保険労務士
第1事業部 グループリーダー
社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。
数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!
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