【賃金のデジタル払いの今と今後の広がりは?】
こんにちは、大野事務所の土岐です。
今回は賃金のデジタル払いについて採り上げます。
賃金のデジタル払いとは
賃金の支払いに関しては労基法第24条において「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」とされているのはご存知の通りです。この点、労働者の同意を得た場合には、銀行その他の金融機関預貯金口座への振込によることができるとされており、現在はこの方法が一般的となっていることは言うまでもありません。
これに加え、2023年4月の労働基準法施行規則の改正により、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者への口座への資金移動による賃金支払いによる方法、いわゆる賃金のデジタル払いが可能となっています。
導入にあたって必要となる手続き
賃金のデジタル払いを導入するにあたり、必要となる手続きに関して、厚生労働省のリーフレットでは次の通りまとめられています。
①厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)の確認 ※ ②導入する指定資金移動業者のサービスの検討 ③労使協定の締結等 ※ ④労働者への説明 ⑤労働者の個別の同意取得 ※ ⑥賃金支払いの事務処理の確認・実施 |
※厚生労働省のホームページにて指定資金移動業者が掲載されており、令和6年8月9日現在の情報ではありますが、PayPay株式会社の1社のみとされています。また、労使協定や同意書の例についても同ページに掲載されていますので、詳細はこちらをご確認ください。
さて、「③労使協定の締結等」関連して、就業規則や賃金規程にもデジタル払いにより支払うことを規定しておくべきといえます。本コラムの公開日時点で厚生労働省が公表しているモデル規程等には、これに関する具体的な規定例が掲載されていないようでしたので筆者が労働基準監督署に確認したところ、「労使協定の締結、労働者の個別の同意の取得が適切に行われることが重要であることから、就業規則等にはデジタル払いを行う場合があることが明確になっていれば十分」との見解を得ました。そのため、例えば、次のような定めが考えられます。
<規定例> 第●条 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。 2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座または厚生労働大臣の指定を受けた指定資金移動業者の口座への振込により賃金を支払う。 …(略)… |
みなさんの受け止めは?
人事労務に関する専門情報誌「労政時報」のwebサイト、「WEB労政時報」に掲載されている「『賃金のデジタル払い』は今後各社で広がると思われますか?」のアンケート(2024年11月13日、回答者数146名)では、①あまり広がらないと思う(47.3%)、②広がらないと思う(24.0%)、③ある程度は広がると思う(21.2%)、④広がると思う(7.5%)という結果となっています。
筆者が関与先様とミーティングを行う中で賃金のデジタル払いについてご案内をする際、多くの関与先様からは、社員の中には一定数、賃金のデジタル払いを希望される方がいると推測されるものの、①個別同意の取得が煩雑であると考えられること、②デジタル払いに関する事前説明に関してもハードルが高いと感じられること、③給与振込のオペレーションにおけるシステム面の対応が不透明であること(システム改修が必要になる可能性があるのではないか、との懸念)といった理由から、「当社ではしばらくは様子見とする予定です」あるいは「導入する予定はありません」とのコメント頂くことがほとんどです。
この点、③の給与振込のオペレーションについては筆者も気になっていたところ、令和6年8月9日時点で唯一の指定資金移動業者となっているPayPay株式会社の賃金のデジタル払いに関するプレスリリースによれば、「事業者はいつもの銀行口座宛ての振込を使って従業員のPayPayアカウントに給与支払いできる!」とありますので、システムの改修は必要なく、振込が可能と思われます(詳細はサービス提供会社様へ直接ご確認ください)。
おわりに
上記の厚生労働省のホームページによると、現在、指定資金移動業者として審査中の業者数は3社とのことです。今後に申請や指定件数がどの程度増加するかについては不明ですが、現時点ではこのような状況です。
こうした中、先日、ある関与先様からデジタル払いの導入に向けた準備を進めているとのご連絡をいただきました。他社に先駆けて実施したいお考えとのこと、実際にデジタル払いを希望される社員がどのくらいいらっしゃるのか、また、実際のオペレーションに際しての細かな点などをお伺いしたいと考えています。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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