通勤災害における通勤とは③
こんにちは。大野事務所の岩澤です。
今回で、通勤災害における通勤の定義およびポイントの説明は終了です。前回、前々回で労災保険法第7条第2項のご説明をさせていただきました。今回は第7条第3項の説明です。
◆労災保険法第7条第3項◆
労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。 |
この第3項では通勤中に経路をそれてしまった場合や通勤とは別の行為をしてしまった場合など通勤中の「逸脱・中断」について定められています。それでは詳細について解説していきます。
◆逸脱・中断◆
前回のコラムで少しだけ触れましたが、通勤途上で映画鑑賞にいったり、飲食店に立ち寄るために通勤経路を外れたりした場合には「逸脱・中断」に該当し、当該「逸脱・中断」中およびその後の移動は通勤に該当しないとされています。
【逸脱・中断した場合の通勤の判断】
「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
≪逸脱・中断の具体例≫ ・通勤の途中で雀荘に立ち寄り麻雀を行う場合 ・映画館に入る場合 ・居酒屋等で飲酒する場合 ・デート中、ベンチで長時間話し込んだりする場合 ・喫茶店に立ちよって一時間ほど過ごす場合 ・写真展の見学行為 ・車で帰宅途中に故障車の救助目的で車を停車して車外に出る行為 |
◆日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるもの◆
通勤の途中において、労働者が逸脱・中断する場合には、その後は就業に関してする行為というよりはむしろ、逸脱又は中断の目的に関してする行為と考えられるので、その後は一切通勤とはみとめられないとしていますが、これについては通勤の実態等を考慮して法律で例外が設けられ、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
【逸脱・中断が日常生活上必要な行為等の場合】
ここでポイントとなるのは、「合理的な経路に復した後は再び通勤となる」ということです。合理的な経路に戻っていない場合は通勤途上とは認められません。
≪厚生労働省令で定める「逸脱・中断」の例外となる日常生活上必要な行為の具体例≫
・帰途で惣菜等を購入する行為 ・独身労働者が食事のために食堂に立ち寄る場合(通常は自宅で夕食をとっている者が空腹のため食堂に立ち寄る場合は認められない) ・クリーニング店に立ち寄る場合 ・理髪店に立ち寄る場合 ・書籍購入のために書店に立ち寄る場合 ・ガソリンスタンドで給油する場合
・選挙権の行使の他、最高裁判所裁判官の国民審査の行使、住民の直接請求権の行使等がこれに該当する。
・通常の医療を受ける行為 ・人工透析などの比較的長時間を要する医療を受ける行為 ・柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける行為
・定期的に帰宅途中に一定時間親の介護を行うために当該親と同居している兄弟宅に立ち寄る場合 |
◆ささいな行為◆
前回のコラムでも説明しましたが労働者が通勤途中で通常行うようなささいな行為については、行為自体は「逸脱・中断」と類似していますが、逸脱性および中断性が低いと解され、当該行為は「逸脱・中断」に該当しません。つまりこのささいな行為については行為中、行為後も通勤途上ということになります。具体的な内容は以下の通りで、これは前回のコラムでも掲載しています。
≪ささいな行為≫ ・通勤途中において経路の近くにある公衆便所を使用する ・通勤経路の近くにある公園で短時間休息する ・経路上の店で煙草や雑誌などを購入する ・定期券を乗降駅以外の最寄り駅で購入する ・経路上又は駅構内でそばの立ち食い、ジュースの立ち飲みをする ・経路上の店で渇きをいやすためごく短時間お茶やビールを飲む ・経路上での占い師に短時間手相・人相を見てもらう |
これらの「ささいな行為」と「逸脱・中断」の具体例の中には内容が類似しているものがあり、いずれに該当するのかが争点になるケースもあるようです。例えば、ささいな行為にある「経路上の店で短時間ビールを飲む行為」と逸脱・中断の具体例にある「居酒屋等で飲酒する場合」はほとんど同一の行為であり、違いがあるとすれば、「短時間」であるかどうかでしょう。では、どのくらいの時間が短時間なのでしょうか。こちらについては明確に示されてはいません。また、ビールを飲む行為や占い師に手相・人相を見てもらう行為など日常生活上、必要性が低いように思われる行為が「ささいな行為」で、日用品の購入や、選挙、通院、介護など日常生活上の必要性が高い行為が「逸脱・中断」に当たるということも少々疑問に思いますが、ポイントは「短時間」なのでしょうか。いずれにせよ、個別の事案ごとに判断されるのかと思われますので、今後の裁決例の解説で明らかにしていければと考えています。
以上、通勤災害における通勤の定義を第3回に分けて説明いたしました。次回より具体的な裁決例の紹介をいたします。
執筆者 岩澤
岩澤 健 特定社会保険労務士
第1事業部 グループリーダー
社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。
数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!
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