本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
おじいさんが植えたかぶが、甘くて元気のよいとてつもなく大きなかぶになりました。 おじいさんは、「うんとこしょ!どっこいしょ!!」とかけ声をかけてかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。 おじいさんはおばあさんを呼んできて一緒にかぶを抜こうとしますが、かぶは抜けません。 おばあさんは孫を呼び、孫は犬を呼び、犬は猫を呼んできますが、それでもかぶは抜けません。 猫はネズミを呼んできて…… 「うんとこしょ!どっこいしょ!!」 ……とうとうかぶは抜けましたぁ!!!
|
こんにちは。
大野事務所の今泉です。
冒頭紹介のお話は、ご存知「大きなかぶ」です。(ネズミまで(笑))力を合わせて、甘くて大きなかぶを引っこ抜く、というシンプルですが、とても盛り上がるお話です。かけ声がユニークで、記憶に残りますね。
さて、ここではおじいさんからネズミに至るまで力を合わせて一つのことを成し遂げることの大切さを教える内容なのだと思いますが、現実ではどうでしょうか。果たしてお話のようにうまくいくでしょうか。
そこには、共同作業ならではの落とし穴が潜んでいるように思います。つまり、「自分がやらなくても誰かがやるだろう」と考えてしまう、ということですね。
このようなことは、綱引きの実験で明らかにされています。
綱引きを実施したところ、1人で綱を引く力を100%としたとき、2人で引っ張ると1人の力は93%、5人では70%、8人になると半分になる、という結果が出た。
|
これは「社会的手抜き」といわれ、集団になると怠け、1人で作業するよりも1人当たりの効率がかえって低下してしまう、という現象です。提唱者の名前をとり「リンゲルマン効果」とも呼ばれます。綱引きの実験を行ったのも彼です。日常生活や仕事においても思い当たることがあるのではないでしょうか。
このようなことが起こる原因としては以下のようなものがあるとされます。
・グループ作業では、責任が他のメンバーにも分散されるため、個人が「自分一人が努力しなくても問題ない」と感じることがあり、
グループが大きくなれば、個人の責任感がさらに薄まり、「自分が力を出さなくても、他のメンバーがカバーしてくれるだろう」
という心理が働いてしまう。
・グループでの成果が個々人に対してどの程度評価されるかが不明確な場合、努力を抑える傾向があり、努力が直接的に評価されないと感じると、
モチベーションが低下する。また、自分の努力が他のメンバーによって埋もれると感じると、努力を惜しむ傾向がある。
・他のメンバーが自分以上に頑張ると期待してしまう。すなわち「自分が全力を出さなくても、他のメンバーがカバーしてくれるだろう」と考えてしまう。
・人数が増えるほど、全体の協調やコミュニケーションが難しくなり、各メンバーが効率的に力を発揮できなくなる。
これは実に勿体ないことです。せっかく力を合わせていると思っていたのに、実は100%の力が出ていない、ということですので。。。
その一方で、報酬の有無にかかわらず、組織のために自発的に自分の役割を超えて行動するという人たちもいます。
特に職場におけるこのような行動を「組織市民行動(OCB)」といいますが、うまく回っている組織には、こうした行動をとっている人たちが存在しているように思います。
例えば「病気などで休んでいる人の仕事を代わりに行う」とか「仕事のやり方が分からず困っている人がいれば教えてあげる」などです。「ゴミが落ちていたら拾う」といったこともこれに該当するとされます。
組織や職場では常に想定外の事態が起こります。問題はそれらを誰が引き受けるか、ということです。組織図や職務に関する規程のようなハード面に則り、すべてを捌くことは不可能でしょう。そのような場面においてOCBを実践する人たちが組織や職場の架け橋的な存在として機能しているのだと思います。
では、OCBを促すにはどうすればいいか、という話になりますが、OCBは見返りを求めない行動であるため、正式な報酬の対象とすることはありません。ただ、その貢献を認め、例えば社内表彰やサンクスカードあるいは特別なランチなど、感謝の意を伝えるちょっとした工夫がOCBを奨励することになるのでしょう。ピアボーナスも効果的でしょうね。
さて、大きなかぶを抜いた後きっとみんなで食べたのだと思いますが、果たして犬や猫やネズミはかぶが食べられることを見越して、「かぶを抜く」という共同作業に加わったのでしょうか。
そうではないと思います。
おじいさんたちが大きなかぶを抜けなくて、とても困っているから協力したのではないでしょうか。犬や猫やネズミには、「かぶを抜く」という役割はありません(当然ですが)。その役割を超えておじいさんたちの役に立ちたいと考えて、見返りを求めず作業に加わったのだと思います。つまり、OCBを実践したのではないでしょうか。
犬や猫やネズミを市民といっていいのか分かりませんが。。。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます。

今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.12.02 ニュース
- 【急募!正規職員・契約職員・パート職員】リクルート情報
- 2025.03.26 大野事務所コラム
- 労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)
- 2025.03.24 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
- 2025.03.20 これまでの情報配信メール
- 一般事業主行動計画の改正について 、くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
- 2025.03.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(後編)】
- 2025.03.18 ニュース
- 2025春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
- 2025.03.19 大野事務所コラム
- 日本法の遵守=「ビジネスと人権」に対応?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊴
- 2025.03.19 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率・労災保険率について
- 2025.03.10 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
- 2025.03.10 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(前編)】
- 2025.03.12 大野事務所コラム
- 私傷病休職をどのように規定すべきか
- 2025.03.05 大野事務所コラム
- 育児休業中に出向(出向解除)となった場合の育児休業給付金の取り扱い
- 2025.03.19 これまでの情報配信メール
- 育児時短就業給付金について・育児・介護と仕事の両立のための従業員研修特設ページについて
- 2025.02.26 大野事務所コラム
- 降給に関する規定整備を考える
- 2025.02.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(前編)】
- 2025.02.12 大野事務所コラム
- 新入社員歓迎会の帰宅途中の災害
- 2025.02.21 これまでの情報配信メール
- 出生後休業支援給付金の創設について
- 2025.02.06 これまでの情報配信メール
- 東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例について・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の支給率変更について
- 2025.02.05 大野事務所コラム
- 労働基準関係法制研究会の報告書が公表されました
- 2025.01.29 大野事務所コラム
- 「ビジネスと人権」とは周りに思いを馳せること―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊳
- 2025.01.24 これまでの情報配信メール
- 令和7年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について・SNS等を通じて直接労働者を募集する際の注意点
- 2025.01.22 大野事務所コラム
- マイナポータル上での離職票交付サービス開始について
- 2025.01.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【介護と両立できる働き方とは】
- 2025.01.16 これまでの情報配信メール
- マイナポータルにおける離職票直接送付サービス開始について
- 2025.01.15 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正
- 2025.01.14 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【労働基準監督署における定期監督等の実施結果について】
- 2025.01.08 大野事務所コラム
- 企業による奨学金返還支援制度を考える
- 2024.12.25 大野事務所コラム
- 来年はもっと
- 2024.12.20 ニュース
- 書籍を刊行しました
- 2024.12.20 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【労働条件の不利益変更】
- 2024.12.20 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2024.12.18 大野事務所コラム
- 【通勤災害】通勤経路上にないガソリンスタンドに向かう際の被災
- 2024.12.11 大野事務所コラム
- 【賃金のデジタル払いの今と今後の広がりは?】
- 2024.12.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(後編)】
- 2024.12.04 大野事務所コラム
- X.Y.Z―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊲
- 2025.01.08 これまでの情報配信メール
- 令和6年度年末年始無災害運動・高年齢労働者の安全衛生対策について
- 2024.11.30 これまでの情報配信メール
- 令和6年12月2日以降は健康保険証が発行されなくなります・養育期間標準報酬月額特例申出書の添付書類の省略について
- 2024.11.27 大野事務所コラム
- 産前産後休業期間中の保険料免除制度は実に厄介
- 2024.11.20 大野事務所コラム
- 介護についての法改正動向
- 2024.11.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
- 2024.11.22 これまでの情報配信メール
- データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ