女性活躍推進法の改正動向
こんにちは。大野事務所の深田です。
今回のコラムでは、女性活躍推進法の改正動向を確認しておきたいと思います。
近時は、女性活躍推進法のほか、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画、労働施策総合推進法に基づく正規雇用労働者の中途採用比率の公表、あるいは育児・介護休業法に基づく男性の育休取得率等の公表のように、「公表」という形で事業主に取り組みを求めるケースが増えてきています。その趣旨としては、単に目標や数値を公表するということではなく、自社の就労環境上の課題を把握した上で課題解決に取り組み、生産性の向上へ繋げていくなどの狙いがあるといえるでしょう。
女性活躍推進法は、10年間の時限立法として2016年4月1日に施行されたもので、各企業において自社の女性活躍に関する状況を把握・分析した上で目標を設定し、一般事業主行動計画という形での策定・届け出および情報公表を求めています。
元々は、大企業(常時雇用する労働者数が301人以上)に対しては義務、中小企業(同300人以下)に対しては努力義務としてスタートしていましたが、2022年4月1日以降は101人以上の企業までが義務の対象とされました。同年7月8日からは情報公表項目の選択肢の一つとして「男女の賃金の差異」が追加されるとともに、大企業に対して当該項目の公表が義務づけられています。
また、一般事業主行動計画の策定・届け出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に認定を受けられる「えるぼし認定」の制度があります。また、えるぼし認定企業のうち、一般事業主行動計画の目標達成や女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が特に優良である等の一定の要件を満たした場合に認定を受けられる「プラチナえるぼし認定」の制度も2020年6月から始まっています。
これまでの経緯をざっと振り返ると以上のとおりですが、2024年2月からは厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が開催され、雇用の分野における女性活躍推進やハラスメントについて現状の分析や論点整理を行い、去る8月8日には同検討会の報告書が公表されました。
<資料>「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会 報告書」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/001285696.pdf
報告書で示されている主要な点としては、以下が挙げられます。
<雇用の分野における女性活躍の更なる推進> ・女性活躍推進法の期限を10年間延長することが適当。 ・男女間賃金差異の公表については、101人以上300人以下の企業においても義務とすることが適当。 ・女性管理職比率については、企業の実情を踏まえつつ情報公表における開示必須項目とすることが適当。併せて、男女別管理職登用比率の付記を促すことも検討すべき。
<月経・不妊治療・更年期等の健康課題への対応> ・女性特有の健康課題への取組の要素を女性活躍推進法の事業主行動計画に盛り込むことを検討すべき。 ・女性特有の健康課題に取り組む企業を評価するための、えるぼし認定制度の見直しをすることが適当。
<職場におけるハラスメント対策の充実> ・一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律で明確化することが考えられる。 ・カスタマーハラスメント(カスハラ)については、企業横断的に取組が進むよう、対策強化が必要。労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当。カスハラの定義については、以下3つの要素のいずれも満たすものとして検討すべき。 ① 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと ② 社会通念上相当な範囲を超えた言動であること ③ 労働者の就業環境が害されること ・就活等セクシュアルハラスメントについても、事業主の雇用管理上の措置が講じられるようにしていくことが適当。 |
女性活躍推進法の期限延長(*)や情報公表項目拡大に向けた動きには引き続き注視していく必要がありますが、ハラスメント対策への言及も注目すべきポイントです。いわゆるカスハラは社会問題としても非常に大きく、看過できないレベルに至っているといえます。就活等セクシュアルハラスメントの問題についても、セクハラのみならずパワハラ含め、公正な採用選考の観点などとあわせて選考担当者へ改めて教育を行うきっかけとして捉えていただくのもよろしいのではないでしょうか。
<ご参考>「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001060585.pdf
(*)同じく10年間の時限立法であった次世代育成支援対策推進法(2005年4月施行)については、有効期限の延長を経て2025年3月31日が期限となっているところ、先の通常国会で成立した改正法により、更に10年間の延長(2035年3月31日まで)が決まっています。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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