TOP大野事務所コラム社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える

社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える

代表社員の野田です。2024年(令和6年)10月から、従業員数(厚生年金被保険者数)51100人の企業等で働くパート・アルバイトの方が、新たに短時間労働者として社会保険の適用となります。これに関連して同月得喪における社会保険料の取扱いについて、いくつか質問を受けましたので今回は短時間労働者や二以上勤務者に起こり得る事案について触れます。

 

  • 〇社会保険の同月得喪とは

社会保険の資格を取得した月にその資格を喪失した場合(例えば101日に資格を取得し、1016日に資格を喪失した場合)を「同月得喪」と称します。同月得喪については、通常の被保険者でも生じることですが、パート・アルバイトが短時間労働者として勤務を開始したものの思っていたものと異なる、職場に馴染めそうにない等の理由から早々に退職してしまうことがあります。このような入社直後の退職(同月得喪)は、正社員よりも多く発生するものと思われます。

 

  • 〇同月得喪における社会保険料の取扱い

同月得喪となった場合でも、原則として社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)が発生します。社会保険料は翌月徴収が基本となりますが、同月得喪となった場合は当月支給の給与から本人負担分の保険料を徴収することとなります。ただし、同月得喪後、さらにその月に厚生年金または国民年金の資格を取得した場合は、先に喪失した厚生年金保険料は返金されます。(図表ケース1とケース3)

この場合、年金事務所から対象となる企業に厚生年金保険料還付通知書が送られてきますので、会社は徴収した被保険者負担分を本人に戻すことになりますが、還付通知書が送られてくるまでに一定期間(通常23ケ月)を要します。この状況について年金事務所に確認したところ、「対象月(同一得喪発生月)に該当者が年金の資格取得手続きを行っているかを確認しているため時間を要する」とのことでした。したがって、該当者が対象月の年金の資格取得手続きを行わない場合には、厚生年金保険料は還付されません。(図表ケース2)

なお、同月得喪において還付されるのは厚生年金保険料であり、健康保険料は還付されません。よって、同一月に2事業所で同月得喪となり、3事業所目で健康保険に加入したような場合、3事業所分の健康保険料が発生することになります(図表ケース3)。これは、協会けんぽなど管掌者が同じ場合であっても還付されないとのことです。

     

     

    • 〇二以上勤務者の同月得喪

    兼業・副業に関する質問を受けることが増えましたが、特定適用事業所が拡大されることで、これまで以上に短時間労働者として同時に複数の適用事業所に使用される方が多くなるものと思われます。そうした場合、「二以上事業所勤務届」の提出が必要になります(図表ケース4)。

    二以上勤務者については保険料決定通知書を待たなければならず、それだけでも面倒な訳ですが、社会保険加入者(ケース4のA社の短時間勤務者等)が同月得喪となった場合、A社としては、保険料の増減の内訳が分からなくなるとのことです。厚生年金保険料が還付されるか否かはケース1・2のように個人次第ですし、還付通知書が届くまでに時間を要することから、このような者が複数発生してしまうと本当に厄介です。また、ケース1のように保険料が還付されれば良いですが、ケース2のように本人が国民年金の加入手続きを怠った(怠っている)ために保険料が還付されない状況において、支給する賃金が少額であるために本人負担分を徴収できないケースも発生しますので、企業としては採用時に他社での勤務状況と合わせて社会保険加入状況を確認しておく必要がありそうです。

     

    「兼業・副業等により2か所以上の事業所で勤務する皆さまへ」

    2kashoijyokinmu.pdf (nenkin.go.jp)

     

    執筆者:野田

    野田 好伸

    野田 好伸 特定社会保険労務士

    代表社員

    コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
    現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

    その他のコラム

    過去のニュース

    ニュースリリース

    2024.08.22 ニュース
    【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
    2024.09.26 ニュース
    『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
    2024.09.25 大野事務所コラム
    社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
    2024.09.18 大野事務所コラム
    理想のチーム
    2024.09.11 大野事務所コラム
    通勤災害における通勤とは②
    2024.09.11 これまでの情報配信メール
    令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
    2024.09.04 大野事務所コラム
    フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
    2024.08.28 大野事務所コラム
    やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
    2024.08.31 これまでの情報配信メール
    「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
    2024.08.21 これまでの情報配信メール
    雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
    2024.08.21 大野事務所コラム
    ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
    2024.08.15 ニュース
    『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
    2024.08.10 これまでの情報配信メール
    雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
    2024.08.07 大野事務所コラム
    1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
    2024.08.02 ニュース
    『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
    2024.07.31 大野事務所コラム
    健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
    2024.07.24 大野事務所コラム
    ナレッジは共有してこそ価値がある
    2024.08.01 これまでの情報配信メール
    2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
    2024.07.19 これまでの情報配信メール
    仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
    2024.07.17 大野事務所コラム
    通勤災害における通勤とは①
    2024.07.16 ニュース
    『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
    2024.07.10 大野事務所コラム
    これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
    2024.07.08 ニュース
    『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
    2024.07.03 大野事務所コラム
    CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
    2024.06.26 大野事務所コラム
    出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
    2024.06.19 大野事務所コラム
    改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
    2024.06.17 ニュース
    『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
    2024.06.12 大野事務所コラム
    株式報酬制度を考える
    2024.06.07 ニュース
    『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
    2024.06.05 大野事務所コラム
    As is – To beは切り離せない
    2024.05.29 大野事務所コラム
    取締役の労働者性②
    2024.05.22 大野事務所コラム
    兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
    2024.05.21 これまでの情報配信メール
    社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
    2024.05.17 ニュース
    『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
    2024.05.15 大野事務所コラム
    カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
    2024.05.10 ニュース
    『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
    2024.05.08 大野事務所コラム
    在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
    2024.05.01 大野事務所コラム
    改正育児・介護休業法への対応
    2024.05.11 これまでの情報配信メール
    労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
    2024.04.30 これまでの情報配信メール
    令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
    2024.04.30 これまでの情報配信メール
    所得税、個人住民税の定額減税について
    HOME
    事務所の特徴ABOUT US
    業務内容BUSINESS
    事務所紹介OFFICE
    報酬基準PLAN
    DOWNLOAD
    CONTACT
    pagetop