TOP大野事務所コラム健康情報取扱規程の作成は義務⁈②

健康情報取扱規程の作成は義務⁈②

代表社員の野田です。20212月に「健康情報取扱規程の作成は義務⁉」と題したコラムを掲載しましたが、少し前にこちらの記事に関するお問い合わせ・ご意見を受けましたので、再度触れたいと思います。

 

まず、根拠となる規定が労働安全衛生法第104条(心身の状態に関する情報の取扱い)にあり、以下の通りとなります。

 

〇労働安全衛生法第104 条(心身の状態に関する情報の取扱い)

1 事業者は、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置の実施に関し、労働者の心身の状態に関する情報を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、労働者の健康の確保に必要な範囲内で労働者の心身の状態に関する情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない。

3 厚生労働大臣は、前二項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

4 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。

 

このように安衛法第1043項では「必要な指針を公表するもの」とされており、それを受けて「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」が出されております。

更に当該指針の「2 心身の状態の情報の取扱いに関する原則」では、「(2)取扱規程を定める目的、(3)取扱規程に定めるべき事項」といったタイトルが設けられており、そこでは「(省略)・・・事業者は、当該事業場における取扱規程を定め、労使で共有することが必要である。取扱規程に定めるべき事項は、具体的には以下のものが考えられる。」と記載されています。

 

【労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針(改正令和4年3月31日)】https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf

 

このような法律と指針の内容から、「健康情報取扱規程は作成義務があるのではないか」というご意見・ご指摘を頂きました。確かに、この建付けをみていると規程の整備が義務であるように見受けられますが、ご意見・ご指摘が正しく、規程整備が義務であり、未整備の状況が安衛法第104条違反になるのでしょうか。加えて、労基法89条(作成および届出の義務)違反になるのでしょうか。この点について労働基準監督署や労働局に確認してみたところ、「そもそも指針の内容は強制力を持たないことから、指針の中で義務的な記載がなされていてもそれを根拠として安衛法104条違反にはならない。また、安全衛生に関する事項は、労基法89条の相対的必要記載事項ではあることから、本条違反にもならない。」とのことです。

実際、厚生労働省のモデル就業規則では、「第62条(労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い)事業者は労働者の心身の状態に関する情報を適正に取り扱う。」と例示されており、健康情報取扱規程について触れていません。

 

厚生労働省HP モデル就業規則について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

 

弊所では、労務監査・診断と称したコンプラチェックサービスを行っており、どのような状態や事案が法令違反となるのか、また違反になるのであればどの条文に抵触するのかを正確に捉えておく必要があることから、細かい部分ではありますが再度取り上げてみました。現在でも顧問先企業様より健康情報取扱規程の整備が必要かといった問い合わせを受けることがありますが、結論としましては、「健康情報取扱規程の作成は義務ではない」ということになります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.08.22 ニュース
【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
2024.06.26 大野事務所コラム
出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
2024.06.19 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
2024.06.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
2024.06.12 大野事務所コラム
株式報酬制度を考える
2024.06.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
2024.06.05 大野事務所コラム
As is – To beは切り離せない
2024.05.29 大野事務所コラム
取締役の労働者性②
2024.05.22 大野事務所コラム
兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
2024.05.21 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
2024.05.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
2024.05.15 大野事務所コラム
カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
2024.05.10 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
2024.05.08 大野事務所コラム
在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
2024.05.01 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応
2024.05.11 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
所得税、個人住民税の定額減税について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
2024.04.24 大野事務所コラム
懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop