TOP大野事務所コラムナレッジは共有してこそ価値がある

ナレッジは共有してこそ価値がある

こんにちは、大野事務所の鈴木です。

本日は、ナレッジマネジメントの重要性を感じる場面がありましたので、お話させて頂きます。

 

  1. 1.養育特例

 

厚生年金保険には、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という仕組みが設けられています。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)では、育休取得者の育休開始前と終了後の報酬を比較し、報酬の低下がみられ一定要件に該当する場合は、低下した報酬に応じた標準報酬月額へと改定できる仕組みがあります。この仕組みを育休月変と呼んだりしまして、これにより低下後の報酬に見合った社会保険料に、速やかに変更が反映されることになっています(育休月変については弊所過去コラムで詳細に解説しておりますので、是非ご参照ください)。

 

ただ、標準報酬月額が低く改定されると社会保険料は安くなりますが、標準報酬月額から算出される将来の老齢厚生年金額にも影響が出てきます。そこで、育休月変によって標準報酬月額が下がったとしても、老齢厚生年金の計算においては、従前の標準報酬月額を特例的に用いる仕組みが用意されています。この仕組みが冒頭に挙げた「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」で、養育特例と呼んだりします。

 

 

2.添付書類は何が必要なのか?

 

ところで、養育特例の申出には以下の添付書類が必要とされています(下記は厚労省リンクからの抜粋です)。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1)戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書

 (申出者と子の身分関係および子の生年月日を証明できるもの)

  ※コピーは不可です。

  ※申出者が世帯主の場合は、申出者と養育する子の身分関係が確認できる住民票の写しでも代用できます。

2)住民票の写し

 (養育特例の要件に該当した日に申出者と子が同居していることを確認できるもの)

 (例)育児休業終了の場合は、育児休業終了年月日の翌日の属する月の初日以後に発行された住民票が必要です。

  ※提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものを添付してください。

  ※コピーは不可です。

  ※申出者と養育する子の個人番号がどちらも申出書に記載されている場合は、(2)の添付書類は不要です。

 

(後略)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

原則として戸籍謄本と住民票、2つの添付書類が必要となりますが、一定の条件下では添付書類を省略できます。この添付書類の省略について、厚労省の案内の読解に毎度頭を悩ませています。一例として「世帯主がマイナンバーを書く」場合について考えてみます。(1)で戸籍謄本によらず住民票の写しで代用できるとあり、(2)でマイナンバーを書けば住民票を省略できるとありますから、戸籍謄本も住民票も省略できるように一見読めます。ただ、2)同居要件の確認としての住民票は省略できるものの、(1)身分関係の確認としての住民票(もしくは戸籍謄本)は省略できません。読み違えやすいのですが、(1)身分関係の確認書類は、世帯主か否かにかかわらず、省略はできません。世帯主に限って、住民票で代用できるだけです。(2)同居要件の確認書類は、世帯主か否かにかかわらず、マイナンバーの記載により省略できます。

 

 

なお、20251月より(1)身分関係の確認書類について、事業主の確認を受けた場合は、添付を省略できるようになる予定です。事業主側での確認時には何を用いるのか?という点はさておき、添付省略により一連の事務工数が削減されることは、個人的には望ましい方向だと考えます。

 

 

3.繰り返される疑問

 

この「養育特例の添付書類は何が必要なのか」問題は、先に見たような文章のわかりにくさから、弊所内でもしばしば話題になっているのを見かけます。この問題について、あるときはAさんがBさんに質問し、別のあるときはCさんがDさんに確認しています。ここでは養育特例の話題に合計4人が関わっていますが、前者2人と後者2人はそれぞれ別々の場、別々の時間で話題にしていますから、当然のことながら話題に上がったこと自体、相互に認知していません。A-B間、C-D間のコミュニケーションの所要時間がそれぞれ10分だとすると、4人合計40分を費やすことになりますが、伝える側の知識量が上限だとするとABCD間の知識量に差がある場合、それぞれで得られる成果にはばらつきが出る可能性が高いといえます。また、コミュニケーションに先立って作業の中断が4人全員に生じることも考慮すべき点です。

 

 

ここで合計所要時間40分の配分を意識すると、知識の共有方法について他の選択肢を考えることができます。実現の度合いは一旦度外視して、例えばABCDが一堂に会すれば、同じ40分でも全員が同じ成果を獲得できる可能性がありますし、より多くの参加者から意見や疑問を吸い上げることができます。あるいは、Dがそれについて詳しいことが予めわかっている場合、ADに聞きに行くことで、同じ40分でも、Bは一連のやりとりに介在せず、作業を中断する必要が生じません。

 

 

A-B間、C-D間のコミュニケーション自体を否定するわけではないものの、それが単に知識の伝達であれば、より合理性を追求できる余地がありそうです。ナレッジマネジメントの重要性は誰もが知るところではありますが、私たちのような知識産業ではとりわけ、従業員間の知識水準の底上げに対する取り組みが重要だと考えます。

 

 

4.工夫と敬意を

 

ナレッジマネジメントにおいては、①いわば知識のプールに全員が容易にアクセスし、②かつ自身も容易に知識を供給できる状態が理想的です。このような取り組みの推進において、その重要性・効果・目的を頭で理解していても中々実現しない、定着しない、頓挫してしまう等の課題が生ずることが考えられます。

 

前提として、その重要性等について参加者には一度説明するだけでなく、背景や考え方の核となる部分まで何度も繰り返し伝えること、懇切丁寧に協力をお願いすることは必須といえます。その上で具体的な方法は様々考えられるところ、まずは「場」へのアクセスのハードルを可能な限り低く設定します。何階層も潜ったフォルダを入口とするとか、イントラのアクセス時に都度パスワードを求められると、アクセス自体のハードルが高くなってしまいます。また、企画側としてはアクセスしたくなる「場」をつくる努力を継続的に要します。魅力的でないメールマガジンが読まれなくなるのと同じように、それが参加者にとって無益であれば淘汰されますが、有益であれば自然と継続されます。立ち上げ当初は企画側が率先して「場」を盛り立てることも必要でしょう。

 

①と②は表裏一体で、①を実現するためには②が十分に実現されている必要があり、逆も然りです。②の原則的な考えとしては「質より量」、とにかくナレッジやアイデアの量を増やすための仕掛けや、参加者への働きかけを検討します。例えば、対外的なものでなければ100点でなく60点の出来映えでもナレッジやアイデアを出してもらって構わない旨を周知する、社内コミュニケーションにおいてもチャットの投稿・返信の目安を35行、多くても200文字以内に収める、1センテンス1イシューを徹底する等、投稿・返信に制約を設けて、書き手の心理的なハードルを下げる仕掛けが考えられます。

 

一方で読み手の心理的なハードルを下げるためには、とにかく気軽に「眺められる」文量を意識することです。言うまでもなく、ナレッジやアイデアは口頭でなくテキストに起こすべきものですが、近頃のトレンドは切り抜きやショート動画に象徴されるように、「シンプル」「短い」「わかりやすい」コンテンツであり、「複雑」「長い」「わかりにくい」文章は私自身、関与先様とのやりとりにおいても忌避されがちな印象を受けます。X(旧Twitter)のタイムラインのような「覚えなくてもいい、ただ知っておくと便利かも」くらいの気軽さが理想的かもしれません。

 

その他、テキストは実際の会話よりも「冷たい」印象を与えますので、感嘆符や絵文字、リアクションで文章を補う工夫も考えられます(私の知り合いの社労士先生には「社内外問わず、今の自分の3倍盛ったテンション感でテキストを打つようにしている」という方もいらっしゃいます)。句点に対して圧を感じるというマルハラスメントなる言葉が話題になったことは記憶に新しいところです。私は逆に、句点がない方が少し怖い印象を受けるのですが…。

 

最後に、ナレッジやアイデアを共有してくれた人、コミュニケーションを図ってくれた人に対して、メンバー全員でリスペクトを表現することが肝要です。返信やリアクション等で実際に相手に伝えなければ意味はありません。このあたりは、以前のコラムでお伝えしたことと通ずる点があります。

 

この場を借りて、知識のエバンジェリストとも言うべき参加者の方々に、改めて敬意を表します。

 

 

執筆者:鈴木

鈴木 俊輔

鈴木 俊輔 特定社会保険労務士

第3事業部 グループリーダー

秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。

大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。

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