これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
こんにちは、大野事務所の土岐です。
最近、筆者の関与先様より(兼務)出向に関するご相談が続きましたので、今回は筆者のこれまでの(兼務)出向に関するコラムの概要をご紹介します(詳細は各コラムをご参照ください)。
出向と兼務出向
出向とは、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元と出向先の両方と雇用契約を締結し、出向先企業において一定期間継続して勤務することをいいます。この時の労働条件等については出向契約書等において定められることになりますところ、出向先のみに労務提供することになることから、出向元においては出向休職として取り扱うことが一般的と言えます。
一方、兼務出向とは、出向元・出向先のいずれにおいても労務提供を行うことを前提とした出向形態といえ、出向元(本務)、出向先(兼務)でどの程度業務を行うかについて、出向契約書・出向協定等において取り決めを行い、これに従って労働者がそれぞれに労務提供するということになります。
これまでの(兼務)出向に関するコラムの概要
兼務出向者の①労災保険の適用、②労災保険料の計上および③雇用保険の適用について述べたコラムです。
<①労災保険の適用>
兼務出向者がそれぞれの労務提供先において労災保険の適用を受けるためには、それぞれの労務提供先において労災保険料の算定基礎に当該兼務出向者の賃金を計上しておく必要がある、ということになります。
<②労災保険料の計上>
労災保険料の算定基礎への計上に関しては、「出向契約等において定められた、本務出向先等および兼務出向先の労働に対するそれぞれの賃金を計上する」のが原則となるものの、現実的には「便宜的に業務割合に応じて」算定を行なっているのが実際のところであり、行政当局も細かいところまで確認するのは現実的に難しいのではないかと筆者は考えることを述べました。
※なお、海外派遣者に関する労災保険の特別加入については、申請した「給付基礎日額」に基づき保険料が決定します。
<③雇用保険の適用>
「主たる賃金を受ける適用事業所においてのみ被保険者」となることから、出向元で賃金を受ける場合には出向元で、本務出向先等および兼務出向先のそれぞれから賃金を受ける場合には、いずれかの主たる賃金を受ける適用事業所において被保険者となり、当該適用事業所の賃金総額に計上し、保険料を算定することになります。
(2)在籍型の出向者のみで構成される出向先企業に労働者名簿、賃金台帳の調製義務はあるのか?
親会社からの在籍型出向者のみで構成される会社について、出向元において賃金を全額支払う場合に、出向先にも労働者名簿、出勤簿の調製が必要となるのかについて採り上げたコラムです。
在籍出向型の労働者に対する労基法の適用については、通達(昭61.6.6基発第333号)において、「出向契約等において定められた権限と責任に応じて、出向元または出向先の使用者が労基法の適用を受ける」とされています。さらに古い通達(昭35.11.18 基収第4901号の2)では、具体的な事例の判断として、労基法の適用について各条文の適用関係を示しており、このケースにおいては、労働者名簿、賃金台帳の調製義務については出向元・出向先のそれぞれにある、としています。
ただ、上記通達からは筆者自身が釈然としなかったところもあったためいくつかの労基署に確認したところ、「①賃金を支払う側のみが調製すればよい」とする見解と、「②賃金支払い義務に関係なく、出向元・先いずれも調製が必要であろう」とする見解があり、結論としては解釈の問題になるでしょう、ということになります。筆者としては、昭和61年の通達の「定められた権限と責任に応じて」という点から、①の見解が妥当と考えることを述べました。
(3)兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
タイトルの通り、兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動について採り上げたコラムです。
36協定は事業場単位で適用されることになりますので、本務の業務に従事する場合には出向元、兼務の業務に従事する場合には出向先の36協定が適用されることになります。
労働時間の集計に関しては、出向元・出向先の両方の36協定の範囲内での時間外労働となっているか、また、特別条項の発動が必要となるか否かの検討のためにも、本務・兼務のいずれの業務に従事していたのか、それぞれの労働時間を集計して管理していく必要があるといえます(このコラムでは原則の労働時間制度を前提としています)。
また、特別条項の発動に関しては、2つの場面が想定されるところです。
まず、本務・兼務のそれぞれの労働時間が明確に集計できる場合には、本務・兼務のいずれの時間外労働なのかが明らかとなり、いずれの36協定の適用となるのかについても明らかですから、いずれか一方または両方の36協定の定めに従って特別条項を発動し、36協定に定める範囲内で延長することは問題ないでしょう。
次に、本務・兼務のいずれの時間外労働となるのかが明確にわからない場合には、両方を合算して考える他にないと思われますので、本務・兼務のいずれにおいても特別条項を発動しておくのが妥当と筆者は考えること、実務においては当該出向者の時間外労働の状況を本務・兼務間で情報共有し、特別条項を発動することになりますので、特別条項を発動漏れがないようにご注意ください、ということを述べました。
(4)兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
(3)のコラムでは原則の労働時間制の場合について解説しましたが、こちらのコラムでは出向元では清算期間を1か月とするフレックスタイム制が適用され、兼務出向先では原則の労働時間制を適用する場合を採り上げました。
いくつかの労基署の副業・兼業の場合の考え方に当てはめて考えるのが妥当との見解のもと、具体例を挙げて本務・兼務出向先におけるそれぞれの36協定上の時間外労働のカウントについて、図などを用いて筆者なりの解釈をまとめた内容になります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
(兼務)出向については法令等の明確な線引きがないことも多く、解釈に委ねられることから実務上悩ましい場面があります。以上のコラムはその疑問点のほんの一部を採り上げたものではありますが、ご参考になりましたら幸いです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック 第2版
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf
■厚生労働省 労災保険 特別加入制度のしおり <海外派遣者用>
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-7.pdf
■厚生労働省 「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000964082.pdf
■厚生労働省 副業・兼業における労働時間の通算について
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079959.pdf
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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