出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
こんにちは。大野事務所の高田です。
2022年10月から施行されている出生時育児休業制度ですが、筆者の顧問先様においても取得する男性従業員が徐々に増えてきている印象があります。会社様によっては、取得しない方が珍しいといった話を聞くほどにもなっています。
さて、この出生時育児休業を取得した場合には、その取得時期に応じて社会保険料の免除が受けられます。ただし、取得する時期によっては、免除が受けられる月が2ヶ月となったり、1ヶ月となったり、あるいはまったく受けられなかったりします。今回は、その話を採り上げたいと思います。
1.出生時育児休業とは
出生時育児休業とは、産後休業を取得しない労働者(※)が、出生日または出産予定日のいずれか遅い方から8週を経過する日の翌日までの期間において、合計28日の範囲で、1回にまとめて、または2回に分けてのいずれかの方法で取得する休業のことです。
(※)「産後休業を取得しない労働者」とは、多くの場合は出産をしない父親を指しますが、養子をもらい受ける場合は、母親が取得することもできます。
繰り返しになりますが、「取得時期」については「出生日または出産予定日のいずれか遅い方から8週を経過する日の翌日まで」と定められていること、「取得日数」については「最大28日」であること、そして「分割できるのは最大2回まで」であることが特徴です。この3つの条件のうち1つでも満たさない場合、その休業自体を取得できないわけではありませんが、この場合は、「出生時育児休業」ではなくいわゆる「通常の育児休業」を取得したものとして取り扱われます。
2.社会保険料免除要件
育児休業(出生時育児休業を含む)を取得した場合において保険料が免除となるのは、次の2つのパターンです。
① 月末の日において育児休業を取得していること
② 育児休業の開始日と終了日が同一月内の場合は、休業取得日が14日以上であること
なお、賞与保険料については、2022年10月以降、賞与支払月の末日を含む「連続1ヶ月」を超える育児休業を取得する場合にのみ免除されることとなったため、最大28日しか取得できない出生時育児休業では免除要件を満たしませんので、今回は議論の対象から外します。
3.取得する時期によって、免除を受けられる月数が変わる
仮に出生日かつ出産予定日を2024年6月26日とすると、出生時育児休業の取得可能期間は、2024年6月26日~8月21日となります。出生時育児休業を2回に分けて取得する場合において、その取得時期によって保険料が免除される月が変わるということを具体例で示します。
【例1】 1回目:6月26日~6月30日(5日)、2回目:7月19日~7月31日(13日)
⇒保険料免除は、6月分と7月分の2ヶ月分
判断理由:6月、7月ともに月末に育児休業を取得している。
【例2】 1回目:6月26日~6月30日(5日)、2回目:8月1日~8月13日(13日)
⇒保険料免除は、6月分の1ヶ月分
判断理由:6月は月末に育児休業を取得している。8月は月末に育児休業を取得しておらず、かつ当月内の取得日数が14日に満たない。
【例3】 1回目:7月1日~7月5日(5日)、2回目:8月1日~8月13日(13日)
⇒保険料免除は、受けられない
判断理由:7月、8月はともに月末に育児休業を取得しておらず、かつ当月内の取得日数がともに14日に満たない。
せっかく2回に分割して取得するのであれば、【例1】のように、2ヶ月分の保険料免除が受けられる方が嬉しいのではないでしょうか?決して保険料免除を受けるために育児休業を取得するわけではないとはいえ、1ヶ月分の保険料は数万円程度、多い人は10万円を超えるほどの額になりますので、やはり生計への影響は無視できないと思います。
4.出生日が月初に近いと、2ヶ月分の免除を受けるのが難しい
2.の免除要件を再度ご確認頂きたいのですが、①の「月末の日において育児休業を取得していること」の要件を満たすことは比較的容易です。育児休業は、最低何日以上は取得しなければならないといった下限の定めは特にありませんので、月末の1日だけでも育児休業は成立します(※)。
(※)ただし、月末が休日である場合は、休日のみの期間に対する育児休業の申し出はできません。
出生時育児休業は、取得可能期間が概ね8週間ありますので、たいていの場合には、取得可能期間中に2回の月末が到来します。この場合は、2回の月末それぞれに休業を取得すれば、2ヶ月分の免除が受けられることになります。【パターン①】
一方、出生日および出産予定日がともに月初に近い場合は、出生時育児休業の取得可能期間中に月末が1回しか到来しません。たとえば、2024年7月1日が出生日かつ出産予定日の場合は、取得可能期間が2024年7月1日~8月26日となり、月末は7月の1回しかありません。この場合、7月は月末の日を含めて休業を取得すれば7月分の免除が受けられますが、8月は月中に14日以上の休業を取得しないと8月分の免除が受けられません。【パターン②】
したがって、この【パターン②】の方は、【パターン①】と比べて2ヶ月分の免除を受けるためのハードルが少々高いといえます。
5.まとめ
以上のように、出生時育児休業は、その取り方次第で免除が受けられる月が2ヶ月になったり、1ヶ月になったり、あるいはまったく受けられなかったりします。人事のご担当者は、従業員さんから休業の取り方について相談を受ける場面が多々あるのではないかと想像しますが、ご担当者の方が仕組をよく理解していないと、従業員さんが望む結果が得られず、後からクレームを受けてしまうことにもなり兼ねません。今回採り上げた内容についても、ご担当者の皆様には是非押さえておいて頂きたく思います。
執筆者:高田
高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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