TOP大野事務所コラム懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える

懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える

代表社員の野田です。少し前にリニエンシー制度についてご質問を受けたのですが、私自身が当該制度について知見がありませんでしたので、今回はこちらについて取り上げます。

 

人事労務担当者にはあまり馴染みがなく聞き慣れない言葉だと思いますが、リニエンシー制度とは、日本語で「課徴金減免制度」とされております。独占禁止法において規定されているものであり、公正取引委員会のHPでは次のように説明されています。

 

【課徴金減免制度とは】

事業者が自ら関与したカルテル、入札談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免される制度です。公正取引委員会が調査を開始する前に他の事業者よりも早期に報告すれば、課徴金の減額率が大きくなる仕組みとなっており、公正取引委員会の調査開始日前と調査開始日以降とで合わせて最大5社(ただし調査開始日以降は最大3社)に適用されます。事業者自らがその違反内容を報告し、更に資料を提出することにより、カルテル・入札談合の発見、解決を容易化して、競争秩序を早期に回復することを目的としています。

 

上記のとおり、関与した違反行為について申告した場合に課徴金を減免・免除するものとなりますが、社内不正・違反行為においても、社内通報制度や内部通報制度により発見されることが少なくないことから「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」では、次のように説明しています。

 

【自主的に通報を行った者に対する処分等の減免】

法令違反等に係る情報を可及的速やかに把握し、コンプライアンス経営の推進を図るため、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みを整備することも考えられる。

 

公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン

overview_190628_0004.pdf (caa.go.jp)

 

更に、自身が犯した不正について通報した事実を、懲戒処分の量定決定において考慮すべき事項とした裁判例(河川事務所職員・懲戒免職事件 大阪地裁平成24829日 労判106037頁)」もあります。

 

このような背景もあり、内部通報体制の実効性を高めるための施策として、非違行為を行った社員が自己申告してきた場合や社内調査に協力した場合に懲戒処分の量定を軽くしたり免除したりする「社内リニエンシー制度」を設けている企業があります。

 

早期発見・解決といった制度導入メリットがある一方、罪や責任を減免することに慎重・否定的な意見が多いことから、労務行政研究所が実施したアンケート調査によれば、当該制度を導入している企業割合は「8.6%」に留まります。現状において導入企業は僅かとなっていますが、社内リニエンシー制度を導入した場合の懸念点について考えてみます。

 

リニエンシー制度を導入したとしても、申告により全ての罰を免除する訳ではないでしょうから、免除する事案と軽減する事案を整理する必要があるかもしれません。重大な非違行為や違反行為であればあるほど、早期発見、増悪防止という点では効果があると思われますが、一方で心情的には許せないものがあります。重大違反を申告させるのだから、免除または相当な軽減をしない限り、制度としての効果が期待できないものの、それだけのことをしておきながら申告すれば重罰を免れるとなると周囲に対し示しがつかないのも事実です。

リニエンシー制度を導入している企業の中には、適用対象を独占禁止法違反行為にするといった限定的な対応をされているところもあるようですが、対象事案や判断基準を決めることも悩ましいものです。リニエンシー制度を導入していなくても、非違行為について自主的な申告があった場合、行為前後の行動や反省状況を勘案して処分量定を決定する企業は多いと思われますが、読者の皆様は社内リニエンシー制度についてどのようにお考えでしょうか。

 

以上となります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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