「場」がもたらすもの
こんにちは、大野事務所の鈴木です。
本日は、場づくりの重要性について考える機会がありましたので、お話させて頂きます。
1.職場の恩恵
先日、前職の上司であるK氏から連絡があり、小一時間ほどお話しする機会がありました。私の前職はガス会社でして、当初はガスの開閉栓や点検、コンロの販売、メーター交換等の現場業務に従事しました。上司や先輩方は物言いこそストレートだったものの、人間関係の機微を大事にされ、裏表なくさっぱりとした方が多かった印象です。私はというと現場業務とはかけ離れた痩身で、お世辞にも出来が良い方ではありませんでしたが、上司や先輩方が温かく、粘り強く見守ってくださり、何とか一通りの仕事ができるようになりました。
当時は早ければ半年、長くても2年程で異動が行われましたが、私が配属された職場は悉く、上司や先輩に恵まれました。K氏は3つ目の職場で5人目の上司として着任され、約半年間、一緒にお仕事をさせて頂きました。豪放磊落で人間味溢れ、いつも職場を盛り上げていらっしゃる方でした。電話口からは当時のK氏と全く変わらない様子が窺えて、大変嬉しい気持ちになりました。当時の職場はコミュニケーションが闊達で、公私で良いことがあったら共有したり、日頃気になったことをすぐ指摘し合う風土がありましたが、真面目ぶらずに冗談めかした感じだったり、言葉には不思議と棘がなかったり、タイミングやフォローに気を配ったりと、振り返ると対人コミュニケーションに長けた方が多く、若輩の私のことも寛容に受け入れて頂きました。
こうして、私は職場の恩恵を享受し、仕事を他者貢献の場として「楽しい」ものと捉えるようになりました。その後現場業務から離れ、QC活動の支援に従事することとなりましたが、当時のマインドは今に至るまで変わっていません。K氏との会話で、K氏や先輩方との協働を思い返し、私自身は恥ずかしい仕事ぶりではあったものの、チーム一丸となって全力で仕事に取り組んだ当時の記憶が蘇り、色々な感情が湧き起りました。
職場は単に仕事をする場に留まらず、人生の1/3を過ごす場所として、その人間関係はメンバーの人生に光を射し、ときに影を落とすこともあります。職場における人間関係は複雑であり、千差万別で、自身の言動がチームやメンバーにどのような影響を与えるか、計り知れないものです。K氏との会話を経て、私も職場において少しでもプラスの影響を及ぼすことで、これまで受けた恩恵を還元していく責務があると、思いを新たにしました。
2.ブレーンストーミング
さて、職場におけるマイナスの作用を防止、対処していくのは労務的なベクトルである一方、プラスの作用を企図していくのは組織開発的なベクトルといえます。心理的安全性が確保されたチームは、コミュニケーションやアイデアが闊達に飛び交い、チームとメンバーがプラスに作用し合います。「鶏が先か、卵が先か」のような話ですが、良いチームからアイデアが出るのは勿論、アイデアを出し合って良いチームにしていくことが組織開発的な志向といえるでしょう。
ここではアイデア出し、ひいては良いチームづくりの第一歩として、著名なアイデア出しの手法の一つであるブレーンストーミングを取り上げます。オーソドックスなやり方としては、数人のメンバーが集まって制限時間を区切り、付箋にひたすらアイデアを書き出していきます。前職では「2分で5個」「5分で10個」と、少々きつめに設定していました。その方が一つ一つを深く考えず、思い付きでアイデアを出してくれる傾向があるためです。
アイデアは『主語+述語』の短文で書き出します。例えば、業務における問題点を挙げていくにしても、「Excel作業」といった単語だけでは、何が問題かわかりません。逆に「Excelファイルで業務管理するとき、担当者が複数いてファイルを同時に開けず、更新作業が滞留してしまう」と具体的に書き出すと、アイデア出しのテンポが悪くなります。「Excel管理で作業滞留が発生している」くらいのボリュームで、詳細は事後に掘り下げるのがよいでしょう。
実施にあたっては重要なルールがいくつかあります。
「ひ」批判禁止
「じ」自由奔放
「い」意見結合(便乗)
「た」多数歓迎(質より量)
特に、アイデア出しの場面においては心理的安全性を確保するため、批判禁止のルールを厳守してください。このとき、言葉だけでなく表情や態度、声色といった非言語コミュニケーションにも留意します。例えば、「それいいね!」というフィードバックも、腕組みしてしかめ面で言ってしまえば逆効果です。
(心理的安全性については、過去の弊所コラムでもご紹介しております)
アイデアがある程度出たら、親和図法(KJ法)を用いて、類似のアイデアを整理・集約していくことをおすすめします。この過程で、問題の詳細な内容を確認し合ったり、理解を深めたり、議論や意見の付け足しによって問題がよりクリアになったり、メンバー間で問題意識の共有を促進する効果があります。議論を活性化するため、出てきたアイデアに対して「順番・道具・場所を変えてみたら?」「増やしたり、減らしたり、なくしてみたら?」と、どんどん便乗した問いを投げかけてみましょう。メンバーが問題意識を共有できたときは、問題解決に対して強い推進力が期待できます。
3.場をつくる
ところで、QC活動は業務改善のための活動ですが、QC会合の定期的な開催と協働により、副次的な効果として職場のコミュニケーション活性化に寄与することが知られています。QC会合のみならず、このようにメンバーが集まる機会は、会議・打ち合わせ・ミーティング等の名称で、どのようなチームにおいても通常行われます。これらをルーティンとして目的意識なく実施するのは非常に勿体ないことで、時間的・人的リソースを最大限に活用するために、これらの機会を単なる進捗報告や伝達の場に留めず、むしろメンバーから意見を引き出し、議論や思考を意識的に促すことで、組織開発の場に仕立ててみてはいかがでしょうか。
会合の開催時間を殊更に長くする必要はありません。むしろ時間を区切って、さっと集まって、ちょっと話して、さっと解散するくらいの方が、開催のハードルは下がるでしょう。ワイガヤとか、メダカ会合など色んな呼称がありますが、何気ない雑談やコミュニケーションから新しいビジネスや業務改善の種が見つかることもあります。そのような場がなければ、既存業務の中で種を見つける他ありません。
場づくりはチームに変化を余儀なくさせますから、変化を苦痛だと感じる方もいらっしゃるでしょう。あるいは、直ちに直接的なメリットを感じないため、あえて変化を望まない方もいらっしゃるかもしれません。メリットを感じない状態で無理やり進めることは「やらされ感」に繋がり、効果は半減どころか、軋轢によって別の問題を生じさせる可能性がありますから、変化を仕掛ける側はメンバーの物心両面のメリットを理解し、働きかける必要があります。
また、メリットがあったとしても、デメリットが大きければ同意は引き出せません。A業務がなくなってもB業務が増えるのであれば、あえて変化を受け入れようとは思いません。スピードを緩やかにする(激変緩和)、代わりのメリットを提示する(代償措置)、変化を受け入れやすい環境を整える、といった調整を検討します。あとはどれだけ仕掛ける側の思いが強いか、です。頭を下げて懇切丁寧に、粘り強くお願いしていくしかありません。労働条件の不利益変更の手順に通ずるものがありそうですが、その中身は決定的に異なり、決して不利益な変化ではなく、場づくりはチーム(職場)の未来に向けた投資行為そのものであるということです。
近頃、関与先様や他事務所の先生方等、社外の方とお話しする機会が増えました。採用・育成に思いきりシフトしてみようとか、部署の垣根を取り払って業務を集約してみようとか、副業・兼業を推進しようとか、新しいサービスを提案してみようとか、皆様揃って、様々なアイデアを語り、試行されようとしています。そのような場面では外部の人間である私ですら意見が出しやすいことに気付き、場づくりの重要性を痛感させられます。私も「場に恵まれて有難い」だけでなく、チームとメンバーがプラスに作用し合う場づくりに注力し、関与先様に良い作用を還流できるよう、今後も努めてまいります。
執筆者:鈴木
鈴木 俊輔 特定社会保険労務士
第3事業部 グループリーダー
秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。
大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。
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