兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
こんにちは、大野事務所の土岐です。
4月に入り、新年度となりました。3月中に36協定(届)等の各種労使協定の締結と届け出を終えられた会社様も多くいらっしゃることと思います。
さて今回は、兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動について採り上げます。
在籍出向と兼務出向
在籍出向とは、出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、労働者が出向元と出向先の両方と雇用契約を締結し、出向先企業において一定期間継続して勤務することをいうのはご存知の通りです。この時の労働条件等については出向契約書等において定められることになります。なお、出向先のみに労務提供することになることから、出向元においては出向休職として取り扱うことが一般的といえます。
兼務出向とは、明確な定義があるものではありませんが、在籍出向しつつ、出向元・出向先のいずれにおいても労務提供を行う出向形態といえます。本務、兼務(本コラムでは出向元を本務、出向先を兼務とします)においてどの業務をどの程度担うかについて、出向契約書・出向協定等により取り決めを行い、これに従って出向者がそれぞれに労務提供するということになります。
労基法の適用は?
さて、在籍出向の場合にはどのように労基法が適用されるのかが問題となりますが、こちらに関しては、通達(昭和61年6月6日基発第333号)において、「それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法の適用がある」とされています。
昭和61年6月6日、基発第333号(抜粋)
出向元及び出向先の双方とそれぞれ労働契約関係があるので、出向元及び出向先に対しては、それぞれ労働契約関係が存する限度で労働基準法等の適用がある。すなわち、出向元、出向先及び出向労働者三者間の取決めによって定められた権限と責任に応じて出向元の使用者又は出向先の使用者が出向労働者について労働基準法等における使用者としての責任を負うものである。
兼務出向の場合の労働時間の集計と36協定の適用は?
では本題の、労働時間の集計と36協定の取り扱いはどうなるのでしょうか。
(今回は、本務・兼務のいずれもフレックスタイム制や変形労働時間制等の適用はなく、原則の労働時間制であるものとします)
先に36協定について触れますと、36協定は事業場単位で適用されることになりますので、本務の業務に従事する場合には出向元、兼務の業務に従事する場合には出向先の36協定が適用されることになります。
そうなりますと、出向元・出向先の両方の36協定の範囲内での時間外労働となっているか、また、特別条項の発動が必要となるか否かの検討のためにも、本務・兼務のいずれの業務に従事していたのか、それぞれの労働時間を集計して管理していく必要があるといえるでしょう。
例えば曜日によって本務・兼務のいずれの業務に従事するか分かれている場合には、本務・兼務のそれぞれの労働時間の集計は容易だと思われますので、それぞれの労働時間について、時間外労働となる部分を積み上げていけばよいですね。
ただ、曜日によって業務が分かれるなど、本務・兼務の別で明確に労働時間を集計できるケースは少ないと思われます。日々、本務・兼務の業務が入り乱れてお仕事をされているのが実情ではないでしょうか。
この点、労基法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定められており、これに関する通達(昭和23年5月14日、基発第769号)では、「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むとされています。従って、本務・兼務の労働時間を合算して労働を集計することになります。
特別条項の発動は?
本務・兼務のそれぞれの労働時間が明確に集計できる場合には、本務・兼務のいずれの時間外労働なのかが明らかとなり、いずれの36協定の適用となるのかについても明らかですから、いずれか一方または両方の36協定の定めに従って特別条項を発動し、36協定に定める範囲内で延長することは問題ないでしょう。
ただし、この場合であっても、1週40時間を超える労働については合算する必要があることから、40時間を超える部分の時間外労働については、当該40時間を超える時間外労働が発生した事業場において、時間外労働として取り扱う必要がある点に注意が必要です。また、時間外・休日労働数を合算して1ヶ月100時間未満および2ヶ月から6ヶ月を平均して80時間未満とする規制は当該出向者個人に及びますので、本務・兼務のそれぞれの36協定だけを意識していればよいわけではないことも留意点といえます。
一方、本務・兼務のいずれの時間外労働となるのかが明確にわからない場合には、前述の通り両方を合算して考える他にないと思われますので、本務・兼務のいずれにおいても特別条項を発動しておくのが妥当と筆者は考えます。この点、実務においては当該出向者の時間外労働の状況を本務・兼務間で情報共有し、特別条項を発動することになりますので、特別条項を発動漏れがないようにご注意いただきたいと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本務・兼務のいずれにおいても特別条項を発動しなければならないとする法令や通達上の根拠が明確に述べられているわけではありませんので解釈の問題となりますが、拠り所となる法令や通達等から妥当な解釈を検討のうえ、労基法に抵触しないものと考えられる運用をしていくことが肝要と筆者は考えます。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 在籍型出向『基本がわかる』ハンドブック 第2版
https://www.mhlw.go.jp/content/000739527.pdf
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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