雇用保険法の改正動向
こんにちは。大野事務所の深田です。
前回のコラムでは、育児・介護休業法の改正動向をお伝えしましたが、現在開会中の国会に提出されている労働法令改正法案は他にもあり、その内容としましても実務に与える影響が小さくないといえます。
2月9日には「雇用保険法等の一部を改正する法律案」が提出され、育児休業給付に係る国庫負担や保険料率といった予算に絡んだ改正内容が含まれているため年度内に結論が出るものと思われますが、同法案の中でもとりわけ実務に関係してくるのが「雇用保険の適用拡大」です。
雇用保険の適用拡大ということでは振り返ってみれば、適用基準である「6か月以上の雇用見込み」が「31日以上の雇用見込み」に2010年4月から緩和されたわけですが、現場での混乱はさほど大きくなかったように記憶しています。
ただ、今回の改正案では、雇用保険法の適用除外とされている「1週間の所定労働時間が20時間未満である者」を「10時間未満」にまで引き下げることとされており、特にパートタイマーを多数雇用している企業にとっては影響の大きい改正内容だといえます。
適用除外の基準を「10時間未満」にまで引き下げた場合、複数の事業所で短時間就業を掛け持ちしているような方の取り扱いが気になるところです。2以上の事業主の適用事業に雇用される者についての被保険者資格の取り扱いに関し、現行の「雇用保険に関する業務取扱要領」では、「同時に2以上の雇用関係にある労働者については、当該2以上の雇用関係のうち一の雇用関係(原則として、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係とする)についてのみ被保険者となる。」とされているわけですが、今回の改正がなされた場合に該当者の増加が見込まれますので、いずれの事業所において被保険者とすべきなのか、より明確な判断基準が必要となるようにも思われます。
なお、「新たに適用拡大により被保険者となる者は、適用要件を満たした場合、現行の被保険者と同様に、失業等給付(基本手当等、教育訓練給付等)、育児休業給付、雇用保険二事業の対象とすることとし、給付水準も同じ考え方に基づき設定すべきである。現行の被保険者と同様の給付等の仕組みとすることを踏まえ、保険料率、国庫負担割合についても現行の被保険者と同等の水準として設定すべきである。」(労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告 2024年1月10日)とされています。本改正の施行日は、2028年10月1日を予定しています。
さて、そのような法案が提出されている一方で、それとは別の法案にも雇用保険法の改正案が含まれているという珍しい状況になっています。
別の法案というのは、2月16日に国会へ提出された「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」でして、管轄省庁は厚生労働省ではなくこども家庭庁です。
同法案においては、雇用保険法の改正として次のような内容が盛り込まれています。
①出生後休業支援給付の創設
②育児時短就業給付の創設
今回のコラムでは大枠だけにとどめますが、①は対象期間内に両親ともに14日以上の出生後休業を取得した場合に支給されるものです。②は、2歳未満の子を養育するための所定労働時間を短縮することによる就業をした場合に支給されるものです。いずれも人事ご担当者の手続き業務に直結するものですが、施行日は2025年4月1日を予定しています。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.07.03 大野事務所コラム
- CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
- 2024.06.26 大野事務所コラム
- 出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
- 2024.06.19 大野事務所コラム
- 改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
- 2024.06.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
- 2024.06.12 大野事務所コラム
- 株式報酬制度を考える
- 2024.06.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
- 2024.06.05 大野事務所コラム
- As is – To beは切り離せない
- 2024.05.29 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性②
- 2024.05.22 大野事務所コラム
- 兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
- 2024.05.21 これまでの情報配信メール
- 社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
- 2024.05.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
- 2024.05.15 大野事務所コラム
- カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
- 2024.05.10 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
- 2024.05.08 大野事務所コラム
- 在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
- 2024.05.01 大野事務所コラム
- 改正育児・介護休業法への対応
- 2024.05.11 これまでの情報配信メール
- 労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 所得税、個人住民税の定額減税について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
- 2024.04.24 大野事務所コラム
- 懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
- 2024.04.17 大野事務所コラム
- 「場」がもたらすもの
- 2024.04.10 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性
- 2024.04.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
- 2024.04.03 大野事務所コラム
- 兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
- 2024.03.27 大野事務所コラム
- 小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
- 2024.03.21 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2024.03.20 大野事務所コラム
- 退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
- 2024.03.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
- 2024.03.21 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
- 2024.03.26 これまでの情報配信メール
- 「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
- 2024.03.13 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正動向
- 2024.03.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
- 2024.03.06 大野事務所コラム
- 有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
- 2024.02.28 これまでの情報配信メール
- 建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
- 2024.02.28 大野事務所コラム
- バトンタッチ
- 2024.02.21 大野事務所コラム
- 被扶養者の認定は審査請求の対象!?
- 2024.02.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
- 2024.02.14 大野事務所コラム
- フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
- 2024.02.16 これまでの情報配信メール
- 令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等