育児・介護休業法の改正動向
こんにちは。大野事務所の深田です。
私のコラムでも何度か取り上げてきましたが、育児・介護休業法について育児休業制度を中心とした大きな改正が2022年4月から段階的に施行されました。それに伴い、規程の構成も一層複雑なものとならざるを得なかったことから、改定作業にはどこの企業様も難儀されたことと思いますが、法改正から1年以上を経て2024年を迎え、当該改正に関連した運用面はある程度落ち着いてきているのではないでしょうか。
ただ、一段落したのも束の間、育児・介護休業法の新たな法改正に向けた動きがあり、昨年12月26日に労働政策審議会が厚生労働大臣に建議した「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実について」によって、その方向性の詳細が明らかとなりました。今後、厚生労働省では建議の内容を踏まえた法律案要綱を作成して労働政策審議会に諮問し、今月26日に召集される第213回通常国会にて改正法案が提出される見込みです。
本件に関しては実務に与える影響も大きいことから、今後も本コラムで随時取り上げていきたいと考えていますが、今回のコラムでは上記建議の内容から主なポイントを現行制度と比較する形でピックアップしますので、全体像を掴む上でのご参考となれば幸いです。
(1)子が3歳になるまでの両立支援の拡充
改正の方向性 |
現行 |
テレワークを事業主の努力義務とする。 |
規定なし |
現行の制度を引き続き維持した上で、他の勤務時間(1日5時間や7時間など)も併せて設定することを一層促すため、これらの設定が望ましい旨を指針で示す。 |
短時間勤務制度は、1日6時間とする措置を必ず設けなければならない。 |
(2)子が3歳以降小学校就学前までの両立支援の拡充
改正の方向性 |
現行 |
・始業時刻等の変更や短時間勤務制度など、労働者が選択可能なものを2以上選択して措置を講じる義務を設ける。 ・上記措置の選択にあたっては、労働組合等の意見を聴かなければならないこととする。 ・制度を利用できるようになる子が3歳になるまでの適切な時期に労働者に対して制度の説明と取得意向を確認するための面談等(現行の妊娠・出産等の申出時と同様に、書面の交付等も可能とする。)を行うことを義務付ける。 |
措置を講ずる努力義務 |
所定外労働の免除を小学校就学前まで請求できることとする。 |
3歳に満たない子が対象 |
(3)子の看護休暇制度の見直し
改正の方向性 |
現行 |
・感染症に伴う学級閉鎖等や子の行事参加(子の入園式、卒園式および入学式を対象)にも利用できるようにする。 ・取得事由の拡大に伴い、名称を「子の看護等休暇」に見直す。 ・請求できる期間は、小学校3年生修了時までとする。 ・労使協定による適用除外の仕組みを廃止する。 |
・取得事由は、「負傷し、もしくは疾病にかかった当該子の世話をするために、または当該子に予防接種や健康診断を受けさせるため」。 ・請求できる期間は、小学校就学の始期に達するまで。 ・継続して雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定によって対象から除外することができる。 |
(4)育児休業取得状況の公表義務の対象となる企業の拡大
改正の方向性 |
現行 |
男性の育児休業取得率の公表義務の対象を拡大し、常時雇用する労働者数が300人超の事業主に公表を義務付ける。 |
常時雇用する労働者数が1,000人超の事業主が対象。 |
(5)次世代育成支援対策推進法の延長
改正の方向性 |
現行 |
次世代育成支援対策推進法の期限を、2035(令和17)年3月31日まで延長する。 |
期限は2025(令和7)年3月31日。 |
法律の内容についても所要の見直しを行うこととする。 |
<省略> |
(6)認定制度について
改正の方向性 |
現行 |
くるみん認定の基準を見直す(基準を引き上げる)こととする。 |
<省略> |
(7)家族の介護の必要性の申出をした労働者に対する個別の周知等および環境整備
改正の方向性 |
現行 |
家族の介護の必要性に直面した労働者が申出をした場合に、事業主が両立支援制度等に関する情報を個別に周知し、意向を確認することを義務付ける。 |
規定なし |
介護保険の第2被保険者となる40歳のタイミング等の効果的な時期に、事業主が労働者に対して、介護に関する両立支援制度の情報を記載した資料等を配布する等の情報提供を一律に行うことを義務付ける。 |
規定なし |
労使協定による適用除外の仕組みを廃止する。 |
継続して雇用された期間が6か月未満の労働者を労使協定によって介護休暇の対象から除外することができる。 |
介護期のテレワークについては選択的措置義務とはせず、努力義務とする。 |
規定なし |
(8)仕事と育児の両立に係る労働者の個別の意向の聴取と配慮
改正の方向性 |
現行 |
育児休業等の取得意向を確認するための事業主による面談等の際に、労働者本人に対して、仕事と育児の両立に係る個別の意向(勤務時間帯や勤務地、両立制度の利用期間の希望等)を確認するとともに、意向を確認したあとは、事業主はその意向に配慮をしなければならないこととする。 |
規定なし |
(9)両立支援制度を安心して利用できる制度の在り方
改正の方向性 |
現行 |
両立支援制度を充実する際も、他の制度と同様、労働者が両立支援制度の利用申出や利用をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこととする。 |
規定なし |
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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