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労働保険の対象となる賃金を考える

代表社員の野田です。今回は労働保険の対象となる賃金について考えます。

 

会社が金銭や現物で支給するものについて、税、労働保険、社会保険の対象となるのか、それぞれ確認されているものと思われますが、少し前から労働保険の対象となる賃金の考え方が変わったようなので、この場を借りてお伝えします。

 

弊所でも毎年の年度更新業務において賃金台帳上の支給項目を確認していますが、資格取得奨励金、旅行補助金、家族健康診断補助金、持株奨励金、財形奨励金など、社員やその家族の福利厚生的な補助・奨励金について、また転勤一時金(定額支給で実費弁済ではないもの)、コロナ補助金、インフラ手当などの一時金について注意を要します。

 

以前から賃金の対象となるか判断に迷うようなものについては、その都度行政に確認をしてきましたが、かつては「福利厚生的なものであれば労働保険においては賃金としなくて良い」といった回答がなされていたところ、ここ数年は「労働協約、就業規則、労働契約、労使協定等によって支給条件が明確にされたものであれば賃金となります」という回答に変わっています。

 

このような行政回答の変化について、よくよく資料を確認してみると、その答えが「労働保険 年度更新 申告書の書き方」にありました。当該パンフレットは、毎年、会社宛に郵送されてくる労働保険料申告書(緑色の窓付き封筒)に同封されていますので、皆様も目にされているものと思われますが、その中に「5.労働保険対象賃金の範囲」というページがあります。そこで「賃金とするもの、賃金としないもの」が明示されていますが、「賃金とするもの」に「その他」として「労働協約、就業規則、労働契約、労使協定(休業協定)等によってあらかじめ支給条件が明確にされたもの」と記載されており、まさに行政回答そのものです。この点、令和2年度以前の同パンフレットでは、「その他:不況対策による賃金からの控除分が労使協定に基づき遡って支払われる場合の給与」と記載されていましたので、令和3年度版からの変更となります。

 

以前は「賃金としないもの」を広く解釈していたように感じられますが、就業規則や雇用契約等で支給条件が明確にされたものは賃金とするとなると、「賃金としないもの」としてパンフレットに明示されている項目(結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金、永年勤続表彰金、実費弁済としての出張旅費・宿泊費等、休業補償、傷病手当金、財形・持株・持家奨励金など)以外は、ほとんどが対象賃金になるのではないでしょうか。

 

  • ●令和5年度 労働保険 年度更新 申告書の書き方(7.労働保険対象賃金の範囲)

継続事業用_2023.indd (mhlw.go.jp)

 

因みに、持株奨励金は原則として、労働保険・社会保険のいずれにおいても賃金・報酬(※)には該当しません。一方、同じ奨励金であっても財形奨励金は、労働保険においては賃金とはならず、社会保険においては報酬に該当する点、ご注意ください。

※持株奨励金は、強制加入である場合、また任意加入であっても従業員の大半が加入している実態がある場合は、社会保険上の報酬となります。

 

  • ●疑義照会回答(厚生年金保険 適用) 「整理番号11:報酬及び賞与の範囲(財形奨励金)について」

kounen_tekiyou.pdf (nenkin.go.jp)

 

社会保険については、保険料が高額であることや将来給付に影響することなどから、これまでも対象となる賃金か否か慎重に判断してきたところですが、労働保険についても今一度確認しておく必要があります。給与項目の設定は、給与システム変更時などに行うことはあるものの、毎年(定期的に)確認してはいないでしょうから、来年度に向け早い時季に設定状況を確認してはいかがでしょうか。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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