なぜ学ぶのか?
新年明けましておめでとうございます。大野事務所の鈴木です。
本日は「なぜ学ぶのか?」について考える機会がありましたので、お話をさせて頂きます。
1.「特定」社会保険労務士
「特定社会保険労務士」をご存知でしょうか?平成19年の社労士法改正により、以下の業務が新たに社労士の業務として拡充されましたが、これらの業務は紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ紛争解決手続代理業務の付記を受けた社労士のみが行えるものとされているところ、この付記を受けた社労士を「特定社会保険労務士」と呼称します。
・都道府県労働局の紛争調整委員会におけるあっせん手続における当事者の代理
・都道府県労働委員会におけるあっせん手続における当事者の代理
・民間紛争解決機関における当事者の代理
・上記の手続に関する相談
・和解交渉・和解契約の締結(紛争解決手続の開始から終了までの間に限る)
弁護士法72条では、一般の法律事件に関して弁護士以外の者が代理を行うこと、その他の法律事務を行うことを禁止していますが、但し書きにおいて、他の法律に別段の定めがある場合はこの限りでない旨が定められています。前段の改正により、特定社労士は条件付ではあるものの、労働分野の紛争において弁護士のような役割を担うことができるようになりました。ただ、代理行為が依頼者本人に直接効果を及ぼすという影響の大きさ、社労士の本来業務と紛争解決手続代理業務とは性質を異にすることから、能力担保のための研修と認定試験が毎年9月から11月にかけて行われています。
2.アウトプットの効果
前置きが長くなりましたが、私もアップスキリングの一環として、本研修に参加して参りました。
研修は、①講義 ②グループ研修 ③ゼミナールの3部構成で、①と③は座学による知識習得、②は討論による知識定着の場となっています。①と③はインプット、②はアウトプットにあたりますが、本研修ではアウトプットの効果を強烈に感じることとなりました。
皆様も実感があると思いますが、知識を単にインプットしただけでは中々「自分のもの」になりません。書き出したり、別の言葉で言い換えたり、体系的に整理したりといったアウトプットを経て、知識が徐々に「自分のもの」になるわけですが、その中でも「相手に伝える」ことは最も効果的なアウトプットの手法とされています。何となく聞きかじった法律上の要件について、いざグループ内で意見してみると、如何に知識が「自分のもの」になっていないかに気付かされます。
グループ内ではキャリアの豊富な諸先輩方と討論を行いましたが、討論においては心理的安全性が確保され、意見が活発に飛び交いました。自身では気付き得ない論点や考え方にも触れ、大変有意義なグループ研修となりました。
昨今、様々な媒体により膨大な知識を収集することが可能となった一方、その膨大なインプットに対して相対的にアウトプットの機会が不足している方は、存外多いのではないでしょうか。勿論、学習というのはそれ自体が知的好奇心を満たすものであり、趣味としての側面もあります。ただ、私たちはその学びを何らかの形でアウトプットに変換することで、外界に向かって価値を提供したり、情報を交換したりと、インプットの価値を飛躍的に高めることができますから、アウトプットを想定しないインプットは本来の価値を損なってしまっているとも考えられます。
厚生労働省が昨年発出した『職場における学び・学び直し促進ガイドライン』においても、アウトプットに言及した記載が随所で見受けられ、一部を抜粋してご紹介させて頂きます(こちらは、過去の弊所コラムでもご紹介しております)。
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『労働者の自律性・主体性を尊重した学び・学び直しを、企業全体の力に高め、労働者本人と企業の双方の持続的な成長につなげていくためには、企業が目指すビジョン・経営戦略といった基本認識を労使が共有することが重要である。……(中略)……学び・学び直しの必要性を労使が共有し、協働して取り組むことは、労働者の学びに対する内発的動機付けにつながる』
『学び・学び直しを促進する上では、労働者相互の学び合いや学びの成果の共有など、労働者間の協働も重要となる』
『個々の労働者の学び・学び直しのモチベーションを高め、その効果を確実なものとし、次の学びを呼び込むためには、学び・学び直し後に身に付けた能力・スキルを発揮することができる場の提供や適切な評価を行うことが重要である』
『労使の「協働」により、多くの職場において、多くの労働者によって、学び・学び直しが実践され、労働者の能力・スキル、キャリアの向上を実現し、新たな価値の創造につながるより高いレベルの新たな学び・学び直しを呼び込むという「学びが学びを呼ぶ」状態、いわば、「学びの好循環」が実現されることが期待される。……(中略)……時間と労力はかかるが、これにより学びの気運や企業文化・企業風土が醸成・形成されれば、その後の変化に対しても、学びが、自走的に進むことが期待される。これは、労働者のエンゲージメントや職場満足度の維持向上、企業の持続的成長にもつながる』
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奇しくも、弊所でも昨秋より職員間の自主勉強会がキックオフとなりました。士業界隈ではよく見かけられる取り組みですが、弊所の自主勉強会はコロナ禍をきっかけに活動を休止していたところ、この度再開に至ったものです。私も勉強会に参加していますが、再開後の勉強会は従前に比べて、アウトプットの場面が格段に増えています。特に社歴の浅い方ほど、自らの言葉で自身の意見を他者に伝えるという場面があまりなく、日常業務におけるアウトプットの場面が限られていますから、参加者からは概ね好意的な意見が寄せられています。また、メンバー同士の結び付きも強まり、意見発出が次第に活発になる様子が見て取れます。
共通の目的をもって集まったメンバーが同じ課題に取り組み、様々な知見が発出され、その過程で研鑽していくことは、メンバー全員の「底上げ」に効果的であることを実感しています。
3.なぜ学ぶのか?
学び合いの機会に触れ、私自身も冒頭の問いについて考えるようになりました。これに対しては、多くの方がご自身の考えをお持ちだろうと思いますし、そのように題した書籍も数多く出ているところ、私見ながら「自身を変化させ、高めるため」というシンプルな答えを持っています。学びは机上でも日常でも、あらゆる場面で得られるものではありますが、いずれも自身の既存の知識や経験が拡充し、新しい行動や考えを引き起こす触媒のようなものだと考えられます。
これは組織に置き換えても言えることで、学びが「自身を変化させ、高める」ものだとすると、組織にとっての学びも「組織を変化させ、高める」ことに役立つでしょう。そして組織の学びとは、構成員である一人一人の学びの積み上げや相互の学び合いの積み重ねに他なりません。自身を変化させ、高めることで、結果的に組織が変化し、高まることが期待されますし、健全に学び合う組織であれば、その恩恵は組織だけでなく、構成員たるメンバーにも及ぶでしょう。
不朽の名作『SLAM DUNK』22巻(井上雄彦,1994)より、非常に含蓄のある言葉をご紹介したいと思います。
「お前の為にチームがあるんじゃねぇ チームの為にお前がいるんだ」
組織の規模感にもよりますが、チームが一枚岩になって共通のゴールを目指したときの推進力やメンバーへの影響力は、非常に力強いものです。相手方の動向の如何を問わず、まずは自身が学び、お互いに学び合う関係を目指していくことが、自身にとっても組織にとってもプラスの影響をもたらすのではないでしょうか。
私自身も社労士業界に入り6年目となりますが、日進月歩が続きます。
本年が皆様にとっても「学び」多き一年となりますことを、心よりお祈りしております。
執筆者:鈴木
鈴木 俊輔 特定社会保険労務士
第3事業部 グループリーダー
秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。
大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。
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