TOP大野事務所コラム審査請求制度の概説③

審査請求制度の概説③

こんにちは。大野事務所の岩澤です。

 

2023年、最後のコラムです。

 

今年から、コラム担当に仲間入りして、何とか駆け抜けることができましたが、本当に文章を書くことは難しいことだと痛感した1年でした。なかなか自分が思うことをうまく表現できなかったり、自分が表現したかったことが、人によっては全く別のとらえ方をしてしまうものだということを学んだり、いやいや、本当に勉強になりました。

 

さて、今回で審査請求制度の概説は最後です。次回からは、引き続き、裁決集のご紹介に移りたいと思います。では早速、労災保険、雇用保険の審査請求制度である、労働保険審査請求制度の内容を掘り下げて解説させていただきます。

 

≪労働保険審査請求制度の解説≫

 

◆概要◆

 

労働保険審査請求制度は労災保険、雇用保険における特定の処分について、その処分に不服がある者が審査官に審査請求をし、その決定に不服がある者は審査会に対して再審査請求をする制度となっています。制度の目的や二審制であることなどは社会保険審査請求制度と同じですが、異なっている点は、審査請求先である「審査官」が労災保険と雇用保険で分かれていることです。労災保険では「労働者災害補償保険審査官」が、雇用保険では「雇用保険審査官」が審査請求先となっています。なお、再審査請求については、「労働保険審査会」という統一された審査機関となっています。

 

 

 

◆審査請求、再審査請求の対象となる処分◆

 

<労災保険の審査請求の対象となる処分>

労災保険の場合、保険給付に関する処分が対象となります。具体的に示すと以下の通りです。

 

 

 

<雇用保険の審査請求の対象となる処分>

雇用保険では被保険者の資格の得喪に関する処分、失業等給付、育児休業給付に関する処分、または、不正受給に係る返還命令若しくは納付命令が行われた場合のその処分が対象となりますが、具体的には以下の通りです。

 

 

 

<再審査請求の対象となる処分>

労災保険、雇用保険ともに審査請求の決定に不服がある処分について再審査請求をすることになりますので、審査請求の対象となる処分すべてについて再審査請求の対象になると言えます。ちなみに、労働保険審査会では社会保険審査会のように、審査会へ「再審査請求」ではなく「審査請求」をするような処分はありません。(社会保険審査請求制度では保険料の決定等の処分は審査会へ審査請求するような流れとなっています。)

 

<審査請求の対象とならない処分>

・社会復帰促進等事業に係る処分(特別支給金、アフターケア通院費など)・・・労災保険

・費用徴収・・・労災保険

・特別加入の承認又は不承認・・・労災保険

・平均賃金の決定処分・・・労災保険

・行政庁の不作為によるもの・・・労災保険、雇用保険

・雇用保険の雇用安定事業等(助成金など)・・・雇用保険

以上については、労働保険審査請求制度の対象ではなく、行審法に基づく不服申し立ての対象となります。ただし、助成金については不服申し立ての対象たる処分性を有していないとされ、行審法に基づく不服申し立ての対象にもなりません。

 

◆不服申し立てを行う審査請求先、再審査請求先◆

 

<審査請求先>

審査請求先は前述したように労災保険、雇用保険で分かれています。

1.労災保険の場合

処分を行った労働基準監督署の所在地を管轄する労働局に置かれた労働者災害補償保険審査官に対して行います。あるいは、処分を行った労働基準監督署の署長又は審査請求人の住所等を管轄する労働基準監督署の署長を経由してもすることができます。

  • 2.雇用保険の場合

処分を行ったハローワークの所在地を管轄する労働局に置かれた雇用保険審査官に対して行います。あるいは、処分を行ったハローワークの所長又は審査請求人の住所等を管轄するハローワークの所長を経由してもすることができます。

 

<再審査請求先>

再審査請求先については、厚生労働大臣所轄の労働保険審査会となり、労災保険と雇用保険で統一された審査機関となります。ただし、処分を行った行政庁の長又は再審査請求人の住所等を管轄する行政庁の長あるいは決定をした審査官を経由してすることもできます。

 

◆審査機関について(労働者災害補償保険審査官、雇用保険審査官、労働保険審査会)◆

 

<労働者災害補償保険審査官>

労働基準監督官又は厚生労働事務官のうちから厚生労働大臣によって任命され、各都道府県労働局に置かれています。保険給付に関する不服申し立てについて、行政内部の準司法的機能の第一審として審査を行います。

 

<雇用保険審査官>

厚生労働事務官のうちから厚生労働大臣によって任命され、各都道府県労働局に置かれています。雇用保険の審査請求の対象となる処分についての第一審としての審査を行います。

 

<労働保険審査会>

労災保険法及び雇用保険法の規定による再審査請求の事件を取り扱わせるため、厚生労働大臣の所轄の下に、労働保険審査会が置かれています。

労働保険審査会は委員九人を以て組織する合議体の行政機関です。これに対して、労働者災害補償保険審査官および雇用保険審査官は、事務を簡易迅速に処理するため独任制となっています。

 

◆労働者災害補償保険審査官および雇用保険審査官の判断基準◆

 

審査官は審査請求に対して独立して個々に判断しますが、その判断は、厚生労働省内部の行政組織の一部として法令および厚生労働省の行政解釈を明らかにした通達に基づいて判断します。なお、過去の審査会の裁決については、先例として参考にすることはありますが、厚生労働省の行政解釈ではないので、審査官の決定はこれに拘束されるものではありません。

 

◆審査請求ができる者(審査請求人)◆

 

<労災保険>

保険給付に関する決定に不服のある者がすることができますが、この不服がある者とは、行政庁が行った処分により、直接、自己の法律上の権利又は利益を侵害された者をいいます。

なお、事業主は、事業主の立場においてはいかなる意味では審査請求人になることはできません。

  • (審査請求ができる人の例)

・原処分を受けた者

・原処分を受けた者が死亡した場合で、保険給付に係る権利を承継した者

  • (審査請求ができない人の例)

・保険給付額が少ないと同情した同僚

・第三者行為災害の加害者

・療養の給付の医療費に不服がある医療機関等

・遺族補償年金の受給資格者

 

<雇用保険>

原処分を受けた者を原則としますが、必ずしも原処分を受けた者に限られるのではなく、原処分に関して法律上の利害関係を有する者は、原処分を受けた者の承諾の有無にかかわらず、審査請求をすることができます。例えば資格喪失の確認処分に不服がある場合、当該処分は当該被保険者の保険料納付に関係することから、事業主においても利害関係を有する者として、審査請求をすることができます。

 

 

◆審査請求が可能な期間◆

 

労働者災害補償保険審査官又は雇用保険審査官に対する審査請求は、処分(決定)があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内にしなければなりません。また、再審査請求は、審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内にしなければなりません。なお、「処分があったことを知った日」とは、審査請求人が処分に関する通知により原処分があったことを現実に知った日をいうのであって、抽象的にすることができる日を指すものではありません。処分に関する通知が郵送された場合は、特段の事情がない限り、それが到達した日を「原処分のあったことを知った日」として解されます。

 

◆審査請求の方法◆

 

審査請求又は再審査請求は、社会保険審査請求制度と同様、文書又は口頭ですることができます。

 

 

以上、3回に分けて審査請求制度の概説をまとめてみました。概説というだけあって、非常に抽象度が高く、堅苦しい内容となってしまったことは反省していますが、私のコラムのプロローグは書き終えたので、もやもやは解消し、そして少しばかりの達成感に浸っています。

 

次回から裁決集のご紹介を再開します。労働保険の裁決集に初挑戦です!

 

それでは、よいお年をお迎えくださいませ。

 

執筆者 岩澤

 

 

岩澤 健

岩澤 健 特定社会保険労務士

第1事業部 グループリーダー

社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!

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