TOP大野事務所コラム在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?

在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

今回も前回に引き続き、在宅勤務に関連するご相談事例を採り上げます。

 


1)在宅勤務時にPCが故障した場合等の勤怠の取り扱いをどのように考えるか

2)メンタル疾患による私傷病休職からの復職時に、「在宅勤務であれば復職可能」との主治医からの診断書が提出された場合、在宅勤務による復職を認めなければならないのか


 

1)在宅勤務時にPCが故障した場合等の勤怠の取り扱いをどのように考えるか

 

先日、次のようなご相談をいただきました。

「金曜日の在宅勤務中に業務用のPCが故障し、PCを利用しての仕事ができなくなってしまいました。当該社員は土日も労働日となっているものの、PC故障時のサポートは当日対応が不可の状況で、サポート部門は土日が休日です。金曜日のPCが故障した後について、故障後には業務が不可能な状態であったことから、働いたものと取り扱わないことができるのでしょうか。それとも、働いたものとして所定労働時間については100%の賃金を支払うべきか、あるいは60%の休業手当を支払うことで足りるのでしょうか。また、翌日と翌々日の土日はどのように考えればよいでしょうか。なお、当該社員は遠方で完全在宅勤務という状況で、近隣オフィスへの出勤も困難な状況です」というものです。

 

PCが動作しない状況であったとしても、PCを使わない別の何かしらの仕事ができるのではないでしょうか(例えば書籍等で業務に関連する情報収集を行う、紙ベースで業務フローの改善を検討するなど)。また、PCの復旧を試みるための作業時間を投入しましたといったように、労働者側から業務を行っていた旨の主張がなされた場合に、これを労働時間と認めないとする会社側からの証明は困難であると考えられることから、基本的にはその時間については100%の賃金の支払いを要するものと筆者は考えます。

 

ただし、このような事象が発生した一報を受け、速やかに会社側から休業を命じていれば、事象発生日については、(就業規則等の定めによりますが)休業手当として平均賃金の60%以上を支給することで足りると考えます。なお、現実に就労した時間に相当する賃金を支給しており、かつ、当該賃金が平均賃金の60%以上であれば、労基法上は休業手当を支払わなくとも差し支えないとされています。

 

このような事態が発生してしまった場合、まずは速やかに一報を入れてもらうことを事前に周知し、翌日以降の勤務については最寄りのオフィスへ出勤してもらうか、振替休日とするか、休業とするのか、あるいは年休の取得を促すなど、少なくともPCが故障してしまった日は賃金または休業手当を支給するのはやむを得ないものとして、翌日以降のPCの復旧までにかかる日に関しては、どのような取扱いとするかを事前に検討し明らかにしておくといった対応が考えられます。

 

なお、PCの故障に限らずネットワークの不調や周辺機器などの不具合が発生する可能性は常に一定程度あるでしょう。このような事態が生じた場合に、PCを利用せずとも業務に関連する何かしらのことができるように準備しておくのもよいかもしれません。

 

 

2)メンタル疾患による私傷病休職からの復職時に、「在宅勤務であれば復職可能」との主治医からの診断書が提出された場合、在宅勤務による復職を認めなければならないのか

 

在宅勤務が一般的となってきたことによりますでしょうか、特にメンタル疾患による休職からの復職に際して、主治医の診断書に「在宅勤務であれば復職可」、あるいは「週に◯回の在宅勤務の配慮を求める」といった条件付きの内容となっていることが増えてきているように思います。非常に悩ましいところかと思いますが、対応を検討するにあたっては、前回のコラムで述べました通り、労働条件として在宅勤務が認められているかどうかがポイントになると筆者は考えます。

 

この点、在宅勤務を許可制としている場合、そもそも出社が前提の労働条件となっており、許可した場合には在宅勤務を認めるものであるといえることから、復職に際しても、「出社を前提としているため、在宅勤務であれば復職可能という条件付きでは、会社が求める復職の要件を満たすものではない」として、復職自体が不可であると判断することは可能であると筆者は考えます。

 

ただ一方で、全ての勤務日について出社しなければならないとする必要もないのではとも思いますので、会社の考え方や個別の事案の状況に応じて、その後のスムーズな職場復帰に繋がるような形であれば、一定回数までは在宅勤務を認めるなど、臨機応変に対応することも一つの方法と考えます。

 

一方、在宅勤務を前提とした労働条件の場合には、在宅勤務を認めないとする合理的な理由を見出すことは難しいのかもしれません。従前業務が遂行できる状態に回復したのかが復職可否の判断ポイントとなるところ、復職時点では従前業務の遂行が可能と判断し復職を認めたとしても、復職後の様子を確認するために出社してもらいたいと考えるのは自然であるとは思います。ただ、従来から在宅勤務であったのであれば、主に仕事の成果を見ていくということになるかと思います。

 

つまり、復職後の在宅勤務においても、会社が求める成果が出せていれば、従前の業務をこなせていると判断し、会社が求める成果が出ていなければ、従前の業務をこなせていないことから在宅勤務を解除し、出社を求めることに合理性が見出せるのではないでしょうかと筆者は考えます。

 

とはいえ、会社には安全配慮義務が課されていますので、成果だけを見ていればよいというわけでは当然ありません。復職後に再び体調が悪くなるといった可能性も考えられるところ、無理して在宅勤務による業務をし続けた結果、健康を損なったということになれば、当然問題となります。会社の安全配慮義務が果たされていないとの訴えに繋がる可能性も考えられるところです。

 

まとめますと、復職時の条件や対応などについて、休職に入るタイミングなどの入り口部分で、復職に関する取り決めを事前に行っておくことが考えられます。完全在宅勤務の場合であっても、週に数日は出社による勤務とする、在宅勤務時には週に数回、定期的にweb面談を実施するなど、休職からのスムーズな復職および復職後の定着に向けた環境を整えることを主眼として、もしも体調不良等の様子が見られた場合には再休職等の対応を検討するなど、きめ細やかな対応をすることが、会社の安全配慮義務の観点からも肝要なのではないでしょうかと筆者は考える次第です。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

<参考URL

 

■厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html

■厚生労働省 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00005.html

 

執筆者:土岐

 

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

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