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公的年金制度の改正と確定拠出年金

こんにちは。大野事務所の深田です。

 

公的年金制度では、少なくとも5年ごとに国民年金・厚生年金の財政の現況および見通しの作成(いわゆる財政検証)が実施され、その結果を踏まえて年金制度の改正案がまとめられることとなっています。

 

2014年の年金制度改正では、年金保険料水準の上限を定めるとともに、公的年金被保険者の変動と平均余命の伸びに合わせて年金の給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」の仕組みが導入されましたが、物価や賃金の伸びがマイナスの場合にはマクロ経済スライドを発動できないルールであることなどから、これまでに発動されたのは2015年、2019年、2020年および2023年の計4回のみです。結果として、年金制度の健全な持続には少なからぬ課題を抱えている状況だといえます。

 

前回の財政検証は2019年に行われていることから、次回は来年の実施が予定されています。次回の改正に向けた動きの一つとしては、10月からスタートしたいわゆる「年収の壁・支援強化パッケージ」において、「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」(繁忙期に労働時間を延ばすなどにより収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き健康保険法上の被扶養者として認定を受けることが可能となる仕組み)がありますが、同施策についてのQ&Aでは以下のとおり言及されており、次期年金制度改正に向けたいわば繋ぎの措置であることが見て取れます。

 

今回の措置を含む「年収の壁・支援強化パッケージ」は、いわゆる「年収の壁の当面の対応として導入するものであり、さらに制度の見直しに取り組むこととしています。

制度の見直しについては、令和7年(2025年)に予定している、次期年金制度改正に向けて、社会保障審議会年金部会において議論を開始したところであり、その制度改正の内容も踏まえつつ、パッケージに係る今後の対応について検討してまいります。

 

さて、前回の財政検証を踏まえて2020529日に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」では、以下のような改正事項が盛り込まれていました。

 

①被用者保険の適用拡大

②在職中の年金受給の在り方の見直し

③年金受給開始時期の選択肢の拡大

④その他

 

①については、適用拡大の対象となる企業規模要件が段階的に引き下げられるものであり、現在は「被保険者数101人以上」であるところ、来年10月からは「同51人以上」となります。

 

②については、在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額を毎年定時に改定すること、また、64歳以下を対象とした在職老齢年金制度における年金額の調整幅が縮減されるものであり、いずれも昨年4月から施行されています。

 

③については、老齢基礎年金および老齢厚生年金の繰り下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられるものであり、こちらも昨年4月から施行されています。

 

以上は公的年金制度に関する改正点ですが、同改正法にはいわゆる私的年金である確定拠出年金(DC)についての制度改正も含まれています。当該改正は、2020年から2022年にかけて順次施行され、残る一つの改正が来年12月に控えているという状況でして、主な改正点の見出しだけ列挙すると以下のとおりです。

 

DCの運営管理機関の登録手続きの見直し(202065日施行)

iDeCo継続投資教育の企業年金連合会への委託(202065日施行)

・中小企業向け制度(簡易型DCiDeCoプラス)の対象範囲の拡大(2020101日施行)

・企業型DCの規約変更手続の見直し(2020101日施行)

iDeCoの脱退一時金の受給要件の見直し(202141日施行)

・受給開始時期の選択肢の拡大(202241日施行)

・企業型DCiDeCoの加入可能年齢の拡大(202251日施行)

・脱退一時金の受給要件の見直し(202251日施行)

・制度間の年金資産の移換(ポータビリティ)の改善(202251日施行)

・企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和(2022101日施行)

・企業型DCiDeCoの拠出限度額にDB等の他制度ごとの掛金相当額を反映(2024121日施行)

 

企業型DCの実施事業所数は、「確定拠出年金統計資料(20223月末)」(運営管理機関連絡協議会)によれば20223月末時点で42,669社となっており、20073月末時点の8,161社(同資料)と比べると5倍以上と右肩上がりで増加しています。

 

また、私的な資産形成ということでは、少額投資非課税制度(NISA)が20141月からスタートしていますが、制度の抜本的拡充・恒久化が図られ、来年1月から新しい仕組みとなることが決まっています。

<参考>NISA特設ウェブサイト(金融庁)

https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/index.html

 

年金制度や資産形成を取り巻く環境は一昔前とは様変わりしてきているといえ、年金制度と密接に関連する人口の将来見通しということでも、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が2022年は1.26と過去最低の状況であり、次回の公的年金制度の改正動向を注視していきたいと思います。

 

執筆者:深田

深田 俊彦

深田 俊彦 特定社会保険労務士

労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員

社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。

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