TOP大野事務所コラム審査請求制度の概説②

審査請求制度の概説②

こんにちは。大野事務所の岩澤です。

 

引き続き審査請求制度の概説です。前回は一般法である行政不服審査法(行審法)と特別法である社会保険、労働保険の審査請求制度の関係性を整理させていただきましたが、今回から2回に分けて社会保険、労働保険の審査請求制度の内容を掘り下げます。まずは社会保険審査請求制度です。

 

≪社会保険審査請求制度の解説≫

 

◆概要◆

 

健康保険法、国民年金法、厚生年金保険法及び船員保険法等の社会保険関連の各法に規定される特定の事項についての被保険者、被保険者であった者並びに事業主その他利害関係者の権利の救済を簡易迅速に行うため、及びこれらの各法の適正な実施を確保するために、社会保険審査請求制度は設けられています。そして、その実施機関として地方厚生(支)局に社会保険審査官が置かれ、厚生労働省に社会保険審査会が置かれています。保険者の処分に不服がある場合、まず初めに社会保険審査官に審査請求を行い、その決定に不服がある場合は社会保険審査会に再審査請求をする二審制の制度となります。

 

◆審査請求、再審査請求先◆

 

<審査請求先>

審査請求先は処分を行った保険者を管轄する地方厚生(支)局に置かれた社会保険審査官となります。具体的には、以下の通りの審査請求先となります。

 

  • ・日本年金機構及び年金事務所が行った処分(決定)

 →その日本年金機構及び年金事務所を管轄する地方厚生(支)局に置かれた社会保険審査官

 

  • ・全国健康保険協会支部及び健康保険組合が行った処分(決定)

 →その処分(決定)に関する事務を処理した全国健康保険協会支部及び健康保険組合の所在地を管轄する地方厚生(支)局に置かれた社会保険審査官

 

 ただし、実際の請求に当たっては、次の機関を経由して請求しても差し支えないこととされています。

・ 処分(決定)に関する事務を処理した全国健康保険協会及び日本年金機構等の各保険者

 

・ 請求人の居住地の全国健康保険協会及び日本年金機構等の各保険者

 

<再審査請求先>

再審査請求先は社会保険審査会となりますが、こちらは厚生労働省内に設置されています。

 

◆社会保険審査官、社会保険審査会◆

 

社会保険審査官は厚生労働省職員の中から厚生労働大臣に任命され、関係法令、通知等に精通し、積極的に事実の確認に努めることにより、当事者及び第三者の言動のみに左右されることなく、自らの判断に基づいて審査請求に対する決定を行うこととされています。

社会保険審査会は、委員長及び委員五人をもって組織され、委員長及び委員のうちから、審査会が指名する者三人をもって構成する合議体で、再審査請求等の事件を取り扱います。委員長及び委員は、人格が高潔であって、社会保障に関する識見を有し、かつ、法律又は社会保険に関する学識経験を有する者のうちから、両議院の同意を得て、厚生労働大臣が任命します。

なお、社会保険審査官が審理の結果、最終的に下す処分を「決定」といい、社会保険審査会が最終的に下す処分を「裁決」と言います。

 

◆社会保険審査官および社会保険審査会に対する審査請求等の対象◆

 

審査請求等の対象となる処分は、以下の通り限定されたものとなっています。

 

<社会保険審査官への審査請求の対象となる処分>

 

  • ・被保険者の資格に関する処分(資格取得の可否、資格継続の可否、資格喪失の可否 など)

 

  • ・被保険者の標準報酬に関する処分(標準報酬の決定・改定について、報酬(賞与を含む)の該当性など)

 

  • ・保険給付に関する処分(傷病手当金や療養の給付等の健康保険の保険給付に関する処分、厚生年金や国民年金における年金に関する処分など)

 

・国民年金の保険料に関する処分(決定)、その他国民年金法の規定による徴収金に関する処分(決定)

 

<社会保険審査会への再審査請求等の対象となる処分>

 

  • ・審査請求の決定(上記1.~4.)に不服がある場合の不服申し立て

 

  • ・健康保険・厚生年金保険法の保険料の決定、その他健康保険法、厚生年金保険法の規定による徴収金に関する処分

 

  • ・健康保険法・厚生年金保険法の保険料、徴収金の督促及び滞納に関する処分

 ※2.3.については、社会保険審査官への審査請求ではなく、社会保険審査会へ審査請求するという取り扱いとなります。

 

以上に挙げた処分以外は社会保険審査官および社会保険審査会に対する審査請求等はできません。

 

<社会保険審査官および社会保険審査会に対する審査請求等ができない処分>

具体例を示すと以下のような処分は審査請求等の対象外です。これらは一般法に位置づけられる行審法による不服申し立ての対象となります。

 

 1. 健康保険関係

   ・ 被扶養者の認定に関するもの

    ※類似の処分として第三号被保険者の処分がありますが、こちらは「被保険者の資格に関する処分」なので審査請求の対象となります。

   ・ 第三者行為による事故の求償に関するもの

 

2. 年金関係

  ・ 物価スライド特例水準に対する不服

  ・ 障害給付に係る診断書の記載内容に対する不服

    ・ 障害給付に係る現況届による等級変更がないことに対する不服

      ・ 国民年金保険料の過誤納における還付に関するもの

 

3.全般

      ・ 処分(決定) の行われていないもの

      ・ 陳情、要請(要望)に関するもの

      ・ 単に各保険者が行った処分 (決定)についての説明を求めるもの

      ・ 保険者の不作為によるもの

   ※不作為とは「しないこと」を意味します。「法令に基づく申請に対してなんら処分をしないこと」への不服は一般法である行審法による不服申し立ての対象となります。

 

◆審査請求ができる者(審査請求人)◆

 

被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者が審査請求をすることができ、これらの者は審査請求人と呼ばれて、被保険者、被保険者であった者、年金受給権者、事業主がこれにあたります。この処分に不服がある者とは直接処分を受けた者を原則としますが、必ずしも処分を受けた者に限られたものではなく、法律上の利害関係を有する者も含まれます。なお、処分をした保険者は不服申し立てをできないこととなっており、例えば、社会保険審査官が下した決定に対して健康保険組合などの保険者は社会保険審査会に再審査請求はできません。

 

◆審査請求が可能な期間◆

 

社会保険審査官又は社会保険審査会に対する審査請求は、処分(決定)があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内にしなければなりません。また、再審査請求は、社会保険審査官の決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内にしなければなりません。なお、「処分があったことを知った日」とは、①保険者が行った処分に関する通知が送達されたとき、②保険者が行った処分が法令に基づいて告示等の方法で公示されたときとされています。ただし、被保険者の資格又は標準報酬に関する処分に対する審査請求は、「処分があった日」の翌日から起算して2年を経過したときは、審査請求することができません

 

◆審査請求の方法◆

 

審査請求又は再審査請求は、文書又は口頭ですることができます。なお、口頭の場合は、面談のうえ聞き取りした内容について、聴取書を作成し、陳述者に読み聞かせを行ったうえで、陳述者とともにこれに記名、押印することが必要となり、少々手間がかかるため、文書で請求することが一般的です。

 

最後に、厚生労働省のHPに掲載されている、社会保険審査請求制度の概要が一つにまとまったフローチャートをご紹介します。

次回は、労働保険審査請求制度を解説します。

 

執筆者 岩澤

岩澤 健

岩澤 健 特定社会保険労務士

第1事業部 グループリーダー

社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.08.22 ニュース
【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.12 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
2024.11.13 大野事務所コラム
PRIDE指標をご存知ですか
2024.11.06 大野事務所コラム
AIは事務所を救うのか?
2024.11.05 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
2024.10.31 これまでの情報配信メール
賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
2024.10.30 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは③
2024.10.23 大野事務所コラム
在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
2024.10.23 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
2024.10.23 これまでの情報配信メール
令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
2024.10.16 大野事務所コラム
本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
2024.10.11 これまでの情報配信メール
令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
2024.10.09 大野事務所コラム
労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
2024.10.04 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
2024.10.02 これまでの情報配信メール
労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
2024.10.02 大野事務所コラム
女性活躍推進法の改正動向
2024.09.26 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
2024.09.25 大野事務所コラム
社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
2024.09.18 大野事務所コラム
理想のチーム
2024.09.11 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは②
2024.09.11 これまでの情報配信メール
令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
2024.09.04 大野事務所コラム
フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop