在宅勤務や在宅勤務中の中抜けは、労働者が自由にできるものなのか
こんにちは、大野事務所の土岐です。
在宅勤務等のテレワークはコロナ禍を経て、一般的となったといえるかと思います。
東京都産業労働局が2023年10月12日に公表した本年9月のテレワーク実施率の調査結果によれば、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は45.2%、テレワークの実施回数は、週3日以上の実施が44.4%とのことです。本年5月に新型コロナが感染症法の5類に移行したことなどを契機に、テレワークを廃止して原則出社とするなど、テレワークの継続と原則出社に戻すことの判断が分かれているといったニュースも目にしましたが、皆様の会社ではいかがでしょうか。
【資料出所:東京都産業労働局】
厚生労働省が公表している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(以下、ガイドライン)」では、テレワークの活用による柔軟な働き方の実現によるメリットとして、使用者には業務効率化や離職の防止・優秀な人材の確保およびオフィスコストの削減、労働者には育児や介護と仕事の両立の一助となる等の労働者にとって仕事と生活の調和を図ることが可能となるといった点が述べられているところ、そのメリット・デメリットのそれぞれを感じている方がいらっしゃるかと思います。
弊所では在宅勤務の制度がありますが、筆者はオフィス勤務と在宅勤務をうまく使い分けることによって「仕事と生活の調和」が図られ、これが年々進んでいっていることを実感しています。
さて、本日は最近筆者にいただきました在宅勤務に関するご相談の中から、次の点について考えてみたいと思います。
(1)在宅勤務することを労働者が自由に決定できるものなのか
(2)在宅勤務中の中抜けは当然に認められるのか
(1)在宅勤務することを労働者が自由に決定できるものなのか
結論から述べますと、「会社のルール次第」ということになります。
就業規則等で「会社が認めた場合に在宅勤務を可とする」といった定めとなっているのであれば、制度上は許可制となっており、労働者が自由に在宅勤務をすることができるものではなく、会社が判断できるということになります。
なお、コロナ禍においては会社の指示・要請により在宅勤務とされていたところ、このような経緯・事実から在宅勤務が労働者の当然の権利であると考える方もいらっしゃるようですが、これはコロナ禍における特例的・臨時的な対応であり、当然の権利とはいえないものと筆者は考えます。
ただし、実態として、労働者が自由裁量により在宅勤務ができる運用となってしまっているような場合には、「会社が判断する」旨の定め自体が意味をなしていないものとされるおそれがあります。こうしたことにならないよう、日頃から在宅勤務は会社の許可に基づき行うことができるものである点を周知しつつ、ルール通りに運用していくことが肝要といえます。
また、昨今はいわゆるフルリモートワークを原則としている会社様もありますので、長くそのような働き方をされていた方を雇い入れる場合には、雇用開始の入口部分で、しっかりと会社の制度を説明し、事前によく理解していただく必要があるといえるでしょう。
一方、在宅勤務に関し特段の許可は不要とされているなど、在宅勤務が労働者の自由裁量により行うことができることとされていれば、もちろん労働者の判断により在宅勤務をする・しないを決定することができます。
(2)在宅勤務中の中抜けは当然に認められるのか
在宅勤務は日常生活との境界が密接であることから、仕事と日常生活の線引きが曖昧になりかねません。この点、中抜けを認めるか否か、また、認める場合の当該時間の取り扱いについても、会社のルールの定め方次第ということになります。
【資料出所:厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインパンフレット】
ただし、フレックスタイム制適用時のフレキシブルタイムについては、「中抜けを認めないとすることはできない」点に注意が必要です。この点、ガイドラインではフレックスタイム制の適用について、次のとおり述べられています。
・一定程度労働者が業務から離れる中抜け時間についても、労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり、清算期間の範囲内で他の労働日において労働時間を調整したりすることが可能
「中抜け時間についても、労働者自らの判断により、その時間分その日の終業時刻を遅くしたり、・・・」とされている点、中抜けが当然に認められているように読めるのが気になりませんでしょうか。これは、フレックスタイム制においては始業および終業の時刻を労働者に委ねることが制度の適用要件とされていることによります。
この点、始業および終業時刻を労働者に委ねるのは、法令上それぞれ1回に限定されていませんので、フレキシブルタイム中に始業・終業を繰り返すことができるものであることから、結果として中抜けが可能であるという解釈になるというわけです。
なお、コアタイムについては業務に従事することが求められますので、中抜けを認めないとすることは可能です。ガイドラインではさらっと書いてありますので、なぜ中抜けが当然に認められるような記載ぶりとなっているのか疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれませんが、フレックスタイム制のそもそもの要件から考えてみますと、このような整理になります。
今回は以上となりますが、在宅勤務に関するその他のご相談事例に関しては、機会がありましたら当方の別のコラムで採り上げたいと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
■東京都産業労働局 テレワーク実施率調査結果をお知らせします! 9月の調査結果
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/10/12/14.html
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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