Wワークにおける「いいこと」―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉘
こんにちは。大野事務所の今泉です。
まだまだ暑いですね。
さて、私事で恐縮ですが、弊職が執筆に参画いたしました「人事部のための副業・兼業管理の実践ノウハウ」(労務行政研究所 編)が刊行されています。副業・兼業(以下、Wワークといいます。)に関しては、時間管理はもちろんですが、それ以外にもたくさんの論点(個人的には安全配慮義務が重要だと思っています。)がありますので、ぜひご一読いただければ幸いです。本書籍の内容がお役に立ったなら、とても嬉しく思います。
以前のコラムでもWワークを話題に取り上げているところ、その論点の多くは、企業側から見た人事労務「管理」についてのものとなりますが、そもそもWワークがこれほど注目を浴びるようになったのは、「働き方改革」がきっかけだったのは記憶に新しいところかと思います。
一方で、「働き方改革」では、時間外労働の上限規制という目玉もあり、片や労働時間の削減が強調され、他方では労働時間が増えることになりかねないWワークを活性化しようということになっていて、なんかチグハグというか、違和感を持たれた方もいらっしゃったのではないでしょうか。
ですが、時間外労働は罰則の対象となる違法なものと位置付けている労基法(36協定の届出により免罰効果が発生)と職業選択の自由を有する一個人の権利の実現であるWワークの促進は、そもそも比較の対象とならないように思います。
つまり、法律の要請である「時間外労働を抑制すること」によって仕事以外の時間が増えることになる結果、「では、その時間をどう使うか」と考えることになります。このときになってはじめて、一個人に認められた権利の行使である、Wワークという選択肢が現れてきます。ということで、いわば時間外労働の上限規制は、Wワークの促進の前提となるべきものとなっており、両者は矛盾するものではない、といえるでしょう。
そうとはいえ、Wワークをするには会社の承認はもちろんですが、個人としても決断が必要となります。仕事以外の時間が増えたにもかかわらず、別の仕事をするというのは、それ自体大きな決断といえそうです。例えば、親の家業を手伝う、というようにWワークをせざるを得ないという状況もあるでしょうが、多くはWワークをすることで「いいこと」があると思う、期待するから、このような選択をするのだと思います。
「いいこと」は通常メリットといわれますが、Wワークに関して以下のような図表が経産省から出されています。
これによれば、社員個人のメリットとしては、、、
○ (可処分)所得の増加
○ スキルアップ・キャリア開発
○ 自己実現
○ 創業・起業準備
というものがあるとのことのようです。
いかがでしょう?
可処分所得の増加は労働している以上当然の結果でしょうが、それのみでは「Wワークをしよう」というインセンティブにはならない気がします。上記メリットのいくつかの組み合わせをもって、Wワークに踏み出す選択をするのかもしれません。
一方、企業にとってのメリットは、、、
○ 社員のスキルアップ
○ 優秀な人材の確保
○ ブランディング
等とされています。
ブランディングというのは、例えば求職者にとって「Wワークを解禁しているかどうか」は企業選びの基準の1つになってきているようですし、また、特段Wワークをする気のない人にとっても、「柔軟な働き方」への取り組みに積極的であると評価されるかもしれませんので、そういった意味において高い認知が得られる可能性がある、ということです。
ちなみに、この書籍の執筆は私にとってWワークになるのかもしれませんが、どちらかというと日常業務の延長、という感じでした。。。
今回は刊行された書籍のご紹介(宣伝?)も兼ねて、このような内容とさせていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.08.22 ニュース
- 【正規職員・契約職員・パート職員募集】リクルート情報
- 2024.11.20 大野事務所コラム
- 介護についての法改正動向
- 2024.11.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
- 2024.11.12 これまでの情報配信メール
- 過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
- 2024.11.13 大野事務所コラム
- PRIDE指標をご存知ですか
- 2024.11.06 大野事務所コラム
- AIは事務所を救うのか?
- 2024.11.05 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
- 2024.10.31 これまでの情報配信メール
- 賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
- 2024.10.30 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは③
- 2024.10.23 大野事務所コラム
- 在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
- 2024.10.23 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
- 2024.10.23 これまでの情報配信メール
- 令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
- 2024.10.16 大野事務所コラム
- 本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
- 2024.10.11 これまでの情報配信メール
- 令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
- 2024.10.09 大野事務所コラム
- 労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
- 2024.10.04 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
- 2024.10.02 これまでの情報配信メール
- 労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
- 2024.10.02 大野事務所コラム
- 女性活躍推進法の改正動向
- 2024.09.26 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
- 2024.09.25 大野事務所コラム
- 社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
- 2024.09.18 大野事務所コラム
- 理想のチーム
- 2024.09.11 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは②
- 2024.09.11 これまでの情報配信メール
- 令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
- 2024.09.04 大野事務所コラム
- フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
- 2024.08.28 大野事務所コラム
- やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
- 2024.08.31 これまでの情報配信メール
- 「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
- 2024.08.21 これまでの情報配信メール
- 雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
- 2024.08.21 大野事務所コラム
- ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
- 2024.08.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
- 2024.08.10 これまでの情報配信メール
- 雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
- 2024.08.07 大野事務所コラム
- 1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
- 2024.08.02 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
- 2024.07.31 大野事務所コラム
- 健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
- 2024.07.24 大野事務所コラム
- ナレッジは共有してこそ価値がある
- 2024.08.01 これまでの情報配信メール
- 2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
- 2024.07.19 これまでの情報配信メール
- 仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
- 2024.07.17 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは①
- 2024.07.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
- 2024.07.10 大野事務所コラム
- これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
- 2024.07.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
- 2024.07.03 大野事務所コラム
- CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞