TOP大野事務所コラム就業規則の日本語表記を考える

就業規則の日本語表記を考える

代表社員の野田です。

 

外資系企業より「就業規則を全面英語版にしても良いか、日本語版を廃止してもよいか」といったご質問を頂きました。当該企業のご担当者としても、それは流石に無理だろうという感想でしたが、海外本社から「日本語版を作成しなければならない法的根拠があるのか」という質問を受け私の方に確認がありましたので、今回はこちらについて触れます。

 

労働基準法第9章(第89条~第93条)に就業規則という章がありますが、条文を確認しても日本語という文言は見当たりません。労働基準法関連の通達や告示も確認してみましたが、就業規則に関する日本語表記の記載は見当たりません。

労働基準法含め、日本国における全ての法律が日本語表記となっていますので、憲法や民法で日本語について触れているものがあるか確認してみましたが、どうやら該当するものは無さそうです。色々と探してみると、参議院法制局のHPで日本語について触れているページ「法律の窓、法律と国語・日本語」がありましたので紹介します。

 

こちらのページによれば、日本語表記について触れている法律はなく、日本では普遍的に日本語が使用されていることから、当然に日本語を使用しているのではないか!ということです。島国である日本は多民族国家ではなく、植民地となった歴史もないことから、日本語・国語を公用語として用いることに疑問を持たずに来ていますが、多言語圏の方々からすると日本語・標準語のみという方に違和感を覚えるのかもしれません。

更にこのページでは、「裁判所では日本語を用いる」(裁判所法(昭和22年法律第59号)第74条)という規定があるから、裁判所では日本語しか使用することができないことを紹介しています。

 

法律と国語・日本語|参議院法制局 (sangiin.go.jp)

 

質問に戻りますが、法令上日本語について言及しておらず、裁判のように日本語に限定していないとすれば、英語表記でも違法とは言えません。ただし、労基法や育介法など日本語で規定されている法令があり、これを受けて就業規則・諸規程を整備するものとなるので、日本語を無視して規定化することはできません。最近では厚生労働省のHPでも外国語版のモデル就業規則が公開されていますが、日本語版を翻訳したものでしょうから「日本語⇒外国語」という作業が発生します。そうすると表向きは外国語版であっても、その裏には日本語版が存在しているものと思われます。

 

外国人だけが所属する日本法人等で、日本語版は読みにくい、理解しにくい状況であれば、外国語版を作成し周知するだけで事足りることも事実ですが、労働条件の周知・説明という点では、外資系企業のように英語ができる日本人社員がほとんどとは言え、日本語の方が分かり易い表現やニュアンスがあれば日本語版を作成し公開すべきではないでしょうか。

 

なお、弊所では就業規則の英語翻訳を専門家に依頼していますが、その方曰く、育児介護休業規程は本当に厄介とのことです。私も実感していますが、制度が細かく複雑であり、また日本語の法令自体がくどい表現となっていることから難解な規定が多いところ、これを分かり易い英語表記にしようとすると、内容として不十分であったり、制度と異なるものになってしまったりと、翻訳家泣かせと言えます。

 

外国人採用が進むなか、個別の労働条件通知書については一定の母国語対応が可能でしょうが、就業規則・諸規程に関しては、複数の言語対応は容易ではなく限界があります。とはいえ、このような問題もAI言語により、あっという間に解決するのかもしれません。

 

以上となります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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