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方針に立ち返る

こんにちは、大野事務所の鈴木です。

 

今回は「方針」の重要性について考える機会があり、お話をさせて頂きます。

 

「方針管理」をご存知でしょうか?

品質管理の世界においては「目標管理」と併せて紹介されることが多く、目標管理については人事評価の一手法として広く知られているところです。それでは方針管理は?といいますと、具体的には『経営方針に基づき中長期経営計画を定め、それらを効率的に達成するために、企業組織全体の協力の下に行われる活動』とされています。平たく言えば、方針に沿って計画と目標を立て、組織全体で達成に向けて活動する、といったところでしょうか。勝手なイメージですが、目標は一つ一つの矢印、方針は全体の矢印であり、両者の矢印の向きは一致している方が強い推進力を生むところ、方針管理とはこの推進力のコントロールだと考えられます。

 

ビジネスパーソンにとって当たり前のことを申し上げるのも憚られますが、企業活動における一丁目一番地は「私たちは何のために活動し、何を目指しているのか?」といった経営理念や経営方針であり、それを受けて具体的な計画と目標を立て、リソースを配分し、施策を検討・実施するのが本来あるべき順序です。

何事もそうですが、例えば社労士試験に合格しようと思ったら、学習計画と具体的な数値目標を立て、学習時間を確保するために仕事を効率的に終わらせたり、記憶定着のために問題演習を反復したり、方針を念頭に置いた施策を実施する必要があります(これは私自身の反省でもあります)。

 

 

話は変わりますが、先日所用があり秋田県を訪れたときのことです。

折しも記録的大雨により秋田市内を流れる太平川が氾濫し、市中心部に大規模な冠水被害が及んだ前日、私は秋田入りしました。前日時点で大雨警報が県内全域で発出され、翌日にかけて雨足が強い状態が続いていましたが、その日は用事があり10時頃から車で出かけました。用事を済ませ帰路に就くと、市中心部で見慣れない渋滞に巻き込まれました。時刻は13時過ぎで、後から知ったのですが、既に近隣河川の氾濫発生から2時間程度が経過し、周辺地域は広範囲に冠水が進んでいるところでした。

道路沿いの駐車車両はタイヤが半分ほど水に浸かった状態で、走行車両も水溜りの走行とは言えないレベルに達しており、焦りに駆られました。冠水エリアを迂回しながら車を走らせ難を逃れましたが、事前に大雨警報を把握していたにもかかわらず外出し危うく冠水に巻き込まれそうになったこと、肝を冷やすと同時に反省したところです。

 

ところで、冠水エリア付近の店舗で親戚が一人勤めていたことを思い出し、心配になり連絡をしました。聞いたところ、朝は通常通り出勤したものの、昼前には敷地内駐車場に浸水の影響が見られはじめ、正午を待たず帰されたため無事だったとのことです。

報道によると今回の水災では避難指示の遅れが指摘されており、正午時点では当該エリアについて、自治体から避難指示や緊急安全確保は発令されていなかったようですから、現場責任者や本部の方が「状況を鑑みて、店舗を休業し従業員を帰宅させる」と判断されたのだと推測します。

 

多くの会社で災害対応時のマニュアルを整備されているかと思いますが、警報が出たら○○、特別警報が出たら××、といった客観的な指標・数値・現象に依拠している場合、非常にわかりやすいものの、それ以外の事象が起きたときに判断に迷う可能性があります。これはマニュアル全般に通じることですが、緻密に作り込まれたマニュアルは、読み手がマニュアル依存となり自主性が損なわれる懸念があるように思います。

(マニュアルに書かれていないからわからない、というクレームはその証左ではないでしょうか)

 

特に大企業においては数多のマニュアルが整備されているところ、仮にマニュアルにない状況に陥った際に、とりわけ災害対応時は状況の特殊性から、咄嗟の判断に迷う可能性も否定できません。このような場合に、例えば「まずは従業員の安全確保を最優先に!」という方針を周知徹底しておくことは、改めて重要だと感じました。ただ何となく知っているだけでは、いざというときに行動に表れません。日頃からの絶え間ない落とし込みが求められます。

 

 

災害対応時に限らず人事領域においても同じことが言えます。

採用・育成・異動・労務など、あらゆる人事施策は組織の目標を達成するために検討・実施されるものですが、その上には必ず、会社の意思として方針が存在します。「あなたは何をしているのですか?」と尋ねられたレンガ職人の話が思い出されますが、方針を理解した上での施策検討・実施は、従業員の自主性発揮や動機づけに役立ちます。

裏を返せば、方針が曖昧、あるいは日頃から周知徹底されていなければ、施策の実施自体が目標になってしまい(手段が目的化してしまい)、作業が定型化して従業員の創意工夫が一切みられなくなったり、従業員がイレギュラーに対応できなくなったりする懸念があります。

 

「人」は他の経営資源と異なり、組み合わせや配置、育成次第でパフォーマンスが大きく変わり、各人の能力や意欲、考え方や感情など、良くも悪くも計算できない部分が多分に含まれていることから、リスク(悪い面のみならず、変動の幅そのもの)の大きい経営資源であるといえます。「人」の良い面を引き出し組織の目標達成に資するためにも、ときには経営方針や経営理念といった方針に立ち返ることが大切ではないでしょうか。

なお、「人」の良い面を引き出すという点では、組織と個人の結びつきである「エンゲージメント」について、以前弊所コラムでご紹介していますので是非ご参照ください。

 

モチベーション・アップの盲点-「人と人との関係性」から人事労務を考える⑨

https://www.ohno-jimusho.co.jp/2021/03/31/20210331/

 

冒頭の話に戻りますが、方針管理は会社全体の推進力をコントロールする取り組みであり、人事部門でも経営計画達成に資する目標が掲げられ必要な人事施策が検討・実施されるところ、私たちは主に労務面で関与先様からご質問・ご相談を頂き、その検討のお手伝いをさせて頂いています。

その中で、明確に答えがあるご質問は別として、対応が複数考えられるようなご相談においては、前提として「貴社はどのような方針で、どのようにされたいか?」を確認させて頂くことがしばしばあります。

 

私自身そうなのですが、具体的な施策の検討段階ではあらゆる選択肢のメリット・デメリットを洗い出し、様々な情報を収集・分析することから、「どの選択肢がいいのか?」と頭を悩ませることになります。このとき「どの選択肢が【方針に照らして】一番いいのか?」と方針に立ち返って問い直すと、視座が高くなり検討事項が整理され判断が容易になることがあります。

 

日常業務に追われているとつい忘れがちですが、企業における全ての活動・行動・判断は、遡ると経営方針に繋がっているはずです。皆様が今されていることは、上位組織のどのような方針の下に行われていることでしょうか?また、下位組織に対してはどのように方針を展開されていますでしょうか?その方針は、会社全体で首尾一貫して、共有されていますでしょうか?

 

今回は身近に起こった水災から、方針の重要性について考えてみました。

災害時に限らず、各人が自主的判断を迫られる場面はしばしば起こり得ます。日頃より会社の意思として方針を周知徹底しておくことは労使双方にとって意義深いことだと感じましたので、ご紹介させて頂きました。

 

ご一読頂きまして、ありがとうございました。

 

 

執筆者:鈴木

鈴木 俊輔

鈴木 俊輔 特定社会保険労務士

第3事業部 グループリーダー

秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。

大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。

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