できてますか?標準化
こんにちは、大野事務所の鈴木です。
6月になりました。社労士事務所では労働保険の年度更新、社会保険の定時決定の時期に入り、最繁忙期に差し掛かります。忙しさから思考や行動が不安定となり、ミスやエラーが生じやすいところ、私も一層気を引き締めて業務にあたる所存です。ミスやエラーが生じるとリカバリーに多大なコストを要しますから、組織としても個人としても未然防止に努めるべきところ、今回は未然防止に有効な「標準化」について考えてみたいと思います。
以前、コラムでQC活動について取り上げさせて頂きました。
https://www.ohno-jimusho.co.jp/2023/02/22/20230222/
QC活動は問題解決のための活動であるところ、問題の原因を特定し、実効性の高い対策を立案・実行し、一定の成果が得られたとしても、そこで活動を終わらせてしまうと、立案・実行した対策が日常業務に定着せず、いずれ活動前の状態に戻ってしまう可能性があります。すると活動によって得られた成果が無駄になり、活動の価値も半減してしまいます。
そこで活動の成果が日常業務に定着するよう、対策・実行のプロセスを日常業務へ具体的に落とし込むステップが重要とされています。これが標準化と呼ばれるもので、物事の単純化・平準化・均一化を志向し、「誰でもできる」状態を理想とする考え方です。このステップで用いられる代表的なツールとしては、マニュアルやチェックリスト、フローチャートが挙げられます。
品質管理の世界では「品質は工程で作り込め」といった格言があり、工程(プロセス)を重視します。アウトプットのみを追求せず、むしろそれを生み出すプロセスのコントロールを重視し、ばらつきのない安定した状態を志向しますから、標準化はQC活動の本質が集約された考え方ともいえます。
QC活動に限らず、業務の標準化を図るため、新入社員や対象業務に疎い社員に向けてマニュアルやチェックリストを整備する会社様も多いかと思います。新入社員でもベテラン社員と同じようにアウトプットできる状態を目指すのは、組織としては健全なことです。ただ、「誰でもできる」ように業務や作業を具体化することは、中々根気のいる作業です。
私たちの仕事に当てはめて考えてみたいと思います。社労士の業務は社労士法の第2条に紐づいて、1号業務・2号業務・3号業務と大別されます。弊所のアウトソーシング業務(いわゆる手続業務)は1号業務・2号業務、アドバイザリー業務(いわゆる相談業務)は3号業務に該当します。
1号業務・2号業務の一例として、システムを介した申請業務が挙げられます。内容に不備があって返戻(申請の差し戻し)とならないよう、システムへの情報入力に漏れ・誤りがないか確認した上で申請を進めます。また、予期せぬ操作で申請が不着とならないよう、正しい手順でシステムを操作する必要があります。そこで社会保険の資格取得手続の申請業務を標準化するため、次のような説明を講じるとします。
『まずシステムAを開き、IDとパスワードを入力してログインします。次に従業員基本情報メニューを開き、従業員情報を入力します。次に得喪入力メニューを開き、資格取得届に係る情報を漏れなく入力します。殆どの情報は従業員情報から反映されますので、一部の情報を追加で入力し、入力内容の確認を行います。最後に電子申請メニューを開き、得喪入力メニューで作成した情報を、添付書類を付して申請します。』
この説明を聞いて、実際に申請業務を最初から最後まで遂行できる方は殆どいないであろうことは、想像に難くないかと思います。従業員情報とは?その情報はどこにあるのか?それをどこに入力するのか?殆どの情報とは?一部の情報とは?何をどのような基準で確認するのか?イレギュラーが起きた場合にどのように対応するのか?…等々、疑問が次々に浮かんできます。このように具体性に乏しい状態で業務を任せると、多くの作業者はフリーズしてしまうことでしょう。作業者が自発的に考え、行動できたとしても、アウトプットにばらつきが生じて要求水準を満たさないことが想定されますし、仮に要求水準を満たしたとしてもそれは偶然であり、再現性がありません。
実際にこのようなマニュアルが作成されることはあり得ないと思いますが、口頭説明の場面では「漏れなく、しっかり」「確認する、注意する」といった曖昧なフレーズは、つい言ってしまいがちです。伝える側は言語化を手抜きせず、相手の語彙レベルに合わせた説明となるよう、解像度を上げる努力が必要かもしれません。一方、必要以上の説明はコストに見合わないですから、相手の習熟度に合わせるといった工夫が必要であり、伝える側の腕の見せ所と言えます。
では、3号業務は標準化できるものなのでしょうか?
標準化の対義語として「属人化」が知られていますが、3号業務は特に属人化しやすい領域です。労務相談の経験・知識は基本的に担当者自身にのみ蓄積され、担当者自身の考え方と相まって属人性が強化される傾向にあります。また、これらの蓄積された経験・知識を共有し、継承することも定型化が難しく、さらにインプット側の課題をクリアしたとしても、それらが適切にアウトプットされているか効果を確認することも実際には困難です。
ただ、品質管理の考えを応用しプロセスを作り込むことで、インプットさえあれば誰でも適切にアウトプットできる状態が、実現できるのではないでしょうか。すなわち社労士事務所が3号業務を標準化し、誰でも一定のアウトプットが実現できる体制を構築することは、非常に困難ではあるものの、不可能ではないと思います。
皆様のまわりに「職場のエース」はいらっしゃいますでしょうか?
どのような組織でも「この人なら回せる、この人ならできる」という期待から、高いパフォーマンスを発揮する社員に仕事が集中する傾向があります。一流の人材はそのような環境も糧にして自ら学び、自ら育つため、組織としては手のかからない、有難い存在です。
こうしていつしか「この人がいないと回らない、この人しかできない」といった状態にまで属人化が進行します。そして万が一、その人が何らかの事情で職場から離れることとなったとき、残されたメンバーやお客様はどうなってしまうのでしょうか?皆様のまわりの「職場のエース」がいなくなったときのことを、一度想像してみてください。ちょっと想像できないな……となるようでしたら、組織・個人の両面で少しでも標準化の考え方を業務に取り入れて頂き、有事に備えて頂くとよいかもしれません。
「お前の代わりならいくらでもいる」と言うとパワハラになりかねませんが、「私の代わりならいくらでもいます」と言えるのは、組織として理想的です。私も組織の一員として「私がいなくなっても全く問題ありません」と関与先様に胸を張って言えるよう、少しずつ標準化を進め、理想を追求しているところです。
執筆者:鈴木
鈴木 俊輔 特定社会保険労務士
第3事業部 グループリーダー
秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。
大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。
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