単身赴任者の育児休業を考える
4月より代表社員(共同代表)に就任しました野田です。まだまだ若輩者ではありますが、宜しくお願いいたします。
昨年(2022年)育児介護休業法が改正され、出生時育児休業の新設、原則2回までの育児休業の分割取得が可能となりました。男性社員の育児休業取得促進を目的とした改正といえますが、これまであまり発生しなかったような事例も今後は発生するものと思われます。一例として、単身赴任者が育児休業を取得するケースが想定されますが、その際の単身赴任手当や社宅・住宅補助等の取扱いについて明確にされてますでしょうか。出生時育児休業(最大4週間)のように比較的短い期間での育児休業であれば、単身赴任手当や社宅・住宅補助について通常勤務同様の取り扱いをされるでしょうが、数カ月や1年といった長期休業となった場合について検討しておく必要があります。
まず単身赴任手当ですが、男性の単身赴任者が育児休業を取得する場合、帰省して育児を行うことになり単身赴任の状態ではなくなりますので、1か月未満の休業であれば支給額を減額する、1か月を超えるような休業の場合には不支給とすることなどが考えられます。一部の企業様では、無給の育児休業に入る前の一定期間について有給の育児休業が適用される場合がありますが、その際の単身赴任手当の支給について明確にしておく必要があります。当該取扱いについては私傷病休職も同様であり、有給の休職制度が適用される期間について規定しておくべきものと考えます。
次に住宅補助ですが、会社の命により転勤、単身赴任の状態となっており、それに伴い発生する費用補助であるため一定期間の休業が発生したからといって簡単に補助を止めることはできませんが、企業によっては当初から、2年、3年といった長期の育児休業を取得できる場合もあり、1年を超えるような休業期間であれば当該補助を休止したり、転勤自体を中断したりすることも一考です。いずれにしても取扱いに悩むところですが、単身赴任したばかりでの休業取得なのか、単身赴任終了間近での休業取得なのかによっても、社宅・住宅補助の取扱いについては判断が分かれてくる可能性があり一様に決めることが困難です。
また、海外への単身赴任者や海外からの単身赴任者が育児休業を取得するケースはどうでしょうか。
海外への赴任者については、原則として国内法である育児介護休業法の適用が除外されます。これは属地主義の考えによるもので労基法等の適用についても同様です。会社として国内勤務者同様、海外赴任者に対しても育児制度の利用を認めること自体は良いのですが、その場合に社会保険料の免除対象となるのか疑問に感じたので確認してみました。行政回答としては、原則的には法の適用対象外となるようですが法の適用に関する通則法(法適用通則法)にもあるとおり、育児休業等について国内法を適用することを規程や個別労働契約等で明確にしているような場合には、法適用対象者とのことですので免除対象となります。
一方、海外から日本国に単身赴任している外国人労働者(社保加入者)については、母国に帰国して育児休業を取得するものとなりますが、この場合でも育児介護休業法の適用対象となるため社会保険料の免除対象となります。実際に育児休業を取得するかどうかは分かりませんが、特定技能などの在留資格で就労している外国人労働者の多くは単身赴任でしょうから理屈の上ではこのとおりです。
以上となりますが、今回取り上げたのは一例であり、男性の育児休業者が増えることでこれまでは想定しなかった人事制度上の取扱いや課題、疑問点が生じるかもしれません。
以上となります。
○法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
第八条(当事者による準拠法の選択がない場合)
前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
2 前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。
執筆者:野田
野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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