一番の業務改善は「やめること」
こんにちは、大野事務所の鈴木です。
新年度を迎え、新入社員の受入や組織体制の変更で慌しくされている人事担当者様も多いかと思います。
私自身も気持ちを新たに、引き続き本年度も精進してまいります。
今回は、一番の業務改善は「やめること」 というテーマを考えてみたいと思います。
5Sという言葉をご存知でしょうか?発祥は製造業の行動規範とされていますが、すっかり一般化してご存知の方も多いかと思います。
具体的には、 整理・整頓・清掃・清潔・躾 の頭文字をとった一連の活動を指す言葉であり、それぞれの内容は次のように定義されています。
1.整理…要るものと要らないものに分け、要らないものを捨てる
2.整頓…物の場所を決め、すぐ使える状態にする
3.清掃…綺麗な状態にし、異常がないか点検する
4.清潔…綺麗な状態を維持する
5.躾…ルールを守り習慣にする
これらの行動を上から順に行い、製造現場の作業環境向上や品質管理に役立てることが、5Sの目的とされています。5Sは一連の活動ですから、上記のいずれも欠かせない要素ではありますが、特に重要と考えられるのが1段階目の「整理」です。
よく混同されがちな考え方として、「整列」があります。
本棚の整理を思い浮かべて頂きたいのですが、ぎゅうぎゅうに詰まってしまい、並びも滅茶苦茶、サイズも不揃いな本棚を、綺麗にしたい場面があるとします。このとき、本棚の本をアイウエオ順に、あるいはジャンル毎に並び替える、もしくは文庫毎・新書毎・単行本毎に揃えるだけでは、単に「整列」させただけであり、整理したとは言えません。
つまり、整理の本質とは要らないものを捨てることだといえます。本棚の整理でいえば、まずは興味のある本・持っていたい本と、興味がなくなった本・読まなくなった本を分け、後者を捨てることです。最初に場所的な余白を作り出すからこそ、2段階目以降のステップも効果的に機能する――本の並びを決めてすぐ取り出せる状態にするのも(整頓)、綺麗に掃除するのも(清掃)、その状態を維持するのも(清潔)、容易になることがご想像頂けるのではないでしょうか。
この「整理」の考え方は、本棚に限らず、仕事の場面、あるいは仕事以外の場面にも当てはめて考えることができます。例えばタスクに圧殺されるような状況、ぎゅうぎゅうに詰まったスケジュールに対する特効薬は、それらの順番を入れ替えたり、やり方を工夫したするよりも、その内の何か一つでも「やめること」だと言えます。すなわち、前段の「整理」は次のように言い換えることもできそうです。
「やること」と「やらないこと」を決め、やらないと決めたことをやめる
「やめること」の効果を間接的に実感する事例として、昨年関与先様から「年次有給休暇(以下、年休)の斉一的取り扱い」についてご相談を受けたことが思い出されます。年休の斉一的取り扱いは、従業員毎の個別付与基準日によらず、一斉付与基準日に(例えば毎年4/1に)全社員に一斉に年休を付与する、といった取り扱いのことです。
年休は本来、入社半年後を最初の付与基準日としますから、従業員によって入社日は通常異なるところ、付与基準日も社員毎に異なります。また、使用者による年休の時季指定(いわゆる年休の5日取得義務)についても、付与基準日以降の1年間を履行期間としますから、これも従業員毎に期間が異なります。
従業員が10名未満といった比較的小規模な事業場であればまだしも、50名、100名規模の事業場が年休の付与基準日や履行期間を管理するのは、例月の定例業務として相当な管理コストを要します。これらの管理業務に担当者をつけ、一定程度の時間を投下して管理業務は遂行されてきたことでしょう。また、ツールやソフトを活用することで、その業務負担は幾分軽減されてきたかと思いますが、そもそも個別管理をやめて、斉一的取り扱いに切り替えることで年休管理を簡素化したいご意向があったものと思います。
切り替えに際して、留意点はあります。例えば4/1を一斉付与基準日として3つのケースを比較します。
このように、付与基準日の繰上について大きな偏りが生じる(3/1でいえば年休付与した1ヶ月後に、再度年休付与する)ことで、違和感を覚える方もいらっしゃるかと思います。また、一斉付与基準日以前に付与された年休は、それ以降に付与された年休と、消滅時効を迎える月が異なります。このような消滅時効が異なる年休が併存する期間が2年程度続く可能性がある点についても留意する必要があります。
これらの留意点を鑑みても、関与先様におかれましては管理コストの削減効果を重視し、斉一的取り扱いを導入されたわけですが、これは「どうやって効率よく管理するか?どのようなツールで、どのように運用するか?」というより、「そもそも管理自体をなくせないか?」という視点での業務改善の取り組みとも考えられます。
人事、特に労務領域では、労働条件・配置・人員整理といった「人」に関わる課題や機微な情報を扱いますから、何事も簡単に「整理」できないのは言うまでもありません。多面的な検討を要することも多く、全てが重要なことのように見えてきます。
それゆえに「あれやこれもやっておいた方がいいのでは?」という考えになりがちで、業務が膨らむ傾向があることも否めません。そしていよいよタスクが溢れ返り、その状況が続くようであれば、一つ一つの業務自体の必要性を見直す良い機会かもしれません。
とはいえ、一般職層の業務は本人の一存でやめることができないものも多いかと思います。そんなときは自工程の業務内容を分析し、業務を細分化するのも有効です。大枠でみるとやめられない業務でも、細分化した個別の「作業」でみると、やめられるものがあるかもしれません。
また、「やめること」による影響が自工程だけでなく、前後工程や全体工程に及ぶ場合は、全体最適を考慮する必要があります。場合によっては上司に協力を仰ぎ、他工程の関係者を巻き込みながら、工程の改善を図っていくことになるでしょう。これらの調整はそれなりに骨が折れるものですが、もし何か一つでも「やめること」ができたら、自工程や工程全体の負担は、大きく改善に向かうことが予想されます。
私見ですが、これは絶対やめられないな…と思っている業務ほど、やめたときの効果は高く、そのような業務は、業務自体が当然のことのように扱われていたり、廃止の検討にあたって関係者の反発が大きかったり、やめられない理由が次々に出てくる傾向があります。ここに着眼して私自身、本年度は業務を「整理」して、何か一つでも「やめること」を目標に掲げたいと思っています。
執筆者:鈴木
鈴木 俊輔 特定社会保険労務士
第3事業部 グループリーダー
秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。
大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。
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