TOP大野事務所コラム私傷病休職と出産・育児休業の関係を考える

私傷病休職と出産・育児休業の関係を考える

パートナー社員の野田です。

 

担当先企業様より「メンタル不調により傷病休職中の社員が出産する予定ですが、産前産後休業(以下「出産休業」)や育児休業はどうなりますか」というご質問を受けましたので、今回は私傷病休職制度と出産・育児休業制度との関係について解説します。

 

〇傷病休職とは

休職制度は法令で定められたものではなく、終身雇用が基本であった時代から労働慣行的に大企業を中心に整備された制度ですが、菅野和夫先生の「労働法」では、以下のように解説されています。

 

「休職とは、最大公約数的にいえば、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働関係そのものは維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止することと定義できる。主要なものとして、傷病休職があるが、これは業務外の傷病による長期欠勤が一定期間に及んだときに行われるもので、休職期間の長さは通常、勤続年数や傷病の性質に応じて異なって定められる。この期間中に傷病から回復し就労可能となれば休職は終了し、復職となる。これに対し、回復せず期間満了となれば、自然(自動)退職または解雇となる。」

 

休職期間の差・違いはあるでしょうが、一定の欠勤期間を経て休職期間に入ることが一般的です。欠勤と休職との違いとして、休職期間は、雇用関係は維持しつつも就労を免除または禁止された期間(在籍が認められた期間)であるため、当該期間中は労働日・休日といった概念が無くなります。よって、欠勤期間中は労働日に年次有給休暇や特別休暇を取得することができますが、就労義務が免除・禁止されている休職期間中については、休暇を取得する余地がないものとなります。これについて育児休業に関するものですが、以下のような通達が出ております。

 

○育児休業制度の労働基準法上の取扱いについて(基発第七一二号)

「年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はないこと。また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協力に基づく計画付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に所要の賃金支払の義務が生じるものであること。」

 

〇私傷病休職と出産・育児休業の関係

メンタル不調により私傷病休職に入る方が年々増加しておりますが、私傷病により労務不能と診断されている者でも妊娠したり出産したりしますし、育児・養育することが可能ですので、傷病休職中の出産・育児休業の取得について疑問が生じるところです。

これについて行政資料では明確にされておりませんが、既に傷病休職中にある者が法令で定められている出産・育児休業等を取得することができる、申出があれば取得させる必要があるとされています。その際の私傷病休職の取扱いについては、会社の規定次第ということです。つまり、新たな休業等が開始されたことで、私傷病休職が中断されるのか、それとも併存するのかといった議論になります。

私が見ている多くの企業様(就業規則)では、私傷病休職期間中に育児休業等の新たな休業が発生した場合について規定されておらず中断なのか併存なのか明確ではありません。一部の企業様では、休職が中断される旨、就業規則に明記されておりますが少数派です。

前述したとおり、メンタル不調を患っていたとしても出産、育児、介護等が可能であることから、両制度が併存しても問題ない訳ですが、私傷病休職の取扱いについて明記しておく方が良さそうです。

 

〇傷病手当金と育児休業給付金の関係

傷病手当金(健康保険法)請求期間中について、出産手当金(健康保険法)を請求することは出来ませんが、傷病手当金請求期間中であっても、育児休業給付金(雇用保険法)の請求は可能となっており、給付面でも両制度の併存が認められていると言えます。なお、就業規則で私傷病休職が中断することを規定している場合でも、中断期間中に労務不能であることの医師の証明が得られれば、傷病手当金を請求することは可能です。

 

〇出産・育児休業中の休職期間満了の留意点

休職期間中の者であっても出産・育児休業を取得することができる訳ですが、出産・育児休業の取得期間中に私傷病休職の満了時期が到来するような場合に法的問題が発生することがあります。具体的には、出産・育児休業期間中に休職期間が満了となる者が復職出来ない場合、期間満了退職(当然退職)として取り扱うことが「不利益取扱い禁止」に該当しないのかということです。

均等法・育介法では、妊娠・出産・育児等を「理由とする」不利益取扱いが禁止されており、私傷病で休職となっていた者が時季を同じくして出産・育児休業を取得した場合にも、これらの規定が適用されるのかといったところですが、これに対する行政見解は、私傷病における休職期間満了退職については、妊娠・出産・育児を「理由とする」不利益取扱いには該当しない、というものです。休職期間満了時に「期間満了退職」となるか「解雇」となるかは会社の規定次第ですが、解雇の場合は、原則として不利益取扱いに該当しますし、労基法19条の解雇制限にも抵触します。

 

2022年10月より育児介護休業法が改正施行され、これまで以上に男性の育児休業者が増えてくるものと思われますが、私傷病休職者の育児休業申請についても想定しておく必要があります。

 

以上となります。

 

執筆者:野田

 

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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