有期雇用契約の運用について
こんにちは。大野事務所の深田です。
期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)を更新しないこと(いわゆる雇止め)が問題ないかどうかというご相談は少なからずお受けしますが、「一方的な雇止めは難しい」と判断せざるを得ない事案が相当数あるというのが実感です。
有期雇用契約というのは、契約期間の終期が到来すれば契約解消となる(事情によっては更新する場合がある)というのが本来の形であるわけですが、契約更新が繰り返された結果として実質的に無期雇用契約と同視し得る、あるいは、契約更新に対する労働者の合理的な期待が生じていると判断され得る状況の結果、一方的な雇止めはトラブルに繋がりかねないという次第です(関連する法令は労働契約法第19条です)。
さて、有期雇用契約に関連する事項としては、いわゆる無期転換ルールが労働契約法に基づき2013年4月から施行されていますが、同ルールが始まる前から通算契約期間の上限を設定している例は少なからず見受けられました。
無期転換ルールがスタートした当時は、この上限設定の有効性に何らか影響を及ぼすのか気になったところではありましたが、労使合意の上での契約であって社内ルールに則って厳格に運用している限りにおいては、さほど問題とはなりにくい状況にあるようには感じております。
この点、5年を超えて更新しない条件で労働契約を締結してその後雇止めされた労働者が、無期転換権の回避が目的で雇止めは無効と訴えた事案があります(横浜地裁川崎支判令3.3.30)。判決では、更新上限は直ちに違法にならないとしたうえで、労使協議で社内ルールを定めて契約期間は5年を上限としており、法の潜脱には当たらず、運用の実態も踏まえて契約更新の期待は合理的といえず、雇止めは有効とされました。
ただ、これはあくまで一つの事案です。通算契約期間に上限を設ける場合には、そもそもそのようなルールとしている趣旨・目的が明確となっている必要があると考えられます。また、雇入れ時の十分な説明、例外のない厳格なルール運用、また契約更新は更新の判断基準に則して適切に手続きを行うなどの基本的な対応が重要だといえるでしょう。
昨年12月27日には、労働政策審議会労働条件分科会による「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」が公表されました。同報告では、無期転換ルールに関連して以下のような言及がされていますので、今後の動向を注視してまいりましょう。
・無期転換申込権が発生する契約更新時に、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件について、労働基準法の労働条件明示の明示事項に追加することが適当である。
・紛争の未然防止や解決促進のため、更新上限の有無及びその内容について、労働基準法の労働条件明示事項に追加するとともに、労働基準法第14条に基づく告示において、最初の契約締結より後に、更新上限を新たに設ける場合又は更新上限を短縮する場合には、その理由を労働者に事前説明するものとすることが適当である。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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