TOP大野事務所コラム賞与を支給して年金を増額したい

賞与を支給して年金を増額したい

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

先日、私の顧問先様から次のようなご相談を受けました。

 

1.社長に賞与を支給したい

 

「社長の役員報酬(仮に年額2,000万円の12分割払だとします)から賞与を切り出して支給してあげれば将来受け取る年金額が増えると思うので、保険料の増加に対してどの程度年金が増えるのかを知りたい。」とのことです。賞与額は、厚生年金保険の1月当たりの標準賞与額の上限である150万円を想定しているとのことで、つまり、役員報酬を年額1,850万円の12分割に改めて、150万円の賞与を年1回支給した場合に、年金額と保険料がそれぞれどのように増えるのかを見たい、とのご相談でした。

 

世間一般的には、社会保険料の負担を抑えるために、むしろ賞与の支給をやめてその分毎月の報酬に加算しようと考える会社様の方が多いのではないかと思いますので、このように、保険料を負担してでも年金額を増額させようという発想にはこれまで遭遇したことがありませんでした。

 

2.年金額(報酬比例部分)の計算

 

老齢厚生年金の報酬比例部分の計算式は、総報酬制(平均標準報酬額を給与と賞与の総額で算出する方式)が導入された2003年4月以後のものを用います。

 

報酬比例部分 = 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入期間の月数

 

なお、実際には、給与や賞与が支払われた当時の物価水準等を反映した再評価率を乗じた「従前額保障の年金額」との比較が行われますが、今回は「本来水準の年金額」で試算することとします。

 

3.1年当たりの年金額(報酬比例部分)と保険料との関係

 

上記の計算式によって、厚生年金保険に1年間加入した場合の年金額(報酬比例部分)と保険料との関係を調べてみます。なお、今回は、あくまでも本人が受給する年金額と支払った保険料との関係を見ますので、事業主負担分の保険料コストは考慮に入れないこととします。

 

社長様の厚生年金保険の標準報酬月額は、最高額である65万円です。賞与の支給がなければ、平均標準報酬額はそのまま65万円となりますので、この状態で1年間加入した場合の年金額(報酬比例部分)は次の計算式で求められます。

 

1年当たりの年金額(報酬比例部分) = 65万円×5.481/1000×12 = 42,752円 …①

 

次に、標準報酬月額は65万円のままで、150万円の賞与を年1回支給した場合の年金額(報酬比例部分)を計算します。この場合の平均標準報酬額は775,000円((65万円×12+150万円)÷12)となりますので、この状態で1年間加入した場合の年金額(報酬比例部分)は次の計算式で求められます。

 

1年当たりの年金額(報酬比例部分) = 775,000円×5.481/1000×12 = 50,973円 …②

 

150万円の賞与を支給することによって、年金額(報酬比例部分)が8,221円増えました(②-①)。
150万円の賞与から徴収される厚生年金保険料(被保険者負担分)は137,250円(150万円×91.5/1000)ですので、年金を何年受給すれば保険料の額に達するのかを計算すると、16.69年(137,250円÷8,221円)との答えが出ました。仮に年金を65歳から受給する場合には、81.69歳よりも長生きすれば元が取れる計算になります。

 

4.健康保険料や介護保険料も考慮する必要がある

 

賞与を支給すると健康保険料や介護保険料も徴収されますので、損得の勘定をするのであれば、このことも考慮に入れる必要があります。と言いますのは、賞与で徴収される健康保険料や介護保険料は、被保険者への給付として還元されるものではないからです。

 

健康保険料や介護保険料の料率は保険者によって異なりますが、今回は、協会けんぽの東京支部の例(両保険を合わせた被保険者分の保険料率:57.25/1000)で計算することとします。

 

150万円の賞与を支給した場合の健康保険料と介護保険料の合計額は85,875円(150万円×57.25/1000)ですので、これに厚生年金保険料の137,250円を合わせると223,125円となります。223,125円の保険料を支払うことで8,221円の年金の増額を得たことになりますので、何年で元が取れるのかを計算すると、27.14年(223,125円÷8,221円)との答えが出ました。仮に65歳から受給する場合は、92.14歳よりも長生きすれば元が取れるということになります。

 

ご相談頂いた顧問先様に概ね以上の内容をお伝えしたところ、支払った保険料を年金で取り返すためには社長様に相当頑張って頂かなければならないとのことで、結局、賞与の支給は見送ることにしたようです。考えてみれば当然ですが、賞与に関しては、将来受け取る年金額が増えるというリターンに対して、支払う保険料の方が割高感があるということです。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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