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出生時育児休業期間中の就労

こんにちは。大野事務所の深田です。

 

育児休業制度に関する改正の第二段階である10月も近付き、これが今回の一連の法改正のメインとなりますので、最近では規程改正についてのご相談をお受けする場面も増えてまいりました。

 

10月施行分では出生時育児休業(産後パパ育休)制度の新設が大きな改正点となりますが、この制度の特徴として休業期間中に一定条件の下で就労(条文上は「就業」ですが、今回のコラムでは表記を「就労」に統一します。)が認められるということがあります。ただ、この点についてはその趣旨が十分に周知されていないようにも個人的には感じるところがあります。

 

従来からの育児休業に関していえば、休業期間中は就労義務が免除されている状態ですので、完全に休業して育児に専念するというのが本来のあり方だといえます。この点、202012月作成の厚生労働省リーフレット「育児休業中の就労について」には、「育児・介護休業法上の育児休業は、子の養育を行うために、休業期間中の労務提供義務を消滅させる制度であり、休業期間中に就労することは想定されていません。しかし、労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的にその事業主の下で就労することはできます。」とあります。このように、現行法下でも労使合意の上であくまで一時的・臨時的に就労することは可能であると解釈されているわけです。

 

一方の産後パパ育休ですが、法改正のベースとなった「男性の育児休業取得促進策等について(建議)」(労政審発1251号 令和3118日)によれば、「柔軟で利用しやすい制度として、実際に男性の取得ニーズの高い子の出生直後の時期について、現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい新たな仕組み(新制度(普及のための通称について検討))を設けることが適当である。」とした上で、「出生後8週間以内は、女性の産後休業期間中であり、労働者本人以外にも育児をすることができる者が存在する場合もあるため、労働者の意に反したものとならないことを担保した上で、労働者の意向を踏まえて、事業主の必要に応じ、事前に調整した上で、新制度に限り、就労を認めることが適当である。」とされています。

これを踏まえて改正法では、産後パパ育休期間中の就労は労使協定の締結が要件として定められ、その上で就労希望者と会社との合意に基づいて一定範囲内での就労が認められるという立て付けになっています。

このように、労働者個人の希望以前に労使協定の締結が求められていますので、会社として産後パパ育休期間中の就労を必ず認めなければならないというものではありません(産後パパ育休も育児休業の一つではありますので、労使協定が締結されていないとしても、上述のような労使合意の上での一時的・臨時的な就労は可能であると考えられます。)。

 

ところで、労使協定という点では、「厚生労働省の労使協定例では、「出生時育児休業の申出期限」の条項中に、研修の実施、育児休業の取得に関する定量的な目標や休業の意向把握の取り組みが記載されているが、これらは必須事項なのか?」というご質問をお受けすることもあります。

これらは、産後パパ育休の申し出期限である「2週間前まで」をそれよりも長く(最長で「1か月前まで」)設定しようとする場合に労使協定で定めることが必要となる事項ですので、すべての会社において必須というわけではありません。

 

更に申し上げれば、「入社1年未満の者」など制度の適用に馴染まない方を適用除外とする労使協定についても必須というわけではありませんが、こちらは大半の企業で締結されているものと思われます(ただ、労使協定に基づく適用除外を規程には定めているものの、労使協定自体を締結していないという例も少なからず目にしますので、ご注意いただければと思います)。

 

さて、話を産後パパ育休に戻しますと、産後パパ育休期間中の就労は、それを認めることで休業が取得しやすくなる場合があるという側面もあるとは思いますが、就労する上では「休業期間中の所定労働日数の半分・所定労働時間の半分」という上限があることや、給与の日割計算・時間割計算といった点での実務上の影響も少なからずあります。実際、私が知る限りでは、就労を認める方向で検討されている企業は極めて少数派であると見受けられます。

もちろん、多様な選択肢があるのは望ましいことと思いますが、育児休業に対する職場の意識が何よりも重要だといえます。いずれは男性労働者についても「え、育休取らないの?」と周りから言われるような職場環境に変わっていくことが期待されるところです。

 

執筆者:深田

深田 俊彦

深田 俊彦 特定社会保険労務士

労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員

社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。

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