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業務委託者は社会保険の適用除外者か

パートナー社員の野田です。

 

知人の税理士さんより社会保険適用について、「業務委託であれば社会保険に加入しなくて良いですよね」といった質問を受けました。確かに個人事業主などの委託事業者については、社会保険を適用させるという認識はなく、国民年金と国民健康保険に加入するものとされておりますが、「業務委託者は社会保険の適用除外者」という認識が正しいものか確認します。

なお、法令上、業務委託契約というものは存在せず、請負契約や委任契約の総称として呼ばれています。

 

  • ●被保険者の定義

被保険者について、健康保険法第31項(定義)に規定されており、以下の通りとなります。

 

(定義)

第三条 この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者は、日雇特例被保険者となる場合を除き、被保険者となることができない

一 船員保険の被保険者(船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)第二条第二項に規定する疾病任意継続被保険者を除く。)

二 臨時に使用される者であって、次に掲げるもの(イに掲げる者にあっては一月を超え、ロに掲げる者にあってはロに掲げる所定の期間を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く。)

 イ 日々雇い入れられる者

 ロ 二月以内の期間を定めて使用される者

三 事業所又は事務所(第八十八条第一項及び第八十九条第一項を除き、以下単に「事業所」という。)で所在地が一定しないものに使用される者

四 季節的業務に使用される者(継続して四月を超えて使用されるべき場合を除く。)

五 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して六月を超えて使用されるべき場合を除く。)

六 国民健康保険組合の事業所に使用される者

七 後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)第五十条の規定による被保険者をいう。)及び同条各号のいずれかに該当する者で同法第五十一条の規定により後期高齢者医療の被保険者とならないもの(以下「後期高齢者医療の被保険者等」という。)

八 厚生労働大臣、健康保険組合又は共済組合の承認を受けた者(健康保険の被保険者でないことにより国民健康保険の被保険者であるべき期間に限る。)

九 事業所に使用される者であって、その一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者(当該事業所に使用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に使用される者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該者と同種の業務に従事する当該通常の労働者。以下この号において単に「通常の労働者」という。)の一週間の所定労働時間の四分の三未満である短時間労働者(一週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い者をいう。以下この号において同じ。)又はその一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の一月間の所定労働日数の四分の三未満である短時間労働者に該当し、かつ、イからニまでのいずれかの要件に該当するもの

 イ 一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。

 ロ 当該事業所に継続して一年以上(10月以降は2か月を超えて)使用されることが見込まれないこと。

 ハ 報酬(最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について、厚生労働省令で定めるところ により、第四十二条第一項の規定の例により算定した額が、八万八千円未満であること。

 ニ 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第五十条に規定する高等学校の生徒、同法第八十三条に規定する大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。

 

本条では、被保険者について「適用事業所に使用される者(いわゆる当然被保険者)」としておりますが、当該定義に関する具体的な定めはなく、1~9号まで列挙されているのは適用除外者となります。また、我々が加入基準として認識している「4分の3基準」について第9号で触れておりますが、ここでは「労働者」と表記されており、それ以外は「使用される者」となっています。

会社との関係では、委任契約となる代表者や役員等も社会保険の被保険者となりますが、これに関しては以下の通達が出ております。

 

【法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について(昭和24728日 保発第74号)】

法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。

 

さらに、「適用事業所において使用され、労務の対償として報酬を受けている役員は常勤、非常勤を問わずにすべて被保険者として扱うのか」との問いに対し、「労務の対償として報酬を受けている法人の代表者又は役員かどうかについては、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準に判断されたい」と回答している疑義照会もあります。

 

以上から、労働者や会社役員が被保険者になることについては理解しますが、それ以外の者、つまり委任契約となっている顧問・執行役員、また業務委託契約となっている常駐型・専属型のフリーランスについては、どうでしょうか。

 

  • ●顧問・執行役員と社会保険

会社法上の役員でない顧問・執行役員といった肩書・身分の方がいらっしゃいますが、顧問・執行役員のいずれも契約形態としては、雇用型(雇用契約)と委任型(委任契約)が存在します。勤務状況も常勤者・非常勤者と様々で、雇用型である場合は「4分の3基準」に該当すれば被保険者となりますが、委任型の取扱いについては、以下の通達が参考になります。

 

【被保険者の範囲について(昭和10318日 保発第182号)】

請負業者がその事業を自己の統制管理および計算の下に遂行し企業上独立している場合は、この請負業者を事業主として取扱うべきものであるが、請負制度が労務供給上の一方法または賃金支払上の一形態と認められる場合においてはこの請負業者を事業主として取扱うべきでない(労働者であり被保険者として扱うべき)

 

【被保険者の資格について(昭和26112日 保文発第4602号)】

当該事業所と技能養成工との関係が技能の養成のみを目的とするものではなく、稼働日数、労務報酬等からみて、実体的に使用関係が認められる場合は、被保険者資格を取得させるよう取り扱われたい。

 

以上から、顧問や執行役員が委任契約や業務委託契約であったとしても、実態として使用関係が認められれば「適用事業所で使用される者」とみなされ被保険者となりますので、「業務委託であれば社会保険に加入しなくて良い」という認識は正しくありません。

 

  • ●行政調査の実態

税務上の所得区分は、就業状態(常勤・非常勤)や契約形態(委任・雇用)にかかわらず、「給与所得」「事業所得」「雑所得」など様々ですが、年金事務所の調査方法を見ていると、原則として「給与所得者」の中から社会保険の適否を判断していることが伺えます。

年金調査を経験されている方はご存知でしょうが、調査時の提出書類に「源泉所得税領収書」があり、当該書類には、給与支給総額や支給対象者総数を記載するほか、税理士等の報酬を記載する欄が設けられています。調査官は、当該書類で毎月の支給報酬額や支給対象者数の実態を把握しますので、ここに現われてこない事業所得者等については、基本的に把握・確認されません。

よって、業務委託者の報酬が事業所得で支払われている場合、社会保険の加入対象から除外されてしまいますが、給与所得で支給されている場合は、労務提供の状況次第では、社保加入の対象となり得ます。

なお、弊所で実際に扱っている非常に稀な事例として、同一人(営業職社員)が同一法人より給与所得と事業所得の2種類の報酬を支給されている方々がいらっしゃいますが、こちらについては、両所得の合計額が社会保険の算定基礎額とされております。

 

  • ●おわりに

今年10月から特定適用事業所が101人以上に拡大されます。こちらは「短時間労働者」としていることから原則的にはパート・アルバイト等の労働者が適用対象の範囲といえますが、副業・兼業が広まりつつあるなか、社保未加入を目的とした業務委託者については労働者とみなされ、行政指導の対象となる可能性がありますのでご留意ください。

以上となります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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