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職場における学び・学び直し促進ガイドライン

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

前回のコラムで触れました経済産業省の「人材版伊藤レポート(2.0)」では、人的資本経営の具体策の一つとして「リスキル・学び直しのための取組」について例を交えて述べられていました。厚生労働省では本年6月に「職場における学び・学び直しが促進ガイドライン(以下、ガイドライン)」を策定・公表しましたので、今回はこちらを採り上げたいと思います。

 

さて、ガイドラインの意義および概要はそれぞれ次の通りです。

 

【意義】

 

・ガイドラインは職場における人材開発(「人への投資」)の抜本的強化を図るため、企業労使が取り組むべき事項等を体系的に示したもの。

・企業の人的資本投資(人的資本経営)への関心が高まっている。「ガイドライン」は、「労使双方の代表」を含む公労使が参画する労働政策審議会(人材開発分科会)における検討・審議を経て、公的に初めて、その「具体的内容や実践論」の全体像を体系的に示すもの。

 

【概要】

 

 

 

【出典】 厚生労働省 職場における学び・学び直し促進ガイドライン(概要)

 

ガイドラインの【Ⅰ基本的な考え方】では、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速化など、企業・労働者を取り巻く環境が急速かつ広範に変化するとともに、労働者の職業人生の長期化も同時に進行する中で、労働者の学び・学び直し(リスキリング、リカレント学習)の必要性が益々高まっている。」とし、「…(略)…労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しを促進することが重要となる。」と述べています。

 

なぜ、自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しが求められるかという点に関しては、次の点を挙げています。

 

 ・組織・人員構成の変化やリモートワークの急速な浸透に伴う働き方の自由度の高まりによる働き方が個別化していること

 ・これによりOJTによる人材開発機能の低下をもたらす可能性があること

 ・技術革新の進展・経済活動のグローバル化による企業間競争の激化していること

 ・経済・社会環境の変化はこれまでの企業内における上司や先輩の経験や、能力・スキルの範囲を超えるものであること

 

続いて、「自律的・主体的な学び・学び直しの重要性」、「学び・学び直しにおける『協働』の必要性」が述べられています。まとめますと、その会社のビジョン・経営戦略といった基本認識を共有し、そのうえで必要とする、あるいは望まれる能力・スキルを会社側から明示し、共有するのが良いでしょう、ということです。

 

たしかに、「基本認識の共有」があってこそ、従業員側も、自身に必要となる、あるいは身に付けるべき能力・スキルは何だろうかという検討に入ることができるのではないでしょうか(自分で考えられる人は自ら進んで学んでいくのでしょうし、既に実践していると思いますが)。

近頃の「学び直し」というワードが注目されているのは、人的資本経営への注目度が高まっており、人材戦略・人材投資が重要視されているということはあろうかと思います。

ただ一方で、従業員の側にスポットを当てて考えてみますと、今後は自ら進んで学んでいく人と、そうではない人の差がますます拡がっていくことが予想され、そうならないように各自が今から準備していきましょう、意識を変えていきましょうというメッセージのようにも筆者には読み取れました。これまでは会社がある程度面倒を見てくれたのかもしれませんが、この先は、自分自身で課題・問題を認識し、解決する能力・スキルが必要になってきますよ(会社もサポートはしますけど)、といったところでしょうか。
筆者の視点がずれているのかもしれませんが、いずれにせよ従業員各人の個の能力・スキルが高まれば、結果として組織が強くなっていくという点は変わらないのではないかと思います。

 

とはいえ、従業員側のみに能力開発を任せるとなりますと、その実践は難しいのでしょう。この点についてガイドラインでは具体的に次の①~③のプロセスを踏まえて進めることが望ましいとしていますので、参考になるかもしれません(詳細はガイドラインの「Ⅱ 労使が取り組むべき事項」および「Ⅲ 公的な支援策」をご参照ください)。

 

 ①職務に必要な能力 ・スキル等を可能な限り明確化し、学びの目標を関係者で共有すること

 ②職務に必要な能力 ・スキルを習得するための効果的な教育訓練プログラムや教育訓練機会の確保

 ③労働者の自律的・主体的な学び・学び直しを後押しするための伴走的な支援策の展開

 

また、ガイドラインの「別冊」では、ガイドラインで触れている労使が取り組むべき事項に関して、厚生労働省や経済産業省などが公表している各種ツールが紹介されています。皆様の会社や各人が活用できるツールがあるかもしれませんので、以下4つを抜粋してご紹介します。

 


  • ■職業能力評価基準
    業種別、職種・職務別に仕事をこなすために必要な「知識」、「技術・技能」や「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」が整理されていて、各社ごとにカスタマイズして活用することが可能です。厚労省のホームページでは膨大な資料が掲載されておりますが、解説動画も公開されていますので、活用方法をイメージしやすいのではないかと思います。
    また、一般的に必要とされる知識等がレベル別に概ね網羅されていると思われますので、会社にとっては職務別の業務の整理や人事評価制度等の情報整理に、従業員にとっては現在自身が従事している業種を確認するだけでも、自身が対応できる業務・できない業務が可視化できると思いますので、業務の棚卸に活用できるかもしれません。

 

  • ■DXリテラシー標準
    働き手一人ひとりがDXに参画しその成果を仕事や生活で役立てるうえで必要となる、マインドスタンスや知識・スキルを示した学びの指針です。
    そもそもDXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としています。
    DXリテラシー標準」の策定のねらいとして、「働き手一人ひとりが『DXリテラシー』を身につけることで、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになる」とされており、「DXとは何か」を整理できる資料といえます。

 

ポータブルスキル(※)を測定し、それを活かせる職務、職位を提示するツールです。特に、ミドルシニア層のホワイトカラー職種の方がキャリアチェンジ、キャリア形成を進める際の使用を想定しています、とのことです。

(※)ポータブルスキルとは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのこと。

いくつかの質問に回答することで、自身の診断結果と近い5つの職務と職位が表示されます。各職務の職位に応じた職業能力目安と自身の結果がグラフで表示され、視覚的にわかりやすい診断結果となっていると感じます。ただ、質問数自体は少なく、自身の主観のみの基づいた回答からの診断結果となる点は意識しておく必要がありそうです。

 

  • ■マナビDX
    すべての社会人にとって必須スキルであるデジタルスキルに関するポータルサイト。これまでデジタルスキルを学ぶ機会が無かった人にも、新たな学習を始めるきっかけを得ていただけるよう、誰でもデジタルスキルを学ぶことのできる学習コンテンツを紹介しています。

 

以上となりますが、経済産業省では「人への投資」に関する協議会(人的資本経営コンソーシアム)を本年825日に発足し、リスキリングや副業・兼業等に関する知見の共有や学び直しの場づくりを検討していくとのことです。先進的な取り組みを行う企業の情報は大いに参考になると思いますので、資料等が公開されましたら確認していきたいと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

<参考URL

■厚生労働省 「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定しました

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_26443.html

 

執筆者:土岐

 

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

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