TOP大野事務所コラムシリーズ 経営労務とコンプライアンス(第3回)

シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第3回)

 

本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに同社の了解を得て転載するものです。

なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行ってまいります。

 

〇経営と人材マネジメント

 

1.経営のフレームワーク

会社は、広範な社会的ニーズに応え利益を獲得する営利法人として、法と社会的合意に支えられている。この枠組みは将来も経済社会の中心的役割を担うものと考えるが、現在では単に利益の確保のみならず、環境への負の影響、雇用満足度等も会社の優良度を測定する指標である。

そのために、会社は事業と組織機能とが最適になるように、職務と従業員を編成する必要がある。具体的には、財務、経理、人事、総務、製造・調達、研究・開発、営業・販売、企画、IT等の機能を適正な規模で組織化し、人材を配置し効率的な経営活動を目指す。特に現代はITによるインフラを構築し、迅速な情報共有を図る横断的なビジネス・プロセスの整備が極めて重要である。そのうえでこそ、多様で幅広く多彩な人間行動に支えられた組織活動とその経営戦略・計画の達成が可能になる。

 

経営戦略は会社成長(付加価値獲得)のみならず、人材の育成・配置・代謝などの人材マネジメントの戦略でもあり、人事諸制度と組織労働の運用戦略として考えることもできる。成長をもたらす要因である付加価値生産性の点からは、資本と組織労働の扇の要となる賃金制度について、売上高、付加価値率などの経営数値と人件費との関係を見失わないことがポイントになる。

 

2.経営戦略と人材マネジメント

人材マネジメントは、目標達成のための組織の編成・運営と人員配置全般にわたるものだが、経営活動は、より本質的には、投入資本を効果的に運営して社会的に有用な付加価値の創造を目的とするもので、この目的との関係では手段である。

手段は目的達成のためには柔軟で、必要に応じて極めて可変的であるべきだが、生きた人間が対象であるために特有の困難が伴う。この困難さが事業を成功に導くための醍醐味でもあるが、複雑化した会社経営においては、目的と手段の関係を見失わないようにすることが事業の成功のための大切な要因になる。

目的と手段の関係は一義的ではなく、ある時は手段だが他では目的となると点も考慮すべきだ。例えば、経営には人材マネジメントは手段だが、人材マネジメントには人材育成は手段となる。

変化の激しい経営環境に対応するには、事業特性と会社成長のステージに合わせた組織構造と人事制度が不可欠となる。人材マネジメントの骨格は、組織構造の設計を基礎に、人材処遇制度(役割制度、業績評価制度、報酬制度)と労使関係の2つの領域に区分できる。

 

3.人材処遇制度

人材処遇制度の基本は、役割制度、評価制度および報酬制度の3つから構成される。これらは、役割=「職務(分担業務)+職位(組織上の地位・権限)」を付与した人材を組織に配置して、達成成果を評価し、その評価に基づいた対価(報酬)を支給するというシンプルなものだ。機能的にはシンプルであるべき制度も、既得権益や人間の感情、欲求などが絡みつくことによって極めて複雑な問題を生じるので、常に原点に返って運営することが重要になる。これら3つの制度は、パラダイムの転換をするような経営環境激変の時期あたっては、設定した経営目標の達成手段として、相互に有機的にリンクして設計することが極めて重要となる。

 

4.労使関係

協業によって成立つ職場では、個別の労働力を超えて一定の秩序付けられた集団的労働力の効果的な活用が重要課題である。また経営の自立と健全性を担保するためにも、従業員の集団、団体、組織との意思疎通が不可欠である。この労使関係は、労働組合がない場合には広義の労使協議制度として労使で育成していく必要がある。

 

5.人材戦略

(1)人材:どのような経営戦略を採用し、人材マネジメントの仕組みを作っても、事業の実質を担うのは人材である。人材以外に事業を行うことはできない。人材は、組織での役割を基準にこれを大きく区分すると、次の三つに区分できる。

①経営陣(社長とこれを支える経営層)

②管理職(経営陣の下で日常業務をコントロールする管理・監督職)

③一般職(経営陣、管理職の指揮下で実務を担う一般従業員)

このうち、事業の成否に直接責任を持ち、最大の人的資源である経営陣の養成については、経営者育成戦略として別途考察されるべき事柄である。

 

(2)育成:人材戦略は、経営陣の下で「組織された労働」の担い手として、業務を遂行する管理職および一般従業員の経験の蓄積を兼ねた配属と活用の人材マネジメントを指す。仕事を通して最も効果的に人材は育つものであり、この中から将来の経営層を担う人材も育っていく。事業の実質はこれら人材の適切な組織的活動、つまり組織労働によって遂行されている。如何に特色ある事業や優れた組織構造であっても、適材を得なければ成功への道筋は難しく、逆に適材を得れば、かなりの困難も克服できる。「人材」自体が「戦略」の時代ともいえるのである。

 

この点について次回、2007年制定の米国競争力法とそれに関連する事項を見てみよう。

 

以上

 

※次回(第4回)掲載日は、3月16日を予定しております。

シリーズ

シリーズ  

 

本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。

ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。

なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.12.02 ニュース
【急募!正規職員・契約職員・パート職員】リクルート情報
2025.03.26 大野事務所コラム
労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)
2025.03.24 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
2025.03.20 これまでの情報配信メール
一般事業主行動計画の改正について 、くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
2025.03.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(後編)】
2025.03.18 ニュース
2025春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
2025.03.19 大野事務所コラム
日本法の遵守=「ビジネスと人権」に対応?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊴
2025.03.19 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率・労災保険率について
2025.03.10 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
2025.03.10 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(前編)】
2025.03.12 大野事務所コラム
私傷病休職をどのように規定すべきか
2025.03.05 大野事務所コラム
育児休業中に出向(出向解除)となった場合の育児休業給付金の取り扱い
2025.03.19 これまでの情報配信メール
育児時短就業給付金について・育児・介護と仕事の両立のための従業員研修特設ページについて
2025.02.26 大野事務所コラム
降給に関する規定整備を考える
2025.02.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(前編)】
2025.02.12 大野事務所コラム
新入社員歓迎会の帰宅途中の災害
2025.02.21 これまでの情報配信メール
出生後休業支援給付金の創設について
2025.02.06 これまでの情報配信メール
東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例について・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の支給率変更について
2025.02.05 大野事務所コラム
労働基準関係法制研究会の報告書が公表されました
2025.01.29 大野事務所コラム
「ビジネスと人権」とは周りに思いを馳せること―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊳
2025.01.24 これまでの情報配信メール
令和7年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について・SNS等を通じて直接労働者を募集する際の注意点
2025.01.22 大野事務所コラム
マイナポータル上での離職票交付サービス開始について
2025.01.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【介護と両立できる働き方とは】
2025.01.16 これまでの情報配信メール
マイナポータルにおける離職票直接送付サービス開始について
2025.01.15 大野事務所コラム
雇用保険法の改正
2025.01.14 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【労働基準監督署における定期監督等の実施結果について】
2025.01.08 大野事務所コラム
企業による奨学金返還支援制度を考える
2024.12.25 大野事務所コラム
来年はもっと
2024.12.20 ニュース
書籍を刊行しました
2024.12.20 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【労働条件の不利益変更】
2024.12.20 ニュース
年末年始休業のお知らせ
2024.12.18 大野事務所コラム
【通勤災害】通勤経路上にないガソリンスタンドに向かう際の被災
2024.12.11 大野事務所コラム
【賃金のデジタル払いの今と今後の広がりは?】
2024.12.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(後編)】
2024.12.04 大野事務所コラム
X.Y.Z―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊲
2025.01.08 これまでの情報配信メール
令和6年度年末年始無災害運動・高年齢労働者の安全衛生対策について
2024.11.30 これまでの情報配信メール
令和6年12月2日以降は健康保険証が発行されなくなります・養育期間標準報酬月額特例申出書の添付書類の省略について
2024.11.27 大野事務所コラム
産前産後休業期間中の保険料免除制度は実に厄介
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.22 これまでの情報配信メール
データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop