衛生管理者の「専属」とは
こんにちは。大野事務所の高田です。
以前(2020年9月9日)の記事にて別の執筆者が産業医の「専属」について取り上げていますが、今回は衛生管理者の「専属」について考えたいと思います。
1.「専属」とは
衛生管理者については、50人以上の事業場において1人選任する時点から「専属」であることが求められていますので(※)、産業医が「専属」であることが求められるケース(1,000人以上。一部特定業務は500人以上。)と比較しても、はるかに身近な問題だといえます。
(※)労働安全衛生規則第7条第1項第2号。ただし、2人以上選任する場合の例外があります。
この「専属」の定義については、通達(昭和27.9.20基発第675号)の中で、産業医の専属の話に触れて「その事業に専属の者とは、その事業場のみに勤務する者ということであって」と示されています。この部分については、単に一般用語としての「専属」の意味を解説しているに過ぎないのかもしれませんが、実際問題として、「専属」とは字面的にも「専ら属すること」をいうのだと思われますので、「その事業場のみに勤務しており、他の事業場には勤務していない者」を指しているのは間違いありません。
それでは、なぜ衛生管理者がその事業場に専属の者でなければならないのかについては、法律上には書かれていませんので、この点はあくまでも筆者の推測ですが、衛生管理者に課せられた様々な職務(労働安全衛生法第10条第1項各号業務のうち衛生にかかる事項)を確実に遂行するためには、その事業場に「常にいる」ことが前提として考えられているのだろうということだと思います。
2.グループ企業兼務出向者は「専属」か
この「専属」かどうかがよく問題として挙げられるのは、グループ企業での衛生管理者の選任においてです。たとえば、親会社の総務人事部門のスタッフが衛生管理者として選任されているケースにおいて、当該スタッフを子会社の総務人事部門に兼務出向させると、もはや親会社専属とはいえなくなるのか?といった話です。一口に兼務出向とはいっても兼務の形態は様々ですが、中には、親会社の事業場にいながらにして子会社の業務を遂行するケースもあると思いますし、当該出向者の業務のうち、殆どが親会社のもので、子会社の業務は僅かしかないといったケースもあると思います。これらのようなケースも含め、兼務出向の状態になると一律に「専属」ではないのかどうか、幾つかの労働基準監督署に確認してみました。結果は、私が確認した限りでは、いずれも「専属の要件を欠くので、衛生管理者として選任できない」との回答でした。
ある程度予想していた回答とはいえ、実態に照らして柔軟に判断する余地が多少はあるのではないかと期待していただけに、少々がっかりしました。確かに、「専属」の文字通りの定義に照らせばそのような結論になるのは分かりますが、たとえば親会社の業務が90%を占めていて子会社業務が10%しか占めていないようなケースでさえも、「専属」でないからといって親会社の衛生管理者を解かなければならないというのは、いくら何でも杓子定規に取り扱いすぎているのではないか?という気がするのも事実です。(さすがに、労働基準監督署に対して、そこまで極端な例を挙げて質問したわけではありませんが)
3.まとめ
なお、「専属」であることにこだわる理由が、衛生管理者の職務を遂行するためには「その事業場に常にいること」を前提としているのではないか?と申し上げましたが、それでは、パートタイマーなど労働時間が短い者や、営業スタッフなど外出が多い者の中から選任してはいけないのか?というと、これらを排除する規定は特にありません。法の趣旨に照らせば、週に2~3日程度しか出社しないパートタイマーや、外出が多く不在にしがちな者を衛生管理者として選任するのは、実際問題として妥当ではないのだろうと思います。ですが、この点、法律は特に禁止していませんので、そう考えると、ますます「専属」にこだわることの意味もよく分からなくなってくるのですが、法律ですので、そういうものだと割り切って考えることにします。
近年では、副業・兼業によって「専属」ではなくなるケースも想定されます。もし御社専属の衛生管理者の方が、副業・兼業を開始して他の事業場にも勤務することとなった場合には、副業・兼業先における労働時間の多寡にかかわらず、もはや専属の労働者とはいえなくなりますので、衛生管理者の任を解かなければならないということです。
執筆者:高田

高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.12.02 ニュース
- 【急募!正規職員・契約職員・パート職員】リクルート情報
- 2025.03.26 大野事務所コラム
- 労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)
- 2025.03.24 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
- 2025.03.20 これまでの情報配信メール
- 一般事業主行動計画の改正について 、くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
- 2025.03.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(後編)】
- 2025.03.18 ニュース
- 2025春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
- 2025.03.19 大野事務所コラム
- 日本法の遵守=「ビジネスと人権」に対応?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊴
- 2025.03.19 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率・労災保険率について
- 2025.03.10 ニュース
- 『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
- 2025.03.10 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(前編)】
- 2025.03.12 大野事務所コラム
- 私傷病休職をどのように規定すべきか
- 2025.03.05 大野事務所コラム
- 育児休業中に出向(出向解除)となった場合の育児休業給付金の取り扱い
- 2025.03.19 これまでの情報配信メール
- 育児時短就業給付金について・育児・介護と仕事の両立のための従業員研修特設ページについて
- 2025.02.26 大野事務所コラム
- 降給に関する規定整備を考える
- 2025.02.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(前編)】
- 2025.02.12 大野事務所コラム
- 新入社員歓迎会の帰宅途中の災害
- 2025.02.21 これまでの情報配信メール
- 出生後休業支援給付金の創設について
- 2025.02.06 これまでの情報配信メール
- 東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例について・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の支給率変更について
- 2025.02.05 大野事務所コラム
- 労働基準関係法制研究会の報告書が公表されました
- 2025.01.29 大野事務所コラム
- 「ビジネスと人権」とは周りに思いを馳せること―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊳
- 2025.01.24 これまでの情報配信メール
- 令和7年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について・SNS等を通じて直接労働者を募集する際の注意点
- 2025.01.22 大野事務所コラム
- マイナポータル上での離職票交付サービス開始について
- 2025.01.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【介護と両立できる働き方とは】
- 2025.01.16 これまでの情報配信メール
- マイナポータルにおける離職票直接送付サービス開始について
- 2025.01.15 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正
- 2025.01.14 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【労働基準監督署における定期監督等の実施結果について】
- 2025.01.08 大野事務所コラム
- 企業による奨学金返還支援制度を考える
- 2024.12.25 大野事務所コラム
- 来年はもっと
- 2024.12.20 ニュース
- 書籍を刊行しました
- 2024.12.20 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【労働条件の不利益変更】
- 2024.12.20 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2024.12.18 大野事務所コラム
- 【通勤災害】通勤経路上にないガソリンスタンドに向かう際の被災
- 2024.12.11 大野事務所コラム
- 【賃金のデジタル払いの今と今後の広がりは?】
- 2024.12.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(後編)】
- 2024.12.04 大野事務所コラム
- X.Y.Z―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊲
- 2025.01.08 これまでの情報配信メール
- 令和6年度年末年始無災害運動・高年齢労働者の安全衛生対策について
- 2024.11.30 これまでの情報配信メール
- 令和6年12月2日以降は健康保険証が発行されなくなります・養育期間標準報酬月額特例申出書の添付書類の省略について
- 2024.11.27 大野事務所コラム
- 産前産後休業期間中の保険料免除制度は実に厄介
- 2024.11.20 大野事務所コラム
- 介護についての法改正動向
- 2024.11.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
- 2024.11.22 これまでの情報配信メール
- データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ