仕事を手作りする・・・ジョブ・クラフティング―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑯
こんにちは。大野事務所の今泉です。2021年もあと僅かですね。
さて、このシリーズの前々回のコラムでワーク・エンゲージメントについてお話しましたが、今回はその中でご紹介した「ジョブ・クラフティング」という手法についてもう少し触れてみたいと思います。まだ馴染みの薄い概念かもしれませんが、非常に興味深いものと思います。
まず、「ジョブ・クラフティング」というネーミングからして特徴的ではないでしょうか。メイキングでもなく、クリエイティングでもなく、「クラフティング」という言葉が使われています。クラフトという言葉には職人などが手作業で何かを作るという意味合いが強いそうです。クラフトビールなんて言葉もありますよね。
手作業、というのが象徴的で、つまり仕事を手作業で作ること、というのがジョブ・クラフティングの直訳となります。ちなみに、ジョブは仕事、ワークは同じ仕事でももう少し広がりのあるイメージが強いですよね。
ポイントとしては、仕事を作る主体が誰か、ということで、ジョブ・クラフティングは自分で作るということにあり、会社や経営者が主体性をもって仕事を作り、社員に効果的に配分するというジョブ・デザインとは一線を画するところです。結果として、仕事を「やらされている」のではなく、「自分でやっている」という状態をつくり出すこと、ひいては社員の自主性を重視し、仕事に対する姿勢を変えていくこと、ということとなります。
これを説明するためによく用いられるのが、かの有名なP.ドラッカーの「3人の石工」の例え話でしょう。
あるところに、3人の石工がいました。
1人目の石工に「あなたは何をしているのか?」と尋ねると、石工は「親方の命令でレンガを積んでいる」と答えました。 2人目の石工にも同じ質問をすると、「レンガを積んで塀を造っている」と答えました。 そして、3人目の石工は、「人々がお祈りをするための大聖堂を造っている」と答えました。 |
ご存知の方も多いと思います。
同じ仕事でも、この3人目の石工のように捉えることができるか、捉えられるようにするにはどうすれば良いのか、ということがまさに「ジョブ・クラフティング」の意図するところとなります。
では、どのようにこれを実践していくか、ということですが、実は厚生労働省がワーク・エンゲージメントに関する資料の中で次のような3つの視点が重要であると述べています。
【作業クラフティング】
仕事のやり方を工夫して仕事の中身がより充実したものになるよう、仕事の量や範囲を変化させること目指します。
例えば、目標設定や優先順位をつけたスケジュール管理があり、目標達成のための優先順位が必ずしも高い訳ではなく、必要性が乏しい仕事については、
断ることで仕事の量や範囲を調整する工夫があげられる、とされます。
【人間関係クラフティング】
仕事で関わる人々との関わり方を調整することで、サポートや前向きなフィードバックをもらい、仕事に対する満足感を高めることを目指します。
例えば、職場の先輩に自らの仕事に関するアドバイスを積極的に求める工夫があげられる、とされます。
【認知クラフティング】
仕事の捉え方や考え方を工夫したり、仕事の目的や意味を捉え直したりして自分の興味関心と結びつけて考えることで、やりがいを感じながら、
前向きに仕事に取り組めることを目指します。
例えば、現在従事している自分の仕事が、自分の将来に与える意義を考えてみる工夫があげられる、とされます。
これらを踏まえた上で、会社としては社員が主体的に行動できる環境を整えてあげることが必要となってきます。第10回で取り上げました心理的安全性の確保もこれに該当するでしょう。また、第7回で取り上げましたフィードバックの充実などもそうかもしれません。逆に上司等が「仕事のやりがいをみつけなさい」とか「業務を改善しなさい」というような押しつけをすると個人の主体性の発揮が困難になるでしょう。上司等による過干渉は避けるべきでしょうし、時と場合によっては我慢することが要求されることもあると思います。
一方で個人としては、個人の主体性に主眼が置かれている以上、前向きであること、前向きであるように努めることは重要な要素でしょう。また、前回で取り上げましたレジリエンスをビルドしていくことも同様と思われます。
具体的なアプローチは、現状把握⇒分析⇒打ち手の検討⇒対策の実施⇒検証というようなスタンダードなものとなるでしょうが、上記のような要素を織り込んで進めていく、ということとなります。
一つ注意しなければならないのは、「ジョブ・クラフティング」を実施した結果、仕事が俗人化してしまわないようにすることでしょう。その人しか分からない、といったものは業務や事業の継続性に影響を及ぼすこととなります。ですので、あくまで組織と個人という俯瞰的視点を持ちつつこれに取り組むことが大事なことだと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
次回(2022年)からはまた少しテーマを変えて「人と人の関係性」から人事労務を考えていきたいと思っています。
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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