「葦とオリーブの木」・・・レジリエンスのこと―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑮
こんにちは。大野事務所の今泉です。
前回、ワーク・エンゲージメントについて書かせていただきましたが、ワーク・エンゲージメントとは(1)仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)(2)仕事に誇りややりがいを感じている(熱意)(3)仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)状態であり、これを高めるためには、それぞれの仕事の意義を再認識させることが重要ではないか、と提起させていただきました。
ただ、ワーク・エンゲージメントを維持するためには、社員個人個人の精神状態も重要といえるでしょう。ストレスフルであったり、疲弊していたのでは、ワーク・エンゲージメントどころの話ではありません。
そこで、今回は個人側にスポットをあてたいと考えていますが、まずストレス、疲弊ということとなると、メンタルヘルスという言葉が思い浮かぶかもしれません。メンタルヘルス(対策)はこれらを軽減・緩和を目的とした支援策のことですね。ここ数年、メンタルヘルス対策は、多くの会社が取り組んでいることだろうと思われます。精神衛生は労務管理の最重要課題といってもいいくらいかもしれません。この点のご相談も多くいただいています。
しかしながら、日々仕事をしている以上、どんな仕事であってもストレスがかからないということはありませんし、疲れないということもないでしょう。緩和・軽減することは可能かもしれませんが、ストレスを完全に除去すること、あるいは疲れない状況をつくり出すことは不可能だと思います。
この観点からいうと、大事なのはいかに回復するか、もしくは適応するかということだともいえます。
そこで、登場するのが「レジリエンス」という概念です。
「レジリエンス」は脆弱性の反対語で「復元力」、「回復力」、「弾力」といった意味ですが、より積極的には「自発的治癒力」などといわれたりします。中でもイメージを的確にとらえているなぁ、と感じるのが、「弾力」という言葉です。よく「心が折れる」と言ったりしますが、物質は弾力性が強ければ、折れづらいですよね。心についても同様で、レジリエンスはそういった弾力性やしなやかさを伴うものと考えています。
皆さんは「葦(あし)とオリーブの木」というイソップ童話をご存知でしょうか?次のような話です。
オリーブの木は、葦に向かってこう言いました。 「お前なんかヘナヘナで、ちょっと風が吹けばすぐにフラフラお辞儀して、まいったと言うじゃないか」 「・・・」 葦は黙ったままです。 そこへ、強い風が吹いてきました。 葦は揺さぶられ、フラフラとお辞儀させられましたが、無事に切り抜けました。 オリーブの木は、風に向かって頑張っているうちに、根元から折れてしまいました。 |
色々な例えがあるかもしれませんが、この葦のようなものがレジリエンスのイメージに近いと思っています。「耐える」というより「躱(かわ)す」という対処ですね。
ところで、レジリエンスを構築するためにアメリカ心理学会は「レジリエンスを築く10の方法」と呼ばれているものを公表しています。
①親戚や友人らと良好な関係を維持する。
②危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする。
③変えられない状況を受容する。
④現実的な目標を立て、それに向かって進む。
⑤不利な状況であっても、決断し行動する。
⑥損失を出した闘いの後には、自己発見の機会を探す。
⑦自信を深める。
⑧長期的な視点を保ち、より広範な状況でストレスの多い出来事を検討する。
⑨希望的な見通しを維持し、良いことを期待し、希望を視覚化する。
⑩心と体をケアし、定期的に運動し、己のニーズと気持ちに注意を払う。
①から⑩までのそれぞれが、それなりに難しい内容を含むものかもしれませんが、できることもあるでしょう。重要なのは、自分に合った方法を見つけることではないでしょうか。
働き方改革やDX等によって、働き方は大きく変わる可能性があります。すでにテレワークの導入などはその一端といえます。通勤の混雑から解放される等メリットはあるものの別の意味でストレスを抱えるということもあるようです。前述のとおり、これからもストレスがなくなることはないでしょう。そんなストレス社会で心身ともに健康を保つためには、「ストレッサー」にうまく対処していくことが欠かせないと考えます。ときには立ち向かうことも必要かもしれませんが、「いなす」「躱す」といったやり方もあるのではないか、と思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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