育児・介護休業法改正と産後うつ
こんにちは。大野事務所の深田です。
前回のコラムの後半でも少し触れましたとおり、6月3日に育児・介護休業法の改正法案が成立しています。改正事項の中で目玉ともいえるのが、育児休業の新たな仕組みとなる「出生時育児休業」の創設です。これは、子の出生後8週間以内において4週間以内の期間(合計28日まで)で、通常の育休とは別に取得することができる育休です。産後8週間で主に男性労働者の利用を想定していることから、「男性版産休」などと呼ばれたりもしているようです。
この出生時育休が創設された背景の一つとして、母親の産後うつ病があるとされています。産後うつ病とは「MSDマニュアル家庭版」によれば、分娩後の数週間、ときに数か月後まで続く極度の悲しみや、それに伴う心理的障害が起きている状態をいい、約10~15%の女性に発症するとのことです。また、「人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状」(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 2018年)によれば、2015年1月1日から2016年12月31日までの女性死亡例のうち、妊娠中および産後1年未満に死亡した357例では、死因の最多が自殺(102例)であり、うち産後1年未満の自殺が92例とのことです。こうしたことから、とりわけ出産直後の時期における父親のサポートが非常に重要であると考えられています。
さて、現行の育児・介護休業法ではいわゆる「パパ休暇」として、子の出生後8週間以内の期間に取得した育休は1回の育休としてカウントしない(それとは別にもう一度育休を取得することができる)とする仕組みがありますが、通常の育休が2回まで分割取得できるよう改正されることに伴い、パパ休暇に係る条文は削除されます。パパ休暇は「1か月前まで」の休業申出が必要であるところ、出生時育休は「2週間前まで」とパパ休暇よりも申出期限が緩やかになるわけですが、パパ休暇であれば出生後8週間丸々休業することもできるのに対して出生時育休は最大で28日間ですので、子の出生後の期間において従来よりも休業できる日数が少なくなるようにも見受けられます。この点につきましては、もし子の出生後8週間の期間に28日超の休業を取得したいということであれば、出生時育休ではなく通常の育休を取得すれば良いということになります。パパ休暇の場合は休業期間が出生後8週間以内であることを条件に1回の育休としてカウントしない扱いとなっていますが、育休を2回まで分割取得できるようになることで、例えば出生後10週間の育休を取得し、それとは別に子が1歳に達するまでの間でもう一度育休を取得するといったことも可能となります。なお、出生時育休も2回までの分割取得が可能ですが、分割取得しようとする場合には分割取得分も含めて最初にまとめて申し出をしなければなりません。その他、出生時育休では労使協定を締結している場合に、労働者が合意した範囲で休業中に就労することが可能であることも特長です。
現在、改正育児・介護休業法に係る省令や指針の案についてパブリックコメントが募集されており、本年9月下旬の公布・告示が予定されています。なお、出生時育休の創設、育休の分割取得に係る改正は、来年10月1日の施行が予定されています。
執筆者:深田
![深田 俊彦](https://www.ohno-jimusho.co.jp/wp-content/uploads/2023/06/partnerfukada-3.png)
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.07.03 大野事務所コラム
- CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
- 2024.06.26 大野事務所コラム
- 出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
- 2024.06.19 大野事務所コラム
- 改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
- 2024.06.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
- 2024.06.12 大野事務所コラム
- 株式報酬制度を考える
- 2024.06.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
- 2024.06.05 大野事務所コラム
- As is – To beは切り離せない
- 2024.05.29 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性②
- 2024.05.22 大野事務所コラム
- 兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
- 2024.05.21 これまでの情報配信メール
- 社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
- 2024.05.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
- 2024.05.15 大野事務所コラム
- カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
- 2024.05.10 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
- 2024.05.08 大野事務所コラム
- 在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
- 2024.05.01 大野事務所コラム
- 改正育児・介護休業法への対応
- 2024.05.11 これまでの情報配信メール
- 労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 所得税、個人住民税の定額減税について
- 2024.04.30 これまでの情報配信メール
- 現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
- 2024.04.24 大野事務所コラム
- 懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
- 2024.04.17 大野事務所コラム
- 「場」がもたらすもの
- 2024.04.10 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性
- 2024.04.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
- 2024.04.03 大野事務所コラム
- 兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
- 2024.03.27 大野事務所コラム
- 小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
- 2024.03.21 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2024.03.20 大野事務所コラム
- 退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
- 2024.03.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
- 2024.03.21 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
- 2024.03.26 これまでの情報配信メール
- 「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
- 2024.03.13 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正動向
- 2024.03.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
- 2024.03.06 大野事務所コラム
- 有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
- 2024.02.28 これまでの情報配信メール
- 建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
- 2024.02.28 大野事務所コラム
- バトンタッチ
- 2024.02.21 大野事務所コラム
- 被扶養者の認定は審査請求の対象!?
- 2024.02.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
- 2024.02.14 大野事務所コラム
- フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
- 2024.02.16 これまでの情報配信メール
- 令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等