非正規社員の60歳定年制とは
パートナー社員の野田です。前回(5/19:土岐執筆)のコラムでは、定年再雇用者の有期雇用特別措置法の適用について触れましたが、今回はこれに関連しまして60歳定年制について考えてみたいと思います。
「定年制」とは、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度をいう(「労働法」菅野和夫著)とされておりますが、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用を義務付けていることから、60歳定年制を採用している場合でも65歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度)を導入する必要があります。よって、60歳時の定年制度および65歳までの再雇用制度を導入している企業の多くは、60歳到達時に正社員としての雇用が終了し、嘱託社員やシニア社員等として再雇用(1年更新の有期契約)されるというものです。
昨今、同一労働同一賃金との関係で定年前後の働き方と処遇について注目されておりますが、現状の再雇用制度における60歳定年制は、いわゆる「正社員定年」を意味するものであり、役割、職務内容、異動の範囲などの労働条件や賃金等の処遇を見直す一つの節目といえます。
私が担当するなかには、準社員やスタッフ社員等の非正規社員についても一律60歳定年制を採用している企業様がありますが、その理由について伺ってみると、正社員が60歳以降有期契約となることから、非正規社員を65歳定年(60歳以降も無期契約)にする訳にはいかないということです。
前述のとおり正社員の場合は、正社員でなくなる、正社員を退職するという大きな節目となりますが、非正規社員の60歳定年は何を意味するのでしょうか。正社員同様、働き方や処遇を見直すキッカケとなるものであれば良いですが、雇用身分、働き方、処遇など何ら変わりがないというのが実情・実態のようです。
そうしますと前回のコラムでも触れたように、無期契約を有期契約に変更するためだけの定年制になっている場合があります。入社当初から無期雇用契約で締結されていればまだしも、無期転換申込権を行使して無期転換した者が60歳定年の規定によって再度有期契約に戻されるような場合、不合理であるように感じられます。このような運用実態での定年規定は法的に有効なものなのでしょうか。59歳で入社した正社員が60歳で定年再雇用になることと理屈のうえでは同じかもしれませんが、正社員とは事情が異なるものではないでしょうか。こういったケースにおいて法律で認められている無期転換申込権とはいったい何なのかと考えさせられます。
高齢法の改正により70歳までの就労機会の確保が努力義務となりましたが、継続雇用が大前提となるような(退職に直接結び付かない、働き方や処遇の見直しに直接結び付かないような)60歳等の定年の設定について、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.12.02 ニュース
- 【急募!正規職員・契約職員・パート職員】リクルート情報
- 2025.02.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(前編)】
- 2025.02.12 大野事務所コラム
- 新入社員歓迎会の帰宅途中の災害
- 2025.02.21 これまでの情報配信メール
- 出生後休業支援給付金の創設について
- 2025.02.06 これまでの情報配信メール
- 東京都のカスタマー・ハラスメント防止条例について・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の支給率変更について
- 2025.02.05 大野事務所コラム
- 労働基準関係法制研究会の報告書が公表されました
- 2025.01.29 大野事務所コラム
- 「ビジネスと人権」とは周りに思いを馳せること―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊳
- 2025.01.24 これまでの情報配信メール
- 令和7年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について・SNS等を通じて直接労働者を募集する際の注意点
- 2025.01.22 大野事務所コラム
- マイナポータル上での離職票交付サービス開始について
- 2025.01.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【介護と両立できる働き方とは】
- 2025.01.16 これまでの情報配信メール
- マイナポータルにおける離職票直接送付サービス開始について
- 2025.01.15 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正
- 2025.01.14 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【労働基準監督署における定期監督等の実施結果について】
- 2025.01.08 大野事務所コラム
- 企業による奨学金返還支援制度を考える
- 2024.12.25 大野事務所コラム
- 来年はもっと
- 2024.12.20 ニュース
- 書籍を刊行しました
- 2024.12.20 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【労働条件の不利益変更】
- 2024.12.20 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2024.12.18 大野事務所コラム
- 【通勤災害】通勤経路上にないガソリンスタンドに向かう際の被災
- 2024.12.11 大野事務所コラム
- 【賃金のデジタル払いの今と今後の広がりは?】
- 2024.12.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(後編)】
- 2024.12.04 大野事務所コラム
- X.Y.Z―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊲
- 2025.01.08 これまでの情報配信メール
- 令和6年度年末年始無災害運動・高年齢労働者の安全衛生対策について
- 2024.11.30 これまでの情報配信メール
- 令和6年12月2日以降は健康保険証が発行されなくなります・養育期間標準報酬月額特例申出書の添付書類の省略について
- 2024.11.27 大野事務所コラム
- 産前産後休業期間中の保険料免除制度は実に厄介
- 2024.11.20 大野事務所コラム
- 介護についての法改正動向
- 2024.11.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
- 2024.11.22 これまでの情報配信メール
- データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ
- 2024.11.12 これまでの情報配信メール
- 過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
- 2024.11.13 大野事務所コラム
- PRIDE指標をご存知ですか
- 2024.11.05 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
- 2024.10.31 これまでの情報配信メール
- 賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
- 2024.10.30 大野事務所コラム
- 通勤災害における通勤とは③
- 2024.10.23 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
- 2024.10.23 これまでの情報配信メール
- 令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
- 2024.10.16 大野事務所コラム
- 本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
- 2024.10.11 これまでの情報配信メール
- 令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
- 2024.10.09 大野事務所コラム
- 労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
- 2024.10.04 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
- 2024.10.02 これまでの情報配信メール
- 労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
- 2024.10.02 大野事務所コラム
- 女性活躍推進法の改正動向