心理的安全性について-「人と人との関係性」から人事労務を考える⑩
大野事務所の今泉です。今年は昨年に引き続きステイ・ホームを余儀なくされたゴールデン・ウィークでした。安全のため、ある程度の我慢は致し方ありませんね。
さて、同じ安全でも今回は心理的安全性という言葉を取り上げ、従業員エンゲージメントとの関連についてお伝えしようと思います。
心理的安全性というと「Google社のプロジェクトアリストテレスが云々・・・」といった記載をよく見かけますが、この概念自体はそれ以前から提唱されていました(エイミー・C・エドモンドソン教授による。)。すなわち、心理的安全性とは「チームにおいて、他のメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰を与えるようなことをしないという確信をもっている状態」のことであり、「チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」とされます。
「そう言われればそうだよな」と、むしろ当たり前のことのようにも思えますが、このことを体系化することで明らかにし、これを整備するメリットを掲げ、これに配慮しないデメリットを論じたことには大きな意味があると思います。
他人に拒絶される、あるいは罰を与えられる、というのはハラスメントに対する課題と親和性を感じますが、「こんなこと言ったら恥ずかしい思いをするのではないか」とおそれ、発言を控えるようなことにならない状態、ということを打ち出した点に個人的には着目します。このような安全状態をつくり出すことで議論を活発にする効果をもたらすことから、心理的安全性はイノベーションの観点から語られることが多いかもしれませんが、従業員エンゲージメントにも好影響をもたらす、ということも容易に理解できます。
なお、対人リスクとは次のようなものとされていて、やはり「恥ずかしい」ということと深く関連しているように思います。
(1)無知だと思われる不安
(2)無能だと思われる不安
(3)ネガティブだと思われる不安
(4)邪魔をする人だと思われる不安
このようなことに鈍感な人は「空気を読まない」と言われそうなものだと思いませんか。ただ、ときには空気を読むことも大切かもしれませんが、空気を読むことに終始してしまっては新しく柔軟な発想は生まれ出てきませんよね。つまり、心理的安全性は上記のようなリスクをテイクしても大丈夫という安心感をもたらし、発言することを自ら抑制しなくとも問題ない、むしろ積極的な意見交換ができるという環境をつくり出す上でポイントとなるもの、ということになります。
これが図れているかどうか、提唱者であるエドモンドソン教授は次のようなチェックリストを用意していますので、ご参考まで。
ところで、この言葉が注目されている背景としては、心理的安全性が確保されていない組織が多いという実態があるから、といえるの
ではないでしょうか。それは職場であったり、チーム運営であったり、会議でもそうでしょう。現実の裏返しということですね。
どうしても組織の中にはパワーバランスが生じます。この関係は職制のような組織上の上下関係によって当然決まると考えられますが、それ以外にも、発言力のある人が組織運営のカギを握ることになったりします。会議を例にとると「発言する人はいつも限られている」、といった状況は往々にしてあることです。
しかしながら、これは決して悪いこととまではいえないでしょう。発言するということは課題にどう取り組むか、ということを自分事として考えているということでもあります。むしろ、会議に参加しているメンバー全員が課題を自分事として考え、積極的な意見交換ができることが望ましい。
そこで、このような状態をつくり出すためのアイデアや手法は様々なものが紹介されていますが、最も重要なことは「否定しない」ことだと思います。
実は他人の発言や意見をはなから否定する人というのは、「思い込み」や「先入観」に囚われていることが往々にしてあります。
「思い込み」や「先入観」がコミュニケーションを阻害する要因であることはこのコラムの第2回で述べました。
例えば、会議を行う上では「他人の意見を否定しない」というルールをまず宣言し、「思い込み」や「先入観」を排除することまでをチームの共通認識としてしまうのが良いと考えます。仮に否定的発言があったとした場合ですが、職制の最も高いメンバーがその場で修正する等、一定の配慮が必要となるでしょう。その上で、均等に発言機会を与えるとか、発言していないメンバーに「いまの意見はどう思う?」など振ってみる等してチームメンバーの意見をうまく引き出せるように工夫すると、なお良いかもしれません。
あともう一つ重要なこと。
それは、心理的安全性という概念は前述したように「対人リスクをテイクする」ということが念頭に置かれているということです。あくまでも積極的な意見交換が行われることが前提となっている、ということをしっかり認識しておかないと、単に居心地が良いというだけの「ゆるゆる」な組織となってしまうわけです。
今回は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者:今泉
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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