TOP大野事務所コラム兼務出向時の労働保険料の考え方は?

兼務出向時の労働保険料の考え方は?

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

4月に入り、新年度となりました。労働保険(労災保険、雇用保険)の保険料に関しても、4月から翌3月の1年を単位として計算されることになっており、労災保険はすべての労働者、雇用保険は被保険者に対して支給された賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定することになっているのは皆さんご存じのとおりかと思います。

この労働保険料の申告・納付は原則として6/17/10までとなりますが、これから集計を始める、あるいは既に集計を進めている会社様も多いのではないでしょうか。

 

さて、労災保険料の算定に際して、出向者にかかる賃金は、出向元で賃金を支給している場合であっても労務提供先たる出向先において計上することとなり、出向元では当該出向者にかかる賃金は除いて算定することになるのは注意点の一つなのですが、今回のコラムでは、兼務出向(以下【図】参照)の場合の取り扱いについて取り上げます。

 

 

■労災保険について

 

お客様より、「労災保険料の算定にあたって、本務出向先および出向元(以下、本務出向先等)と兼務出向先の業務割合に応じた賃金をそれぞれ計上することでよいか」といったご質問をいただくことがあります。

 

労災保険料の話の前に、まずは出向者の労災保険の適用について話を整理しましょう。

通達(昭35.11.2基発932号)によれば、

(略)出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること。」

とされています。加えて、

「出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、…(略)…出向先事業主が、当該金銭給付を出向先事業の支払う賃金として、…(略)…賃金総額に含め、保険料を納付する旨を申し出た場合には当該金銭給付を出向先事業から受ける賃金とみなし、当該出向労働者を出向先事業に係る保険関係によるものとして取り扱うこと。」

とされています。

 

したがって、それぞれの労務提供先において労災保険の適用を受けることとするためには、それぞれの労務提供先において賃金を計上しておく必要がある、ということになります。

なお、労災事故が発生してしまった場合には、原則として事故発生時の労務提供先の労災保険を適用することとなりますが、事故の原因がいずれの労務提供先の業務なのかが明らかでない場合には、労働基準監督署が決定することになります。

 

では次に、本題の労災保険料の話です。結論からお伝えしますと、「出向契約等において定められた、本務出向先等および兼務出向先の労働に対するそれぞれの賃金を計上する」ということになります。

 

具体例として、本務出向先等と兼務出向先の労働に対して合計100万円の賃金を受ける労働者がいた場合に、労働に対する賃金および業務割合は次のとおりだったとします。

 

 ・労働に対する賃金

 ⇒ 本務出向先等:兼務出向先 = 80万円:20万円

 

・実際の業務割合

 ⇒ 本務出向先等:兼務出向先 = 82

※出向契約書等には上記の賃金額が明確に示されているものとします

 

この例では業務割合と賃金の割合がイコールとなっていますので、冒頭のご質問にあるとおり、結果として「業務割合に応じた」労災保険料を計上し、納付することになる、というわけです。仮に、実際の業務割合が「64」であったとしても、「賃金」という観点からは本務出向先等では80万円を、兼務出向先では20万円が算定対象となる、ということですね。

このように、「業務割合」という観点ではなく、「それぞれの労務提供先における労働に対する賃金」という観点で計上するということです。

 

以上は私が行政当局へ確認した内容なのですが、この取扱いは通達等で明文化されたものではないものの、行政内部の取扱いとして確立しているものである、ということでした。

 

ただ、上記のとおりにそれぞれの労務提供先の労働に応じた賃金額の詳細までを確認し、計上するのは事務処理上非常に煩雑といえるでしょう(例えば残業手当に関していえば、いずれの労務提供先の残業手当になるのかを明らかにしておくことが挙げられます)。

この点、「便宜的に業務割合に応じて」算定を行なっているのがおそらく実際のところであり、行政当局も細かいところまでは現実的に確認しきれないのではないでしょうか。

(※なお、海外派遣者に関する労災保険の特別加入については、申請した「給付基礎日額」に基づき保険料が決定します。)

 

■雇用保険について

 

雇用保険の適用に関してはいたってシンプルで、「主たる賃金を受ける適用事業所においてのみ被保険者」となります(雇用保険に関する業務取扱要領)。

したがって、出向元で賃金を受ける場合には出向元で、本務出向先等および兼務出向先のそれぞれから賃金を受ける場合には、いずれかの主たる賃金を受ける適用事業所において被保険者となり、当該適用事業所の賃金総額に計上し、保険料を算定することになります。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

執筆者:土岐

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.12.02 ニュース
【急募!正規職員・契約職員・パート職員】リクルート情報
2024.12.04 大野事務所コラム
X.Y.Z―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊲
2024.11.30 これまでの情報配信メール
令和6年12月2日以降は健康保険証が発行されなくなります・養育期間標準報酬月額特例申出書の添付書類の省略について
2024.11.27 大野事務所コラム
産前産後休業期間中の保険料免除制度は実に厄介
2024.11.20 大野事務所コラム
介護についての法改正動向
2024.11.14 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【未払い賃金請求権と時効期間】
2024.11.22 これまでの情報配信メール
データでみる70歳以上の定年・継続雇用制度の導入効果と工夫、大野事務所モデル規程・協定一部改定のお知らせ
2024.11.12 これまでの情報配信メール
過重労働解消キャンペーン、2024年12月からの企業型DCおよびiDeCoの変更点について
2024.11.13 大野事務所コラム
PRIDE指標をご存知ですか
2024.11.06 大野事務所コラム
AIは事務所を救うのか?
2024.11.05 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(中編)】
2024.10.31 これまでの情報配信メール
賃金のデジタル払い、令和7年3月31日高年齢者雇用確保措置における経過措置期間の終了について
2024.10.30 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは③
2024.10.23 大野事務所コラム
在籍出向者を受け入れる際の労働条件の明示は出向元・出向先のいずれが行うのか?
2024.10.23 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【職場や外出先への移動時間は労働時間に該当するか】
2024.10.23 これまでの情報配信メール
令和6年年末調整における定額減税に関する事務・簡易な扶養控除等申告書について
2024.10.16 大野事務所コラム
本当に「かぶ」は抜けるのか―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊱
2024.10.11 これまでの情報配信メール
令和6年版労働経済の分析(労働経済白書)について
2024.10.09 大野事務所コラム
労働者死傷病報告等の電子申請義務化について
2024.10.04 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【年次有給休暇の付与や取得等に関する基本的なルールと留意点(前編)】
2024.10.02 これまでの情報配信メール
労働者死傷病報告の報告事項改正及び電子申請義務化について
2024.10.02 大野事務所コラム
女性活躍推進法の改正動向
2024.09.26 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社会保険の適用が拡大されます】
2024.09.25 大野事務所コラム
社会保険の同月得喪と2以上勤務を考える
2024.09.18 大野事務所コラム
理想のチーム
2024.09.11 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは②
2024.09.11 これまでの情報配信メール
令和6年度地域別最低賃金額の改定状況について・大規模地震の発生に伴う帰宅困難者等対策のガイドラインについて
2024.09.04 大野事務所コラム
フレックスタイム制適用時における年次有給休暇の時間単位取得と子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得
2024.08.28 大野事務所コラム
やっぱり損はしたくない!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉟
2024.08.31 これまでの情報配信メール
「健康保険資格情報のお知らせ及び加入者情報」の送付、マイナンバーカードの健康保険証利用について
2024.08.21 これまでの情報配信メール
雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更・令和7年4月1日以降の高年齢雇用継続給付の段階的縮小について
2024.08.21 大野事務所コラム
ライフプラン手当のDC掛金部分を欠勤控除の計算基礎に含めてよいのか?
2024.08.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【減給の制裁における労働基準法の制限】
2024.08.10 これまでの情報配信メール
雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績について等
2024.08.07 大野事務所コラム
1か月単位の変形労働時間制における時間外労働の清算
2024.08.02 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【管理監督者の適正性】
2024.07.31 大野事務所コラム
健康情報取扱規程の作成は義務⁈②
2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.08.01 これまでの情報配信メール
2024年 企業の「人材確保・退職代行」に関するアンケート調査 カスタマーハラスメント対策企業マニュアルと事例集
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop