TOP大野事務所コラム「人と人との関係性」から人事労務を考える⑦

「人と人との関係性」から人事労務を考える⑦

こんにちは。大野事務所の今泉です。自身にとって2021年最初の投稿となります。

引き続き「人と人との関係性」をキーワードに、ネタが尽きるまで()人事労務にまつわる話題を考えていきたいと思います。

今年もよろしくお願いいたします。

 

さて、今回の話題ですが、多くの会社では社員の昇給、昇格あるいは賞与を決定するにあたり、人事評価を行っていると思います。その際、面談を通して人事評価の結果を伝えることを行う機会を設けている場合もあるでしょう。

 

いわゆるフィードバックですね。

 

フィードバックという言葉は多方面にわたり使用される言葉であり(もともとは「制御工学」という分野の言葉だそうです。)、これからお話しする意味でのフィードバックも様々な定義がありますが、ここでは『ある行動に対する客観的な情報や意見を具体的に伝えることを通じて行動者に振り返りの機会を与えること』とします。

 

人事評価に対するフィードバックでは、その結果を単に伝えるだけでなく、人材育成のために行動に対する内省を促したり、結果を導くための解決方法を考えさせたりすることを目的として行われます。また、いわゆる目標管理(Management by Objective)において、定めた目標に正しく到達できるように、ときには軌道修正することを目的としてフィードバックが行われることもあります。このケースでは設定された目標の達成や成果を挙げるために用いられます。人材育成というよりは、パフォーマンス向上のためにフィードバックが活用されているといえるでしょう。

 

さらにフィードバックは、モチベーション向上にも効果的といわれています。つまり、対象者の望ましいと思われる行動を具体的に伝達し対象者に振り返りの機会を与えることで、自己効力感を高めることができる、ということです。

 

『自己効力感』というのは難しい言葉ですが、課題に直面したとき「自分がその行動をとれるのかどうか」という能力に対する自己評価のことをいいます。似た言葉で自己肯定感というものがありますが、こちらは「ありのままの自分を認め受け入れる感情」のことをいい、自分という存在そのものに対する評価のことをいいます。

自己効力感が高まると「自分でもできる!」というポジティブな感情が醸成され、実際に何らかの遂行行動が達成されることもあわせてモチベーションが高まる、というわけです。

 

この自己効力感ですが、これを高めるには、次のような4つの要因が必要とされています。

 

誰しも褒められれば嬉しいのは当然ですが、フィードバックは「客観的な情報や意見を具体的に伝えることを通じて」ということですので、褒めること≠フィードバックということになります。褒めることは、ときに印象論となってしまいがちですので、その点が異なるといえるでしょう。

 

では、このモチベーションを向上させるためのフィードバックをどのように行うか、ということですが、詳細は専門書に譲るとして、ここでは二つほど重要と考えているポイントを上げます。

 

まず一つ目ですが、フィードバックする「タイミング」です。

人は記憶したことをどのくらいのスピードで忘れていくか、という実験についてはご存知の方も多いかもしれませんが、1時間後には概ね50%、24時間後には70%、1か月経過後にはほとんど忘れてしまっている、というエビングハウスの忘却曲線は有名ですね。

 

つまり、とある望ましい行動があった場合に、それを1週間後にフィードバックしても当の本人がその行動を忘れてしまっていることがあるわけです。ですので、望ましい行動があれば、それに反応する形でフィードバックすることが最も効果的、ということとなります(「リアルタイムフィードバック」と呼ばれることもあります。)。“鉄は熱いうちに打て”ということです。

 

二つ目は「誰がフィードバックを行うか」ということです。

通常フィードバックは上司から部下へ行うものというイメージがありますが、モチベーション向上のためのフィードバックは上司から部下に限定する必要はないと思います。むしろ同僚間でこの様なコミュニケーションがとれれば、職場環境の改善も期待できるのではないでしょうか。

 

褒めること≠フィードバックということではありますが、フィードバックを行うこと自体に技術が必要でしょうし、実行するのが難しいと感じるということであれば、まずはお互いを褒めるということことから始めてみる、というのも一つの方法かもしれません。

 

今回の話題は以上です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

執筆者:今泉

 

今泉 叔徳

今泉 叔徳 特定社会保険労務士

パートナー社員

群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
2024.06.26 大野事務所コラム
出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
2024.06.19 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
2024.06.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
2024.06.12 大野事務所コラム
株式報酬制度を考える
2024.06.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
2024.06.05 大野事務所コラム
As is – To beは切り離せない
2024.05.29 大野事務所コラム
取締役の労働者性②
2024.05.22 大野事務所コラム
兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
2024.05.21 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
2024.05.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
2024.05.15 大野事務所コラム
カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
2024.05.10 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
2024.05.08 大野事務所コラム
在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
2024.05.01 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応
2024.05.11 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
所得税、個人住民税の定額減税について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
2024.04.24 大野事務所コラム
懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
2024.02.28 これまでの情報配信メール
建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
2024.02.28 大野事務所コラム
バトンタッチ
2024.02.21 大野事務所コラム
被扶養者の認定は審査請求の対象!?
2024.02.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
2024.02.14 大野事務所コラム
フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
2024.02.16 これまでの情報配信メール
令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop